真正の太陽剣の継承者たるネグザルツにのみ許されたそれは、己を死地に追いやる文字通り命を削る奥義。
ネグザルツの太陽剣とレインディアの疑似太陽剣の拮抗が、ここで初めて崩れた。交錯していた疑似太陽剣が正面から叩き折られる。レインディアには寸毫の間合いまで迫った必殺の一太刀を躱す術は――ない。
防護フィールド破砕。二次装甲蒸発。
次いで一次装甲が切り裂かれ、特に堅牢に保護されていた急所であり、神経節の集中束である竜骨(スパイン)が露出する。
「ーーーーーーーーーーッ!!」
宇宙空間にノイズまみれの絶叫を撒き散らしながら、レインディアは完全に機体のコントロールを喪失。機体開裂部から星間物質と破砕された生体金属をこぼしながら岩塊に激突し、その半身をめり込ませながらようやく停止した。
しかし、レインディアを破ったとはいえ、ネグザルツはそれ以上のダメージを負っていた。大太陽剣の使用負荷によって片方の機肺(ラング)は内側から破裂、星間物質(エーテル)が結晶化しながらこぼれ出ている。機体の各所は開裂し、数カ所は生体装甲が熱量に耐えきれず熔解。装甲が喪失した部分からは引きちぎられた神経網が垂れ下がっている。感覚機(センサー)の大半は死に、周囲の状況はおろか前方視界すらも半分以上がホワイトアウト。
自己修復はすでに開始しているが、機体は30%以上が損壊。再起動までにはかなりの時間を擁するだろう。機体に残ったエネルギーを全て自己修復に充て、ネグザルツはスリープモードへ移行。
――その寸前、混濁した意識の見せた幻影か、それとも現実か。
揺らぐ視界の中、ネグザルツが見たものは確かに――母の姿だった。
(パート1 終了)
(パート2 ネグザルツの回想:原作プロローグに相当)
光の中にあって、自身の昏(くら)さだけが明瞭だった。
身を灼くほどの太陽の光は、暗黒の宇宙の中にあってなお、絶対の存在として君臨していた。
対して「それ」の存在はあまりにも矮小で、どうしようもなく脆弱だった。
その機体を構成する生体金属は正常に成長しておらず、機肺(ラング)は満足に星間物質(エーテル)を呼吸することすらできていない。発達が阻害された竜骨(スパイン)はいびつに歪み、明瞭な思考や自意識ももたらしてはいなかった。
欠落感と喪失感。そのふたつが、「それ」が自我よりも先に己の身に宿していたものだった。
生まれながらにして全てが不完全で、なにひとつ満たされたものを持たない。この宇宙にしばしば産み落とされる水蛭子(エラー)。
通常、そうした存在は機体構造を維持できずに自然分解するか、より強く大きな個体に排除されるかのどちらかだった。生存することはまずない。
しかし、いかなる偶然か――あるいは運命か。「それ」は誕生から28万時間という長時間にわたって生存し続けていた。だが、それだけだった。
属するべき氏族(クラン)もなければ討ち滅ぼすべき敵もいない。「それ」はわずかな星間物質(エーテル)を消費しながらデブリのように無目的に宇宙空間を漂うのみだった。
もはや時間の感覚すら失いつつあったとき、「それ」の茫洋とした感覚機が、何かが接近してくるのを感知した。