私の悪夢には明確な匂いがある。
硝煙の匂いだ。
その悪夢は、私が眠りに落ちるのを待たなくなった。まぶたを閉じるだけでその悪夢は、時を得たりとばかりに私の脳裏から這い出てくる。
硝煙の匂い。
銃口から細く立ち上る煙は、今しがたひとりの人間の命を奪ったとは思えないほどか細く頼りない。かすかに隙間の空いた窓から風が吹き込み、カーテンを揺らす。
銃口の先にあるのは、ベッドに横たわる姉の姿。
いつもと同じ表情で。いつもと同じ顔色で。いつもと同じ、豊かに波打つ長い金色の髪が、ベッドの上できらきらと輝いている。
いつもと違うのは、赤。
清潔なシーツの上、ベッドに身を横たえた姉の胸の上。赤い赤い、大輪の花を抱えているように、私には見えた。
視線がゆっくりと私の意思を無視したように自動的に動き、銃口とは逆の方向をたどり、引き金にかけられた指と手を捉えた。
知っている手だった。父の手だった。
父の手と、その手に握られた猟銃と、ベッドの上の姉と、その胸の上に咲いた赤い花と。
全てが結びつかない。
結びつかないまま、硝煙の匂いだけが奇妙に明白だった。
父がなにか言っているのも、使用人たちが足音を立てて廊下を行き来しているのも、どこか遠く、100万キロ先の出来事に感じられた。
全てが幻のように、歪んだ妄想のように感じられる中で、硝煙の匂いだけが真実だった。
「……様。上級天使様」
目を開けると、そこには教団唯一の黒白の偽翼を背負った偽装天使である天導天使がいた。
「お疲れのようでしたら、報告は……」
「構わん。なんだ」
目頭を押さえながら答える。気配だけで天導がためらっているのがわかった。そのまま視線を向けず、片手を差し出すと、天導はややあってデータパッドを渡した。
「計画に進捗がありました。神から……創造維持神から」