特に、自然の具現化……自然そのものともいえる妖精たちはそうした強力な魔力や大規模な異変の影響を受けやすいもの。現に、前回の事件は「異変」というレベルの規模ではなかったものの、妖怪であるルーミアはもちろんのこと、普通の妖精たちも二童子、ひいては摩多羅隠岐奈の影響を強く受けてあんなことになっていたわけです。
「つまりなに、チルノのやつが最近姿を見せないのは、まだ異変の影響が残ってるからだって言いたいの?」
「別に確信があるわけじゃないんだがな。隠岐奈が起こした四季異変みたいに、自然がおかしくなれば妖精もおかしくなる。じゃあ、妖精がおかしくなれば自然もおかしくなるってのが道理じゃないか?」
「ふーむ……」
一理あるわね、と霊夢はうなずきます。と、涼しげな風が吹いてきました。
「お、いい風。ようやく涼しくなってきたのかしら。このまま残暑も終わってくれれば良いんだけど」
「お、ほんとだ。ようやく過ごしやすくなってくるかな」
風を受けて気持ちよさそうに目を細めている霊夢。魔理沙も顔の上に手をかざしながら空を見上げます。と、その空にぽつんと黒い点が見えました。
その黒い点は、見る間に大きくなってきます。
「そーなのかー」
その中から呑気な顔を出したのは、金色の髪に赤いリボンを着けた小さな女の子。宵闇の妖怪ことルーミアでした。博麗神社の境内にふよふよ降りてきたルーミアは、ちょこちょこ歩いて縁側にちょこんと腰掛けます。
「おうルーミア、元気でやってるか?」
魔理沙がふざけて三角帽子を顔にかぶせてやると、ルーミアはふがふが言いながら答えます。
「ふがふが。なんだか急に寒くなってきたから、避難してきたのかー」
「急に寒く? どういうことだ?」
「チルノちゃんがねー……」
ルーミアが言うには、チルノはこの間の弾幕ダンスバトルが流行っていたとき、大妖精とのバトルに負けてしまったそう。負けず嫌いなチルノは、大妖精との再戦に燃えていて、その前哨戦とばかりにそこらじゅうで暴れているようです。
そこまではいつも元気いっぱいで無軌道なチルノの行動としてはとりたてて珍しくもないものでしたが、問題はそこからでした。
「それでね、チルノちゃんがいろんなところで思いっきり暴れてるせいで、少し前までは暑かったのに、今じゃ寒いくらい。魔法の森の方とか、氷が張ってたりしてるみたいなの」
そう言いながら、ルーミアは「へぷちっ」とかわいらしいくしゃみをしました。
「……」
ルーミアの言葉に、霊夢と魔理沙は顔を見合わせます。そう言えばさっき吹いてきた涼しい風。その風には、わずかに冷気が混じっていた気がします。
「……で、博麗の巫女としてはどうなんだ、これ」
「あー……まだ決まり(傍点)ってわけじゃなさそうだけど、だいぶ怪しいわね。ったくめんどくさい」
はあー……と大げさなため息をつくと、霊夢は縁側から立ち上がりました。続いて魔理沙も立ち上がってほうきにまたがります。
「私はチルノの方に行ってみるわ」
「じゃあこっちは隠岐奈の方だな」
「ん? ふたりともどこ行くのー?」
ひとり縁側に取り残されたルーミアは、事態がよくわからない様子できょとんとしています。
「あー、そういやお前も前の騒ぎの当事者だったよな。お前も着いてこいよ。隠岐奈んとこ行くぞ」
「わーい、魔理沙とおでかけだー!」
無邪気にはしゃいでいるルーミアを連れて、魔理沙は一足先に博麗神社を飛び立っていきました。霊夢はその姿を地上から見送っています。
「……ま、あっちはあっちで勝手にやるでしょ。こっちはこっちの仕事をしなきゃだわ」
そうひとりごちて、霊夢は魔理沙たちとは別の方向に向かって飛んでいきました。