昼どきの少しまえ、外から郵便配達の音が聞こえた。アヴドゥルは玄関を出て、郵便受けへ向かう。近所の服屋のダイレクトメールと、ポストカードが一枚入っていた。取り出して裏表を返して眺める。
ポストカードの裏面は美しい海と町並みの写真だった。表の宛名を見て、アヴドゥルは僅かに目を見開いた。すぐに軽く頭を振って、玄関へと戻った。
リビングへ入ると、ポルナレフがキッチンからマグカップを二つ持ってやってきた。
「おお、アヴドゥル。紅茶淹れたぜ」
「ありがとう。おまえ宛に手紙がきていたぞ」
ポルナレフは片眉を上げた。
「おれに?」
テーブルにマグカップを二つ置き、ポルナレフはアヴドゥルからポストカードを受け取った。差出人の名前を見たポルナレフの目が見開かれ、その次に懐かしいような表情になり、それからバツの悪そうな表情へと変化した。それを見ていたアヴドゥルは、自分がどういう顔をしていたらいいか迷った。
「あ、あー……そうか。手紙、くれたんだな……」
「見てしまって悪いのだが、差出人の名前は女性だったな」
「妬くなよ」
「妬いてない」
アヴドゥルの食い気味の返答に思わずわらい、ポルナレフはソファに腰かけた。
「友だちだよ。近所に住んでたやつでさ。マジだぜ、付き合ったこととかねえからな」
アヴドゥルも隣に座り、マグカップを手に取った。
「いいやつだったんだよ。なんかこう、姉貴分、みたいな感じかな。シェリーもよく懐いててさ」
話を聴きながら、アヴドゥルは紅茶をすすった。適度に甘かった。
「だから、シェリーが死んだときは、すげえ悲しんでたよ」
アヴドゥルはポルナレフの背中をさすった。
「そんで、おれのこともすげえ気にかけて、くれてたんだよ」
なんとか葬式を終えて、茫然自失になっていたポルナレフを見かねた彼女は、ポルナレフの腕を引っ張って自宅へと連れて行った。
ひと言も発しない抜け殻のようになっていたポルナレフをダイニングテーブルにつかせ、卓上コンロとクレープパンを準備し、彼女はポルナレフの目の前でクレープを焼きはじめた。
しんとした部屋にコンロの火が燃える音と、生地が焼ける静かな音が鳴る。バターとグラニュー糖をまぶした生地を半分に折り、それを三度折るように巻く。シンプルなシュガーバターのクレープ。それを彼女はポルナレフの目の前の皿に置き、次のクレープを焼きはじめた。
目の前の皿にどんどん積まれていくクレープを、ポルナレフは茫然と見るだけで手をつけない。ふと彼女を見ると、彼女は泣いていた。ぼたぼたと涙をこぼしながら、それでもクレープを焼く手をとめなかった。それを見てポルナレフも泣いた。声は出なかったが、涙がうそみたいに出てきて、顎を伝って落ちていった。
生地がなくなって、焼くものがなくなって、彼女はようやく手で顔を覆って泣いた。食べてよ、あんたまでいなくならないで、食べてよと言いながら。