みんなブレイバーンになっちゃった!
ここで一つ断りを入れておきたい。これは誰かの夢である。誰かの夢はいつかは覚めるものである。だから安心してこの物語の顛末を迎えて欲しい。さて本題に移ろう。ここはオアフ島、黄金のブレイバーンとイサミが融合した場所である。そこに集ったATFの猛者達は、イサミとスミスの顛末を見届けていた。黄金のブレイバーンと、イサミと勇気合身したバーンビッグブレイバーンの元で、しめやかにまるで婚礼を見届けるかのように仲間たちは二人を見守っていた。若者は口笛を飛ばし、二人に祝福のヤジを飛ばす。これでおさまりが良くなったと上官たちは胸を撫で下ろしている。皆この合身を祝福していた。溢れんばかりの祝福の渦の中で、カワダは黄金のブレイバーンを目を細めて見上げるハル・キングに気付く。どこか遠くを見つめるような眼差しだ。ブレイバーンの秘匿に失敗した事で、本国で針の筵になっているとカワダは事前に噂で聞いていた。その針の中をなんとか抜け出し、この顛末を見届けにハワイにやってきた彼の懐の深さを、カワダは尊敬せざるを得ない。恨み言もなく、ただ彼はバーンビッグブレイバーンを祝福して手を叩いていた。だが彼の優しさだけでは、長時間にわたってブレイバーンを見つめる事に説明がつかないだろう。カワダはそこが気に掛かったのだ。まるで遠くを、ブレイバーンの向こうに何かを見つめているかのような眼差しである。キングに声を掛けると、彼はすぐに振り向いた。
「ハル。どうかなさいましたか」
「ああイサオか。いやなに、少々な」
「…何か、我が国の者が迷惑を掛けましたでしょうか」
国を背負うにはカワダには荷が重すぎるが、少なからず同じ自衛官という括りで言えば、アオ三尉は少々どころではない迷惑をキングには掛けている。そのことでカワダが謝罪するのはちぐはぐであるものの、言わずにはいられなかった。
「いや、反省しているんだ。ブレイバーンは我々の常識では計り知れぬ者だった。それなのに私は常識に縛り付けようとして…愚かだった」
「そんな、ハルの選択に間違いはありませんよ」
「ありがとう。だが、その自由さが羨ましくなってしまってな。ただそれだけなんだ」
軍人としての確かな実績はハル・キングを国防省にまで追い立てた。だがそれが幸か不幸なのかはキング本人が決める事であるが、自由さという点では制約を受けているだろう。年齢を重ね、地位が向上するほどに人には制約がつきものだ。ブレイバーン、いやバーンビッグブレイバーンはその黄金色の中にあまりにも眩しい自由さを秘めている。キングはそこを羨んでいるのかと、カワダは自分の立場を思うと分かる気がした。元ATFだからともぎ取った休みである。その休みで、どうしてもイサミとスミスの顛末は見届けなければならなかった。かけがえのない仲間であるからだ。ハルもその仲間の一人である。せっかく会えたのだから心が軽くなって互いに帰国したいものだ。そう考えて言葉を掛けようとした時である。キングが呟いた。
「羨ましい」
「………はい?」
カワダは数秒考えたのち、思わず聞き返していた。
「羨ましくはないか? アオ三尉はブレイバーンと融合し、その身に勇気を纏うことが出来た。あの時の我々の一体感、そして解放感。その全てをもう一度味わえるなど、あまりにも羨ましい」
「ハル?」
熱弁するキングに、もう一度カワダは聞き返す。カワダの肩をぽんぽんと叩く者がいた。振り返ると、ハイデマリー・バロウ少将がいる。彼女も困惑したような顔で目が合うと、頷いた。何かがおかしいと言わんばかりだ。いや、多分ハルは疲れているのだろうとカワダは思った。だが彼の横顔を見ていると、その熱のこもった視線は明らかに羨望のものである。キングだけではない、周囲にいる若者も皆キングの言葉にうなずいていた。カワダはもう一度ハイデマリーを見やる。彼女も小首を傾げている。
確かに、ヴェルム・ヴィータを撃破する為に放った勇気一刀流奥義・勇気爆発バーンブレイブビッグバーン、アルティメットファイナルゴッドユニバースブレイクの際に、ATF隊員達は皆それぞれの身に宿る勇気を、バーンブレイブビッグバーンに託したのだ。その時に確かに、ATFはバーンビッグブレイバーンと一体化した。心が繋がり、勇気が繋がり、思いが繋がったのだ。その感覚が忘れられないと言うのなら、喩えるのなら非日常的な出来事…好きな音楽を聴いたライブでその場にいる全員がその音楽を愛し、誰も嫌いな者などいない一体感…よりも強いものだろう。目的の為にぴたりと心があった、通った。その感覚があまりにも素晴らしく、忘れられない所までは分かる。羨ましいと考えている事に、熱意の差を感じてしまうのだ。
キングは続ける。若者はその熱弁を頷きながら聞いている。
「我々にはあの時、勇気があった。確かに目に見えない物であるが、彼らと共にあった勇気が。…それが今はアオ三尉だけが独占しているとは…」
「それは違うぞ、キング」
ふと、ブレイバーンが会話に割り込んで来た。カワダはぎょっとして顔を上げると、バーンブレイブビッグバーンがこちらを見ている。その緑の瞳がきらりと輝いた。
「私達は一度一つとなった。だから君にも出来るはずだ」
「出来るって、何を…?」
カワダが当然の疑問を口にする。ふと、横を見やるとキングはブレイバーンの言葉を逃すまいと、前のめりになって聞き入っていた。その態度にもカワダがぎょっとしていると、ブレイバーンがふっと微笑む。
「君にも出来るはずだ。何故なら君も、既にブレイバーンだからだ」
「待ってくれ、ブレイバーンって何を」
「そうか。そうだったのか」
「ハル!?」
カワダの声など間に入っていなかったかのように、キングはブレイバーンとの会話に一人で納得し、その大きな体に息を吸い込んだ。胸がゆっくりと膨らむ。そうして静かに吐き出した時、キングは閉じた目を開けてブレイバーンを真っすぐに見つめた。
「そうだったんだな」
「そうさ。さあ、名乗りを上げてくれ、キング!」
「ああ。私達が、私がブレイバーンだったのだな。よかろう、今向かう。チェーンジブレイバーン!」
何を言っているのだとカワダとハイデマリーが困惑している間に、大声で名乗りを上げたキングの体がみるみるうちにブレイバーンへと変貌する! 周囲にいた者を潰さぬよう、彼は咄嗟に飛び上がり、皆が安全を確保したのを見ると静かに着地する。その気遣いはキングの物であろうと疑う者はいなかった。カワダもハイデマリーもぽかんとしたままキングだったものを見上げる。少々カラーリングは違うが、そこにいるのは巨大化したキングなどではなく、9メートルのブレイバーン(色違い)であった。カワダは素っ頓狂な声を上げる。
「ハルぅ!?」
だがバーンビッグブレイバーンは誇らしげに近付くと、ブレイバーン(色違い)に近付いて手と手を取り合った。
「おお、なんと素晴らしい。流石はキングだ」
「違うぞバーンビッグブレイバーン。今の私は、ブレイバーンだ」
「そうだったな!」
「そうだったなではなく…」
ハイデマリーが頭痛がするのか額を押さえた。カワダも口を開けたまま何も言えないでいる。俺も、俺もなりたいと誰かが叫んだ。キングだったブレイバーンが、茶色の瞳で優しく見下ろしている。
「ならば君も名乗りを上げるがいい。この場にいる皆は等しくブレイバーンなのだから」
「待ってくださいハル、ちょっとだけ話を聞いて」
カワダが叫ぶ横で、まるで何も聞こえていないかのように若者が名乗りを上げた。
「そうだ、そうだったんだ。俺達が、俺がブレイバーンだったんだ! 行くぞ、チェーーーンジ、ブレイバーン!」
「頼むから誰か話を聞いてくれ!」
カワダも頭を押さえた。ブレイバーン(二体目)が参上したのだ。次は私だ、俺だと次から次へと名乗りが上がる。だが変身には一人ずつ口上を述べると言う決まりがあるらしく、順繰りに名乗りを上げていくので時間が掛かった。だが次第にオアフの空がブレイバーン(もう数えていない)に埋め尽くされていき、女性も男性も等しくブレイバーン(数えたくない)になっていく。真面目そうなニーナ中尉やジョシュアも、ホノカやカレンまでもブレイバーンになってしまった。
「カレンさん、怖くないですよ。私がいます」
「…そうねホノカ。ホノカぁああ! チェーンジブレイバーン!」
誰もブレイバーンになる事に疑問を持っていないし、むしろなりたいとさえ考えているようである。
「ヒロまでぇ!」
ヒビキが叫ぶ。まともにこの状況を突っ込むのであればヒロが傍にいる事が最適だった。だがヒロも早々に名乗りを上げてしまった。だからヒビキはブレイブナイツの仲間が消えていくのを嘆き悲しんでいるようだ。カワダがおろおろとヒビキに声を掛けようとしたが、彼女は頭を抱えたままである。アキラやシェリーもブレイバーンになってしまった。ヒロが、ヒロは隣にいてくれると信じていたのに!
「恐れることは無い。ヒビキ」
「イサミは黙ってて!」
八つ当たりである。彼女が怒鳴ったその横で、サタケが名乗りを上げた。
「隊長ぉおおおお!」
ヒビキが崩れ落ちる。カワダも崩れ落ちた。何故だ。何故そっち側に向かってしまったんだサタケ。部下を残して。そんな事を考えている間に、カワダは頭がぐらぐらと揺れていくのを感じた。周囲は次々と名乗りを上げている。プラムマン上級曹長も、名乗りを上げてしまった。あの通る声が、ハワイの空に響き渡る。
「みんな正気に戻ってぇえええ!」
ヒビキの声がオアフに響き渡り、ウミガメの産んだ卵にも振動が伝わったように思えた。それほどまでの絶叫だった。項垂れるヒビキだが、ヒロ(たぶん)が、優しく彼女に声を掛けてくる。
「ヒビキ、恐れることは無いさ。君もこちら側に来られる。きっと君なら出来るよ」
「えっ。そうかな…? そう…なのかな…」
「私と態度が違うな!?」
どうやらヒビキはイサミよりヒロには優しいようである。その声に誘われていき、ヒビキは少々思い悩んだようだがきっと顔を上げる。
「分かった! チェンジ、ブレイバーン!」
ヒビキも陥落してしまった。
「リオウ二尉ぃ!?」
ヒビキが名乗りを上げた後、ミユも名乗りを上げて…残されたのは、気が付けばハイデマリーとカワダだけになり、人間を取り囲むようにして無数のブレイバーン達が上空を飛び、見守っていた。カワダはこの世の理に付いて行けない事で混乱していた。誰がブレイバーンを羨んだ? そして何故名乗りを上げただけで、人間の体がブレイバーンになるのだ? 奇跡だと言うのなら、この事象が奇跡であることは間違いない。いやどうして、何故。理由を考えても何も分からなかった。分かる筈もない。人間は有機生命体で、ロボットに変貌するはずが無いのだから。一体何が起きている? 考えれば考えるほどにドツボに嵌るので、カワダはよろりとよろめいた。その様子を心配し、キングだったであろうブレイバーン(もう誰だかは薄暗くて正直分からない)が手を差し伸べてくれるのだが、大丈夫だと断ってなんとか立つ。ハイデマリーは、彼女は天性のものなのかこの珍現象に真正面から立ち向かっていた。
「諸君らは何故ロボットに!? 人間であったはずだろう」
「ハイデマリー。勇気だ。勇気が奇跡を与えてくれるのだよ」
「納得がいかん!」
それはそうである。カワダも彼女の意見には同意している。キングであろうブレイバーンが宥めに来るのが、もしかしたらデスドライヴズとの対峙より恐ろしいかもしれなかった。
「諸君らの勇気とやらが起こす奇跡は分かった。だが諸君らが全てブレイバーン化するのは、もう奇跡ではないだろう! 何の冗談だ?!」
「冗談ではない。皆このオアフでの奇跡を信じ、心から勇気を信じた結果だ」
バーンブレイブビッグバーンに諭されて、ハイデマリーは顔を歪める。
「納得がいかん!」
「ハイデマリー。君も信じてくれ、君の心にある勇気を…」
「勇気というか、私はブレイバーンに憧れてなど…」
「そ、そうですよねハイデマリー。私は別にブレイバーンになりたい訳では…」
「憧れてしまったことなど……ない!」
何故含みがある言い方を? カワダは嫌な予感がした。
「はっはっは。照れることは無いじゃないかハイデマリー。すべては収束し、一つになる。我々はもう一つなのだ。さ、君もこちらに来るといい。この体で見る地球は大層美しいぞ」
「少々黙ってくれ、考えたい」
「ハイデマリー。君は臆病なのか?」
キング(であろう)の物言いに、ハイデマリーは気に障ったのか額を押さえるのを止め、ふっと顎を上げてブレイバーン達を見上げた。
「何?」
「君は臆病であるのか? ハイデマリー。君は勇敢で優秀な兵士だ。この程度の試練を恐れるなど、君らしくもない」
「ああ分かった。分かったよ」
カワダは本格的に嫌な予感がした。
「何が分かったんですハイデマリー!?」
「そこまで言うのなら名乗りを上げてやろう。私の中の、勇気に向かって! …チェーーーンジ、ブレイバー――――ン!」
少々小柄な彼女だが、とびきりの大声と共に彼女もブレイバーンへと変貌を遂げる。残されたのはカワダだけだ。
「ハイデマリぃぃぃ!」
理解者を失ってしまい、カワダはその場で膝を着いた。もう残りはブレイバーン達しかいない。かつての人間であった仲間達が、変わってしまった姿でカワダを取り囲み、今か今かと待ちわびている様に見える。
「なっちゃった…どうしよう。なっちゃった」
カワダはうわ言のように呟く。もはやブレイバーンは正義の味方であるはずなのに、どうしてだか今ここでは悪であるかのように、正義よりも同調圧力を掛けているかのようなヒーローらしからぬ行動になっている。取り囲まれたカワダは少々怯えた。9メートルの巨人たちに一斉に取り囲まれたことはあるか? いや人間は無いだろう。それほど恐ろしい力の差を感じながら、ただカワダは縮こまっていた。
「あ、あの」
「さあイサオ。あとは君だけだ」
「イサオ! 素晴らしい、素晴らしいぞこの体は!」
ハイデマリー(おそらく)であっただろうブレイバーンが、はしゃいだような声で言う。カワダは理解者を本当に失ったのだと肩を落とした。残るは彼だけである。だがふと砂浜を歩く音がして、人間の足音がしたので振り返ると、暗がりの中でボブがいた。思わず縋りつきそうになったが、ボブはさくさくと砂浜を踏んでどこかに帰っていくようだ。
「じゃあ、俺帰っていい?」
「どうして!?」
居なくならないでくれとカワダは懇願するものの、ボブは付き合いきれないと言う顔である。
「いやあだってさ…ブレイバーンにはなれないし」
「私だってなれない! 置いて行かないでくれ…」
「あと、俺家に帰るし」
ボブはハワイに移住しているのだ。だから彼は気安く家に帰るなどというのだろう。この惨状を目にしても、あまりにも冷静なのはさすがCIAであろうか、いや感心している場合ではない。だがボブはカワダの腕を擦り抜けると、すたすたと暗がりの中に消えてしまった。何故かあっという間に姿が見えなくなり、カワダは追えないで立ち尽くす。
「そんな…」
「さあ、イサオ」
まるで旧友に話しかけるように気安く、優しい声音でブレイバーン(誰だろう)が声を掛けて来る。カワダは泣きそうな顔で振り返った。勇気があったとて、ブレイバーンになる方法が分からない。皆が出来る事が自分には出来ないとまざまざと分かり、それは涙も出そうになってしまう。この年齢になって情けないと自分でも思うが、カワダを置いてけぼりに世界は進んでいくのだ。この疎外感は年齢を関係なく心を蝕むだろう。無理だと呟きながら泣き出すカワダに、大丈夫だとブレイバーン達が一斉に励まして来る。
「大丈夫、大丈夫だ。己の心の声に従うんだ、イサオ」
「そうです、従えばブレイバーンになれます!」
「さあ、早く! 早くここまで来るんだ!」
「この世界は素晴らしい、君にもそれを味わってもらいたい。さあ来るんだイサオ!」
イサミ・アオが当初嫌がっていた理由が今になって分かる気がした。若い者に押し付けてしまった罪悪感を覚えながら、それでも無理だとカワダはこぼす。だって出来ないことが分かっているのだ。なんとなく、自分には出来ない。それでも励ましの声は止まなくて、まるでこれでは悪夢の世界の中のようである。
「これが、これが勇気の光なのね…!」
「うむ! 素晴らしいな!」
「やめてくれ…やめてくれ。置いて行かないでくれ…」
カワダは思わずそう呟く。悪夢。そう。悪夢だ。ここは夢の世界である。カワダ・イサオの夢の世界だ。そこでカワダは、ぱっと目が覚めたのだった。
「は!?」
現実に戻った感覚とまだ胸を高鳴らせる嫌な汗に、カワダは思わず大きな声を上げてしまっていた。その声は部屋に一瞬だけ響くと、すぐに吸収される。ここは日本上陸後のATFである。まだヴェルム・ヴィータどころかペシミズムとヴァニタス、クーヌスすら撃破していない。カワダは急いで身支度を整えると司令部に走った。駆け出して飛び込む。扉に体当たりをする勢いである。もうそのような年ではないのに、体当たりしてしまいたい気持ちがある。飛び込み、中を確認するとどうやら司令部の全員がぎょっとした顔をした。注目を一身に受けたカワダだが、今はこの司令部があることに安心感があり、ほっとしながらもハルやハイデマリーに近付いた。
「ハル。ハルですよね」
「そうだが…どうしたんだイサオ」
ほっとしながら安堵したカワダは、ハルの服の裾をぎゅっと掴む。キングは怪訝な顔だ。その顔を見上げながら、カワダは縋りつくような目を見せる。
「ハル…貴方はブレイバーンにはならないですよね?」
「何を言ってるんだイサオ!?」
「イサオ、貴方疲れてるのよ…」
ハイデマリーがぽんと肩を叩いてやる。カワダは真っすぐにキングを見つめるばかりで、その心神耗弱の様子は明らかだ。カワダの肩を掴むと、キングはうんと頷いてその肩を抱いたまま司令部を出ることになる。
「30分後に戻る」
「分かった」
ハイデマリーが頷く。司令部で異論を唱える者はいなかった。それほどまでにカワダは少々おかしい様子であったのだ。カワダの部屋に連れて行くと、キングはとにかくカワダを椅子に座らせる。二人きりになった瞬間、カワダは怖がるようにキングの首に縋りついた。
「…ハロルド…」
「どうしたんだイサオ。怖い夢でも?」
子供に話しかけるように穏やかな口調が降って掛かると、カワダの目にはじわりと涙が滲んでいる。よほど恐ろしかったのだろうとカワダを抱きしめてやると、カワダはぎゅうと抱き着いてくる。悪夢は終わったのだ。だが余波は残っている。その余波が収まれば、いつものカワダに戻るのだろう。とりあえず今は30分で彼を癒す方法を考えなければならないと、キングは思考を巡らすのだった。