正常な感覚機を持たない「それ」にとって、接近してくるその存在は「巨大なエネルギーの塊」としてしか認識できなかった。そこから立ち去ることも攻撃することもできず、「それは」その巨大な存在を曖昧に感じ取っていた。
 その存在の放つ存在感は圧倒的で、この宇宙の中であまりにも矮小な「それ」は、その存在感だけで消失してしまいそうだった。ただでさえ正常に機能していない感覚機が眩み、わずかに体表を覆っている生体金属は今にも融解しそうなほどの熱量を受けている。
 そのまま蒸発するかと思われた「それ」の意識が、ゆっくりと明瞭になっていく。竜骨(スパイン)にエネルギーが流入し、十分なエネルギー供給を受けられず自然分解する寸前だった生体金属が活性化。機能不全を起こしていた感覚機がひとつひとつ機能を取り戻していく。
 機肺(ラング)がその吸入口を広げ、星間物質(エーテル)を呼吸する。機体各所の機能が正常化したことで、「それ」は明確な意識を――自我を取り戻していた。否、発生から28万時間もの間明確な意識を持たなかった「それ」にとって、今このときが実質的な誕生だといえた。
 同時に「それ」は、目前にいるその存在を正常な感覚で改めて認識し、その存在が自分にエネルギーを分け与えたということを理解した。
 「それ」はひどく困惑した。この宇宙に不完全な機体と不完全な意識で生まれ落ちて以後、攻撃対象として認識されることすらなく自然分解を待つのみだった「それ」にとって、自分以外の何者かから何かを分け与えられることなど初めての経験だったからだ。
 正常な機能を取り戻し急速に自意識を構築しつつあるそれの竜骨(スパイン)から、その存在を維持するための自己保存本能とそれを満たすための基本原則が自意識の核を構築していた。外敵の排除、危険の回避、エネルギーの奪取……その基本原則のどこにも、「他者へ分け与える」という選択肢はない。
 自分にエネルギーを分け与えたその存在に対し「それ」の自意識は深刻な葛藤(コンフリクト)を引き起こし、攻撃あるいは回避といった次の行動を取れないでいた。
 ループする思考の中で、「それ」は本能的に何度も目の前の巨大な存在を知覚(スキャン)した。
 これまでに遭遇したどんな機体をも凌ぐ巨体。二腕二肢の躯体(フレーム)。そしてその心臓部には、宇宙の闇を圧して輝くあの太陽と同質の力を感じさせる光核(コア)。
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