凪いだ海を見ながら仗助は自慢の髪型が潮風にさらされてベタつくのに溜め息を吐いた。
休日にどうせ暇をしているのだろうと仗助は歳上の甥である承太郎に呼び出されて海に連れてこられたのである。
ここで以前新種のヒトデを見つけた承太郎は、またあちこち見て回りたいらしくその採集の手伝いに駆り出されたのだった。もちろんバイト代は貰うことになっている。
気は進まないが、しがない高校生にとっては貴重な現金ゲットのチャンス。逃す手はない。金銭的に余裕のある相手の提示するバイト代は破格だった。
それでも説明の足りない上にわりと無茶な要求をしてくるから油断がならない。そして現在思いきりこき使われている。
あれこれと指示を受けて海水に脚をつけて言われるがままに見つけたヒトデやその他生き物を掬ってはバケツに入れたり運んだり肉体労働に勤しんでいた。
凪いでいるとはいえ日差しは強く、動いていると汗ばんでくる。
Tシャツの袖は肩の上まで捲っていて、しっかりと筋肉のついた二の腕が露になっている。日焼け止めなど塗っているはずもなく、すっかりと赤く焼けてしまっていた。
そんな中でも承太郎は薄手とはいえコートを羽織ったままで暑くないのかと思ってしまう。実際に口にしてみれば肌の露出は少ない方が逆に体力の消耗は少ないのだと言われた。
そんなものかと思いながら作業を続けていると、背後でカツンと何かが落ちる小さな音がした。
振り向いて見ればバケツを覗こうと屈んだ拍子に承太郎のポケットから小瓶が落ちたらしかった。
平らな場所に置いてあるとはいえ、磯場である。転がってしまえば海の中に落ちてしまう。しかし次の瞬間その小瓶は承太郎の手の中にあることを仗助は確認した。拾うような動作はなかった。
そのことから仗助は承太郎がその小瓶を拾うためだけに時を止めたことに気づく。
確かに見失う恐れはない。しかしわざわざ時を止めるほどのことかと思う。
「何落としたんスか?」
よほど大事なものかと興味が湧いてそう尋ねたが、はっきりとした返事はなかった。
それからしばらくして手伝いは終わり、約束のバイト代を貰って仗助は家に帰ったが何となく小瓶のことが引っ掛かっていた。
そのままもやもやしているのは性に合わない。とりあえず仲間にその話をしてみることにした。自分が気にしすぎなのかもしれないとも思ったからだ。
翌日の学校で会った康一と億泰に仗助は手にしたペンを玩びながら問いかける。
「なぁ、例えばよォ、このペンを落としたとしてお前ら拾うのに時間を止めたりするか?」
「えぇ?急に何の話?」
前置きもなく振られた話題に康一が首を傾げる。
「時間を止めるっつーのは承太郎さんのスタンドだよなぁ?なんかあったんか?」
億泰から聞かれて仗助は昨日の出来事を説明した。
落とした瓶を拾うために時を止めた承太郎。そんなことのためにスタンドを使ったりするのだろうか。
「んー、でも瓶てガラスでしょ?そんなところで落ちたら割れるかもしれないし、海の中に落ちる可能性もあったんでしょ?ならそのくらいのことするんじゃない?」
「おう。別におかしかねぇだろ?自分のスタンドなんだぜぇ?」
二人の言葉は尤もで、そう言われてみれば確かにそうかもしれない。それでも何となく納得できないものがあった。そこには言語化しにくい違和感があった。
結局それ以上の結論など出るはずもなく話は終わってしまった。
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初公開日: 2024年08月13日
最終更新日: 2024年08月13日
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