舞台
ルーマニア ブルガリア ギリシャらへんのイメージ
一週間ほどかかった、スピードワゴン財団の任務が終了したのが昨日の夜。一晩明け、今日の朝から後処理に追われ、すべてが終わったのがいま。すなわち、現地時間でいうところの十八時。
「あー……疲れた。やっと終わった」
臨時で置かれた財団が拠点としていた建物から出て、ポルナレフは右肩を回した。
「どうする? ホテルに戻るか?」
アヴドゥルが訊ねると、ポルナレフは首を横に振った。
「いや、腹減ったぜ。せっかくだしよ、このへんのうまいもんでも食べようぜ。どっか、いいレストランでさ」
「それはいいが……その店はどう探すんだ」
「勘だよ」
「勘」
「いい店っつーのは店構え見りゃぴんとくるもんだぜ」
「……まあ、おまえがそう言うなら、任せよう」
「とりあえずさ、もう少し街の中心部へ行こうぜ」
陽はほぼ沈み、街灯や建物の灯りが照らす通りを、二人は連れ立って歩き出した。
「なあ」
「なんだ」
「今回のスタンド使いも、例の『矢』で発現したヤツだったな」
「ああ……そうだな」
「なんか、思うんだが……そういうやつらほど、能力が複雑というか、厄介じゃねえか?」
「……そうかもしれんな」
「おれもおまえも、花京院も、イギーもたぶん、生まれつきだろ。うまく言えないけど、なんつーか……」
道を曲がったところで、ポルナレフは言葉を途切れさせた。異変に気づいたのはアヴドゥルも同じだった。
「……アヴドゥル、火だ! なんかが燃えてるにおいがする!」
二人は同時に上空を見た。黒い煙が上がっているのは、おそらく二本ほど先の通りの建物だ。
「火事だ」
「マジかよ」
二人は同時に走り出した。
道行く人々が異変にざわめきだしている。誰かが消防に通報したのかサイレンの音がし始めたが、まだ遠い。
煙のにおいが濃くなった通りに出ると、一画の五階建てほどのマンションの真ん中あたりが激しく燃えているのが目に飛び込んできた。
「あそこだ!」
ポルナレフが叫んだ瞬間、なにかが倒壊したような轟音が聞こえた。避難した住民たちらしき人々、野次馬で集まっていた人々が一斉に肩をすくめて燃え盛るマンションから離れた。
そのとき、マンションの出入り口から少年が転がるように飛び出てきた。つまずいて勢いよく地面に転んだ少年に、ポルナレフは駆け寄った。
「おい、大丈夫か!」
まだ十にもなっていないくらいの少年は、抱き起こしたポルナレフの腕にすがった。
「助けて!」
「なんだ、どうした」
「か、母ちゃんが、まだ、なかに、妹、抱っこしてて」
ポルナレフは振り返ってアヴドゥルを見上げた。アヴドゥルは燃えている建物を見据えていた。
「おまえの家は何階だ」
「さ、さん……」
小さな声で答えて、少年はポルナレフにぎゅうと抱きついた。
「こわい、どうしよう、おれ、母ちゃんと妹、おいて、ひとりで逃げ……」
「ポルナレフ。その少年をたのむ」
「おお。気をつけろよ」
アヴドゥルは背後にマジシャンズレッドを出現させて、わらった。
「だれに言っている」
そして、迷うことなく燃え盛るマンションへ飛び込んだ。