失敗した。
 と、思ったがもう遅かった。
 受け取る者のないボールが転々とコートの外に転がっていくのを、深津は呆然として眺めた。
「……深津、」
 酷く心許なげなエースの声に、「悪かったピニョン」と答えて誤魔化した。誤魔化せていないことは、隣の河田の気配からも明らかだったが、他に打てる手がない。
 秋の国体はなんとか保った。
 しかし、冬の選抜を見据えた今、とうとう化けの皮が剥がれた。深津は意識して深く息を吸う。無論、松本にも、河田にも気付かれないように。
 パスの精度が明らかに下がった。
 それは解っている。その原因についても予想はついていた。だが、改善策も検討済みであったが、どうしても上手く行かない。
「考えすぎだべ」
 と、最初に河田に言われたが、今では、
「おめさんも人の子だってことだな」
 と評されるに至る。場合によっては苦笑と共に。まったく納得がいかない。
「すまない、これは俺が悪い」
 更には、真顔で松本に謝れるに至って、ようやく深津も認めざるを得なかった。
 これは、自分の問題だ。
 パスの精度が低いのは、プランの精度が低いと云うことだ。
 プラン? そう、パスが通る速度もルートも、これまでの想定と違ってしまった。もう、深津のチームのエースは〝彼〟ではないのだから。
 だからパスのタイミングが合わないし、出した先に受けるエースがいない。
 彼の速度に、彼の癖に、彼の呼吸に合わせていたのに。
 もう、彼はいないのだ。
 そんな彼の残像に、今、自分は惑わされている。
 どうしようもない事実に、腹が立つ。
 無論、その憤怒も焦燥も顔に出さず、深津はいつものようにボールを手にする。余りに手に馴染んで、もう自分と明日と世界の境界線でさえ曖昧なのに。
 それでも、ボールを投げた先に、確かに、いつも
 嗚呼、これは呪いだろうか?
 否
 そうか、これはただ、彼の残り香に過ぎない。
 過ぎない、のだけれど。
 どうしようもなく、彼の残像が邪魔をする。どうしようもなく。
 深津はただ、強くボールを抱き締める。
カット
Latest / 19:01
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
沢深ワンドロワンライ_残り香
初公開日: 2024年06月01日
最終更新日: 2024年06月01日
ブックマーク
スキ!
コメント
ちょっと出来心で旅先ですが沢深ワンドロワンライ参加しようかと