11月は冬コミ原稿に加えて紅楼夢お礼SSやらGCR二次創作やらで忙しくなること確定なので、10月のうちに紅楼夢戦利品レビューはできるかぎり進めておきたい。
・阿求とニ三シリーズ総集編③ 心に名前を付けるなら(涼来来!)
 文車妖妃の少女「ニ三(ふみ)」と阿求の「カゾクのカタチ」を描いたシリーズ、今回めでたく3冊目の総集編となりました。今回は過去作4本に加えて書き下ろし1本の5本が収録されています。
 それでは収録作品ごとに感想を。
・童話作家!? アガサクリスQ
 阿求が「アガサクリスQ」のペンネームでミステリー小説を書いていることは読者には周知の事実ですが、二三や小鈴はそのことを知りません。阿求は、幼い二三が自分が書いたミステリー小説を安全に読めるのかという心配から、そして妹紅の一言から一転、童話の執筆に挑戦するのですが……。
 本シリーズはですます調の飾らない言葉で登場人物たちのみずみずしい感性を描いているのが魅力なんですが、本作では幼い子に刺激の強い作品を触れさせることの是非や悩み、友人知人が自分が書いた作品を読んでいると知ったときの気恥ずかしさ、そして書いた作品が既存作品の寄せ集めになってしまうという落とし穴、そこからの阿求の本当に自分とそして二三と向き合って書かれた童話が完成するという流れは、ジャンル問わず一度でも創作を手掛けたことがある人には共感できる内容だと思います。決して大仰ではなく、等身大で「作品を作る」という行為を阿求と二三のささやかな日常を通して描いた作品です。
 そしてラスト、完成した作品「おかあさんと呼ばれて」が総集編1巻のタイトルというのがまたいいんだ……。この童話は阿求と二三を題材にしているんですが、それに気づかない二三をして「素敵な鈍感さ」と表現するこの語彙よ……こんなやさしい言葉があろうか……。
・稗田阿求は気が気じゃない!
 前巻で想いを伝え合い、晴れて妹紅と結ばれた阿求。しかし、だからこそ阿求は妹紅の周りの人々が気になって仕方なく……。
 本作では、妹紅と距離の近い菫子の出現にやきもきして嫉妬する阿求の姿がおかしくも微笑ましく描かれています。
 こういった話だとキャラごとのヘイトコントロールが難しかろうと思うんですが、それが本作ではうまいことやってるなあと思いました。本作では菫子が阿求の恋敵的なポジションですが、妹紅の天敵である輝夜を登場させることでヘイトが菫子に向かないようにしてるのが上手い。このへんの読者の感情のコントロール、思ってるよりもはるかに難しいからな……。
 本シリーズのストーリーの軸はいくつかあって、阿求と二三の物語、阿求と妹紅、そして阿求と小鈴の物語。前巻から徐々に漂ってきていた青娥の暗躍が表面化していき、小鈴の阿求に対する愛憎入り交じった感情が少しずつ漏れてくる……という流れをうまいことメインテーマに乗せているのが巧者といった感じ。
・うちの子にスペルカードはまだ早い!
 ふとしたことからこころとスペルカード対決をすることになった二三。しかしお母さんたる阿求はそんな危険なことに二三を巻き込むわけには行きません!と反対。さて、二三の初のスペルカード対決はどうなるのか!?
 本シリーズはいわゆる「疑似家族もの」に分類されるであろう物語なんですが、本作は特にお母さんポジションの阿求、お父さんポジションの妹紅というポジションでそれぞれ二三という幼い存在に対する接し方の違いやスタンスを丁寧に描いているのがいいですね。
 そして本作が上手いのは、冒頭で11代目阿礼乙女であるオリジナルキャラ・稗田阿与壱と二三が昔を振り返るという形で描いている点。そしてラストでいよいよ小鈴の歩む道の雲行きが怪しくなっていく点を並行して書いていること。創作をしたことがある人なら分かると思いますが、作品というのは複数のストーリーやエピソードを同時進行させようとするとこんがらがったり荷物の積みすぎで話しが進まなくなったりするもの。その点、本作はそれらのエピソードにちゃんと優先順位をつけて進めてるので読んでて引っかかりがありません。特に小鈴周りの話の流れがどんどん不穏になっていくのがハラハラを楽しませてくれます。
・私のコノハナサクヤヒメ
 妹紅たちとお花見を楽しむ阿求。しかしその裏では、ある企みが進行していた……。
 これまで裏で静かに進行していた青娥の企みがいよいよ表に出てくるお話。これまでのタメが実に効いています。小鈴の阿求に向けるさまざまな感情が丁寧に描かれる一方で、阿求と妹紅の絆が深まっていくのが皮肉な対照構造になっていて不穏な雰囲気を引き立ててくる。
 そして作中の冒頭で取り上げられている「桜と岩」=「木之花咲耶姫と岩長姫」というモチーフの使い方がまた上手い。本来は岩長姫の方が「永遠の命」を象徴する存在なんですが、阿求は永遠の命を持つ不死人である妹紅をコノハナサクヤヒメに重ねて見ているというのがなんとも皮肉。そもそもこの「木之花咲耶姫と岩長姫」というモチーフが「期限付きの命と永遠の命」という対置構造なんですよね。この辺を考えると本作は、一連の「阿求と二三」シリーズの中でも大きな転換点となると思います。
 そして小鈴の決定的な感情。これも上手いと思うんですよね。原作ゲームに登場しているキャラと書籍キャラである小鈴との決定的な違いである「弾幕ごっこが出来る/できない」という点をうまく小鈴の嫉妬や劣等感につなげて、原作キャラなら当たり前である「弾を撃てる」という行為を小鈴ができるようになるというイベントを「決定的な一線を超えてしまった」として表現するという。こういう「ゲーム内では当たり前のことを作中の重要なファクターとして再解釈する」というのはわたくし人形使い自身も目指すところです。
・心に名前を付けるなら
 今回の総集編のタイトルと同名の書き下ろし。
 いやー意外だった。なにが意外って、これまでの流れからすればタイトルにある「心」の持ち主は小鈴だと思うじゃないですか。それがこう来るとは……。
 意外性というものは、安易に狙うとややもすれば変化球ではなく的はずれな方向にボールを投げてしまうものですが、この書き下ろしにおける「心」の持ち主がこのキャラであることには必然性と納得を感じました。そしてこのエピソードがこれから始まるであろう大きな転換点へのつなぎになるであろうことは確実だと思うのでこれからの展開が楽しみです。しかし青娥さんはほんとこういう役似合うよなあ……。
 ……といった感じで一気に5本分の感想を書いてみました。それにしてもこうやって通して作品を読んで思うのは、本シリーズオリジナルキャラである二三の存在が、30歳まで生きられないという宿命の阿求と永遠に死ねない不死人である妹紅という正反対の属性を持つふたりを結びつけるジョイントとして機能しているという点です。前段で本作はいわゆる「疑似家族もの」としての側面があると言いましたが、本シリーズにおける阿求、二三、妹紅の三者によって構成される「カゾクのカタチ」は、まさに彼女らだからこそ作り上げることができた「ちょっと不思議でとても素敵なカゾクのカタチ」だと言えると思います。
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第20回東方紅楼夢戦利品レビューその2
初公開日: 2024年10月10日
最終更新日: 2024年10月10日
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