引き止める
カーテンの隙間から差し込む朝の日差しがまぶしい部屋の中。
「じゃあ、またな」
さっきまで一緒にくるまっていた布団がまだ温かい。未練たらしくその熱を味わっている私とは違い、キングさんはさっさと身支度を整えて部屋を出ていこうとする。
上着を羽織り、マスクを被って、ブーツを履く。
そこでようやく私は体を起こし、彼にそっと体を寄せた。
「どうした?」
キングさんはうつむく私の垂れ下がった髪の毛をサラサラとなでてくれた。そっと、もみあげの髪の毛が耳にかけられる。一気に視界が良くなった左側に視線をやり、ちらりと彼を見る。
視線だけで気持ちが伝われば良いのにと、この時だけはそう思う。本当にそうなったら困るくせに、そう思う。
キングさんは私をじっと見下ろしている。布団から出て冷えてしまったつま先を擦り合わせながら、胸の内を打ち明けた。
「もう少し、一緒にいたいです」
「……もっと早く言えよ」
そう言いたくなるのはもっともだと思う。だって、あとは部屋を出るだけ、というところまで身支度が済んでいる。
ごめんなさい、と謝る前に、キングさんはブーツを脱いだ。
「あと五分だけだぞ」
続いてマスクも取り払い、ふわりと白い髪の毛があふれ出る。
私はくしゃくしゃになっている彼の髪の毛を手ぐしでとかしながら、その丸い頭を抱きしめた。
◆
夜闇の中、ランプの明かりを受けた彼女の体が暗い部屋に白く浮かび上がっていた。
「じゃあ、帰りますね」
ついさっきまで真っ赤な顔で睦言をささやいていたのが嘘のように、涼やかな顔をしている。
いつもはずっと一緒にいたいだのなんだと言ってなかなか布団を出ていこうとしないのに、今日は明朝に予定があるらしく切り替えが早い。脱ぎ散らかした服をかき集めながら、流し目でこちらを見て笑う。
「キングさんも早く服を着ないと風邪ひきますよ」
「風邪なんかひいたことねェ」
「そっかぁ。でも今夜は冷えますから、ね?」
そう言って、盛り上がった勢いでベッドの下に蹴落とした掛け布団を拾ってきた。手のひらでさっとホコリを払い、体の上にかけられる。ぽんぽんと赤子をあやすように腰元を叩くと、黙ったまま身支度を整え始めた。
ビキニのホックを留めようと背中に回された手。いたずら心が湧いてきて、指先で背中をつついて邪魔をする。
「あっ、もう、やだ。キングさん、邪魔しないで」
しつこく続けていたら、さすがにうっとうしくなったらしく距離を取られた。思わず唇がとがる。
「なあ」
「なんですか」
「寒くて寝れねェ」
柄にもないことを言った自覚があり、照れくさくて視線をそらした。視界の端で、女がスカートを引き上げようとしていた手を止めてこちらを見ているのがわかった。
「泊まっていけよ」
「……しょうがないなぁ!」
そう言いながらも女の声色は明るかった。いそいそと布団に潜り込んできた女を胸に抱く。
「あー、あったかい」 
特別寒かった訳では無いが、人肌の温もりにほっと息を吐く。女は良かったですね、と静かにほほ笑んでいた。
「ねえ、明日の朝、寮まで送ってくださいね」
「うん、わかった」
「うふふ、ありがとうございます」
抱きしめ合っているうちに暑くなってきて、布団の足元を蹴り飛ばした。
カット
Latest / 57:21
カットモードOFF