リバイバルブーム。一昔前の年代や時代の様々なアイテムやファッションや流行が現代に生きる若者たちに支持される現象である。
この度も兄や姉の結婚式の余興で使われていたとかで動画サイトの年代別に流行っていたメドレーのダンスや何かが流行っていた。
今回は先に第一期や二期に参加していたメンバーに抜けが出だとかで代理で強制的に参加メンバーに入れられてしまった。確かこれは動画サイトにあげるとか言っていた。フラグではないかと怯えた俺は他の飲み会メンバーにも話を通し話を大きくすることで己の出番を削ることに成功した。
「じゃあ撮るぞー」
何回かのリハーサルを終え本番に入る。第三期の流星群は十分越えの大作だ。十数名の参加者が入れ替わり立ち替わりダンスを踊っていく。俺の出番は前半も前半だ。頭の上で手で耳を作り腰を振るだけのダンスだ。振り付けは簡単で人数も多い。あまり目立たないポジションをゲットしたと言えるだろう。
踊り終えたら即座に隅に掃けて背景に溶け込む。この場には番だけではなくおひとり様のやつもいるのだ。気は抜けない。
「失礼します。ドリンクをお待ちしまし……、あっ!」
「あ、あー、旗野くん」
何ということだろう。出入り口付近の壁際に立っていたのが仇となった。冷やかしの合いの手を入れていたらノックの音を聞きそびれた。
静かに部屋に入ってきたベスト姿の店員の登場に固まる。何故ここに告白小僧がいるのだ。
「あの、えと、ドリンク、何を頼みましたか?」
「え、あー、普通にウーロン茶だけど。って旗野くん。他の奴ら踊ってたりするし、机の上に置いといてくれたら大丈夫だよ」
「え、あ、そ、そうですね」
俺にウーロン茶を手渡したあと他のメンバーにも一人一人声を掛けようとするのを止める。もしかして慣れていないのだろうか。
「旗野くん。何でここにいるの?バイト?」
「俺のダチが風邪引いて。大口の予約入ってるから穴開けれないって言ってたんで代わりに」
「そうなんだ。偉いね」
その大口の予約を入れた馬鹿はどこのどいつだ。俺たちだよ。何これ、ただでさえフラグ沸いてんのに更に最大のフラグが参戦して来るとか聞いてないんだけど。帰って良いかな。帰っていよな?本番撮り終わってんだから帰って良いだろ
「あ、小賀ちゃん。これ電源オフになってんぜ」
「へ、嘘まじっ?ってうわぁ!!」
「わっ、わわ」
「あっぶね!?」
などと思っていたらそうは問屋が卸さなかった。ドミノ倒しのように人が倒れてきて最後の一人が旗野くんにぶつかる。飲み物を持ったまま倒れそうになった高校生を咄嗟に受け止める。
ごしゃっと鈍い音がした。何だ何だと見てみれば今回のメインダンサーの一人と不運男が何故かビデオカメラを巻き込んで転んでいた。
それだけでも大変なのにその前にもなにか不安な台詞を聞いた気がする。
「おいおい、大丈夫かよ」
「駄目だ。こいつも小賀も伸びてる。悪い。俺ら抜けるわ。小賀のこと宜しく」
「おう、お大事にな」
「なぁ、小賀のやつマジで電源入れてなかったっぽいんだけど」
「え、どうすんの?撮り直し?」
「だよなぁ、ってか三脚壊れてんだけど。あいつらも帰っちゃったしどうする?また後日改めて撮り直す?」
「無理だよ。メンバー集まん、の今日しかないし」
「代役ったって今から誰か呼ぶの無理だろ」
「大丈夫だろ、こいつ踊れるし」
「は?」
ごめんなさいごめんなさいを連呼している高校生にかまけていたら突然腕を引かれた。待て、今何がどうなっているんだ。全然聞いてないんだけど。みんな何をそんなほっとしてんだ。
「んじゃ撮り直すか」
「三脚ないけどどうする?交代で撮影する?」
「すみません。店員さん。撮影係お願いして良いですか?三十分。いや二十分で済むので」
「え、あ、は、はい」
「ありがとうございまーす」
「よっしゃ、一発で成功させっぞ」
「頼んだ!!」
「何が?」
本当に俺を置いてとんとん拍子で話が進んでいく。待て状況を把握させろ。一体何がどうなっているんだ。と言うか旗野くんもバイト中なのに撮影係を託されて引き受けるんじゃない。
そんな心の抗議を無視して周囲は盛り上がる。抜けた穴を俺が埋めろと先ほど意識不明に陥った重症患者のポジションを割り当てられる。いや踊れるか踊れないかと言われたら踊れるが。
「それじゃあ撮影スタート!!」
異様な盛り上がりを見せる周囲の熱気を止められるはずもなく撮影は再スタートする。先程他人任せにしていて撮れなかったからかビデオカメラを構えた旗野くんの両脇を挟むように人が立つ。
音楽が流れ始めてしまった。昔とった杵柄と言うものか体が勝手に動く。メインダンサーは七人だ。先ほど伸びたやつはメインダンサーと言えど脇役に近いから画面の中央に映ることはないが三組は番で俺だけフリーである。フラグだろ。完全に世界に狙いを定められている気がする。誰かの目に触れる前に動画を抹消できないだろうか。
旗野くんからの視線を感じる。先ほども踊っていた手を耳にして腰を振るだけのダンスに羞恥心が煽られる。穴が開くからそんなに凝視しないで欲しいのだが。十数分ダンスを踊り続けるだけでもキツイのに何故、何故こんなにも食い入るような目で見られなくてはならないんだ。
一風変わった女子高生が世界の神様のラノベのエンディング曲に入った時は血の気が引いた。俺が代役をやっているダンサーがメインで踊っていたポジションだ。中央に踏み出せばずっとカメラは真ん中に首だけは俺を追って動かしていた旗野くんの目が丸くなりぶわりと背景を輝かせた。
嬉しいのか。そうか。別に俺が望んで踊ってるわけじゃないんだけど。
苦難の時間は体感時間が長い。内心は泣きながらやけっぱちで踊り続ける。普段はミジンコ並の俺の体力は何故かラストまできっちりと持った。大学に入ってからこれほどキレのある動きで動けたのは初めてだ。いらん。そんな配慮はいらん。
大学のメンバーとの友情に亀裂が入っても良いから、この目の前で瞳と表情を輝かせている厄介小僧からの評価を地の底に落として欲しい。
「はい、カット!!」
長く辛い時間が終わった。周りのメンバーが息を吐き、続いて湧き上がる。リハーサルとお釈迦になった本番を振り返っても最高の出来だ。さぞかし気持ちが良いことだろう
「あ、あの、かっこよかったです!!」
「はは、そう?ありがとね」
「はい、あ、これ、ウーロン茶です。飲んで下さい。おかわり入りますか?今なら三十名以上のお客様には一人一杯無料なので」
「あ、うん。宜しく。みんなの分も。それから唐揚げとポテトもう無くなりそうだから注文して良い?。パーティーセット一つ。それから生ビールを人数分ね」
「すぐ持ってきます!!」
ビデオカメラを撮影が終わった途端に旗野くんに近付いて行った男に押し付けて、旗野くんが俺の前に駆け寄って来る。自分が踊った後かのように上気した頬で興奮したように感想を伝えて来るし、飲み物を手渡されるしおかわりまで提案されてしまった。
俺に気を取られていたのに仕事は忘れてなかったんだなと呆気に取られて追加注文をしてしまった。まぁ良いか。このテンションならみんな食うし飲むだろ。
すぐ持ってきますとの言葉通り旗野くんは俺たちの盛り上がりが冷め切らないうちにおかわりのウーロン茶とビールを持って現れた。お陰で俺以外は良い気分のまま今回の撮影は終了した。
何だろうな。なんか忘れている気がするわ。
「おい、何だよこれ」
「あん?何それ?ーーあ」
後日、反抗期の弟に兄がノリノリでダンスを踊っている動画を発見された。散々罵られ目が腐ったからとアイスを奢らされ散々な間に合わされる。
「あー、旗野くんから聞いたのか?」
「何で旗野?三郷から見せられたんだよ。三郷の弟がお前が俺に似てるとかで三郷に見せて、で、今俺のクラスに出回ってんだよ。マジ一族の恥」
何ということだ。俺が写っている動画が広まっている。これがデジタルタトゥー。
戦々恐々とする報告に混じるささやかな救い光る。あの撮影の後、旗野くんに動画のことは誰にも言わないでくれとお願いしていたのだ。
全世界公開だから誰に見つかっても仕方ないとは言えあの子は約束を守ってくれたらしい。
ありとあらゆる奴が世界に踊らされるこの世界での俺の味方、実は旗野くんしかいないんじゃないのか?まさかなぁ。
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即興旗主60分 6月30日
初公開日: 2024年07月01日
最終更新日: 2024年06月30日
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即興旗主60分 6月30日
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