じゅうじゅうと何かを焼いているような音で目を覚ました。
 微睡みの世界から帰還した身体をゆっくりと起こすと同時に、食欲をそそる美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。
 ぼんやりする頭で周りを見渡すも、どこを切り取っても見覚えのない空間にようやく焦り出す。待って? ここってどこだっけ。えーと、昨日はたしか──。
「あ、やっと起きた」
「え⁉︎ 角名?」
「おはよう。ずいぶん爆睡してたみたいだけど、やっと目覚めた?」
 寝室のドアを開けて入ってきたのは、高校時代の同輩である角名倫太郎で、予想外の人物に間抜けな声が出てしまう。ということは、今私がいる場所って角名の家なのか。何がどうしてこうなったのかわからない私を他所に、角名は「ヨイショ」と言いながらベッドに腰掛ける。ちょっと待って。距離が、近いんですけど。
 なぜこうなっているのかどれだけ考えても思い出せないため、下手に角名に文句を言うこともできない。辛うじて身に纏っている薄手のTシャツは、角名の服なのだろうか。どちらにしろ、自身の身を守るには心許ないそれを隠すために、必死に掛け布団を手繰り寄せて彼から距離を取る。
「そんなあからさまに避けられると傷つくんだけど」
「いや、ちょっと、あの……なんでこうなってるのかわからないから一応ね」
「……へぇ、覚えてないんだ。昨日はあんなにかわいかったのに」
 クスッと笑ってそんなことを言う角名がやけにえっちな顔をしているから、そんな彼に胸が高まってしまった。いけない。付き合っていないただの同輩に対してこんな気持ちを抱くなんて。頭をブンブン振ってそっとベッドから足を出すと、恐る恐る角名に声をかける。
「あの、なんか色々迷惑かけちゃった分は今度お詫びするから。とりあえず帰るね」
「え、なんで? もう朝ごはんできてるから食べて行きなよ。体が気持ち悪かったらシャワー使ってもいいし」
「いやあ、流石にそれは」
「ミョウジと今後のことを話さないといけないなって思ってたんだけど」
「シャワーだけお借りします!」
 鋭い眼光で圧力をかけながら言葉を放つ角名に震えながら、慌てて言葉を返すと満足げに目を細めた彼から「洗面所に置いてあるもの、なんでも使って大丈夫だから」と声をかけられた。酷い。こんなのもう、ほとんど脅しじゃないか。
 寝室を出ると一度長めのため息を吐いた。
 玄関横の扉が開いていたため、すぐに洗面所がそこだということがわかった。ちらりとすぐ横ににあるドアを見ると、いっそこのまま帰ってしまおうかという気になってくるけれど、あいにく自分の荷物は先ほど角名が入ってきた寝室に置いてある。
 諦めて洗面所に入ると、鍵を閉めて服をポイポイと脱ぎ始めた。
 洗濯機の横にあるラックの上には着替えと思わしき服が一式入っていて、その中にはご丁寧に未開封のパンツまで置いてある。コンビニで買ったと思われるそれはなぜか私の体のサイズにぴったりで、鳥肌がたった。
 余計な思考は全部シャワーで流して綺麗さっぱり忘れてしまおう。
 そんな決意を胸に風呂場に入ったのだが、いざ冷たい水を頭から浴びるとだんだんと昨夜の記憶を思い出してしまった。
 
 
 
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グッドモーニング
初公開日: 2024年09月11日
最終更新日: 2024年09月11日
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