黒髪の青年の言うマルクト教団本部「神経塔」の中には、外の世界と地続きであることが疑われるような光景が広がっていた。
青年と同じく、大小さまざまな作り物の翼を背負った人々が行き交うその光景は、ややもすれば仮装パーティか何かに見える。しかし、作り物であるはずのその翼が、私の現実感をくらませていた。
「教団員のことを、偽装天使と我々は呼んでいます。背負った翼は、それぞれの偽装天使の階級や役割を示す、身分証のようなものです。大きい翼を持つものほど、教団内での位階が高い」
僕はこれでもけっこうえらい方の天使なんですよ、と背中の翼を示す青年の笑顔は、そこらでいくらでも見かける若い男性のもので、だからこそ私は困惑した。
周囲を見ると、教団員……偽装天使の年代や性別はさまざまだった。外国にある教会のようなアーチ状の通路の向こうからは、小さな翼を背負った幼稚園児くらいの子どもたちが走ってきたかと思えば、壁際では顔に深い皺を刻んだ老人たちが難しい顔で話し込んでいる。
「驚きましたか? 中の様子」
「……あなたたちは、いったい……?」
「僕らはある目的のために結集した団体です。その目的のために役立つ才能を持っていると見込まれる人々なら、子どもでも老人でもスカウトし、我々の仲間に加わってもらっている」
「私にも、その才能があると?」
青年は笑顔で首肯する。私に、彼らの言ういったいどんな才能があるというのだろう。
「それにしても、『偽装天使』とは……」
「ふふ……我々は確かにただの人間にしか過ぎません。この翼も本物の天使の翼じゃない。それを分かっているからこそ、我々は自分たちを『天使を装った者』と名乗っている」
「……」
青年と私は話しながらいくつかのドアをくぐり、やがてひときわ大きな扉の前に来た。
その扉は、これまで見てきた教会のような宗教的な内装と比べてまったく場違いな、巨大な鉄扉だった。それこそ、私が勤務しているけてる製薬の研究区画にあるような物々しい扉の存在に、私はたじろぐ。
青年はカードキーを取り出し、扉の横に設置されたリーダーに通す。ガゴンと重い音とともに扉のロックが外れ、その向こうには大型トラックが何台も入れそうなほど広い空間が広がっていた。エレベーターだ。