声が好きなんだと思う。
 私を気遣ってくれる優しい声。出逢ったばかりの時は今より少し高い。今まで仲良くなった年上の友達とは違う、同じ歳の友達なんだって、なんとなくそう思ったり。
「アオイ」
 名前を呼ばれるだけでドキドキするなんてどうかしてるんじゃないだろうか。好きを自覚したとき真っ先に思い出したのはスグリの優しい声だった。もちろん向けてくれる笑顔やぎこちなく触れてくる手や肩にも胸は高鳴るけど。その中でも彼の声は別格だ。
「バトル学の復習さ、しねえ?」
「する!」
 その日はたまたま、部室に人がいっぱい居て静かに出来るような状況じゃなかったから二人で図書室に向かった。
 テラリウムドームで実践的な授業が多い校風ということもあり、図書館で勉強しようと思う生徒は少ないのかいつ訪れても人は少なく好きな場所に座れて私は気に入っている。
 図書室の壁にも他の教室や寮部屋と同じように窓代わりのモニターがある。なんとなく他の部屋より明るさが落とされているような気のするこの場所が新設された学園の中で唯一、アカデミーを思い出させる。
「どこ座る?」
 勉強をするのでいつものウエストポーチだけでなくリュックを背負ったスグリくんが周りを見渡しながら聞いてきた。本当に人がいないし、その顔ぶれも何度か見かけた人──、つまり常連しかいない。特にその人たちは基本的に決まった場所にしか座らないみたで、一人ひとりがまだらに広い図書室内の座席を埋めている。
「あの端がいいな」
「ん、分かった」
 私もいつも座っている場所を指差した。
 生態学の資料が並べられている本棚の近くの席で、ポケモンの特性とかが一覧になった辞典が見やすい。
 スグリくんが私が足を進めるより先に行こうと隣を抜けていくところで、私の肩に掛けていたリュックを取っていった。私が呆気に取られていると彼は薄く笑いながら振り返った。
「いつも読んでる辞典取ってきたら? あれ貸出できねえもんな」
「う、うん」
 彼と図書館に来たのは今日とあと一回ぐらいしかない。なのにここに来る度に読んでいるものを知られているということに驚いた。
 なんでだろう…という疑問を持ちながら厚意に甘えてまず辞典を取りに本棚に向かう。
 目立つ場所にある目立つ大きな辞典の背表紙には分かりやすく“禁帯出”と持ち出し禁止を表すシールが貼られている。
「んっ、と」
 抱え込むほど大きいく重い本。千体以上のポケモンについて書かれているんだから当然か。
「あった?」
「うん」
 座席の方からスグリくんがひょっこりと顔を出す。声変わりして低くなった声に対して挙動は変わらないところがいい。
「重いべ? 持つよ」
「大丈夫だよ?」
「いいから、いいから」
 彼はそう言って辞典を持って荷物を置いてくれた席に向う。
 本を渡すときに一瞬だけ手が触れ合って心臓が跳ねた。身長はまだまだ同じぐらいなのに手の大きさも感触も全然違うだと実感する。
 漸く席についてノートと教科書を開く。ノートと言っても私はタブレットをノート代わりにしていてタッチペンで書き込んでいく。隣にいるスグリくんだけがサラサラと鉛筆で文字を書く流れるような音を出している。なんとなくこの紙と鉛筆の擦れる音を聞くと「勉強してる」って気分になる。
「この試合のポケモンっこ、わや陰湿な戦法だけど強かったなあ」
「そうだね…ムラっけドーブルに、アローラベドべドン……」
 ある程度ダブルバトルの経験を積んでいれば見かける並びに私たちは同時にため息が出る。
 この二体の組み合わせに遭遇した際の適切な対処法、また選択させない構築の組み方などが課題に出されている。バトル学の中でも実践的な授業で単位を取るのは大変だと先輩たちは口を揃えるが、私にはこれが心地よく、スグリくんも同じように思っているようだった。
 最初の三十分ほどはほぼ会話もなく静かに勉強をしていた。たまにスグリくんが「辞典、俺にも見せて」と聞いてくるので並んで座ったテーブルの真ん中に置いてどちらからでも見えるようにした。
 そうすると時折、ちょん…ちょん、と肩が触れ合う。なで肩で少しずり落ちたジャージから覗く彼の肩が私に当たる。
 近い。
 爽やかな石鹸の香りとスグリくんが普段食べているチョコ菓子の匂いが微かに私の鼻をくすぐってくる。
 甘いな。温かいな。陽の光なんて入ってこない海の底なのにまるで日光を浴びているみたいだ。
「あっ」
 スグリくんが声をあげて私もタブレットから顔を上げた。
 私の正面をスグリくんの消しゴムがコロコロと転がって行った。私が手を伸ばそうとする前に彼は私に対して身を乗り出し、消しゴムへ手を伸ばした。
「ごめん、自分で取るから」
 言葉が先か、行動が先か、とにかく彼は私の方へ転がった消しゴムを取るために、私に抱きつくように身を寄せた。
 タンクトップ一枚に隔てられた彼の胸板に顔を寄せるような体勢に私は混乱した。
 さっきの辞典を見せるための接触とはレベルが違う。本当に抱きしめられているんじゃないかって、側から見たら誤解されそうな距離感だ。だって私の顔はスグリくんの胸板に収まってしまっているんだから。
「…ん、とれた」
 低く掠れた声が耳へほぼゼロ距離で発せられた。くすぐったくて身を捩るしかない。なぜか肩に乗せられていた手が離れてスグリくんの熱が完全に離れていくと、胸が空くように物足りないような気がしてきた。
「なした?」
 頬杖をついて私の顔を覗き見る。
 緩んだ口元。溶けるような蜂蜜色の瞳は私をまっすぐ見ていた。
「わざとやってる…?」
「…………」
 スグリくんは黙り込んだ。けれど視線は変わらず私を見つめて離さない。
 揶揄われているならタチが悪い。私は本当にスグリくんのことが好きなのに…
「意識してくれた?」
 まるでイタズラを楽しむニャオハのようなあざとさの見える笑みだった。
「え、」
「長かったなあ…俺、わや頑張ったんだべ? アオイに好きになってほしくて」
「ちょ、ちょっと待って」
 オーバーヒートが顔から出そうだ。
 なに、どういうこと。私はスグリくんが好きだけど、彼はそれを知っていて、彼も私が好き…?
 側から見たら私は目を回しているんだと思う。視界が揺らいでいる気がする。
 スグリくんは一度、周りを気にするように視線を他所に向けたあと、私の耳元に口を寄せた。
「アオイ、大好き」
 大好きな声で、彼は私に“大好き”と言う。
 タッチペンが溢れ緩く開いているだけの手を彼は握って、熱い体温さえも使って私に伝えてきた。
 脳を溶かす、甘い声に私は首を縦に振るしか出来なかった。
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06:23
ななし@c70cef
美都です!こんばんはー今日もお邪魔します🎵
09:46
ななし@f43745
するするー🍌
13:16
ななし@f43745
人がいない図書室なんてもうなんでもできるね…そう、おセンシだって描ける…
13:26
海棠ひより
w
18:49
ななし@f43745
割と人がいるべ。ベロチューはバレそうだな…🤪
19:18
ななし@f43745
死角をねらってけ!
23:43
ななし@f43745
紳士じゃん…🙄
26:34
ななし@f43745
アオイちゃのこと見てるってコト…💜
77:31
海棠ひより
お付き合いいただきありがとうございました!軽く修正して投稿します。
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向き
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私はどんなスアを書こうとしていた?
初公開日: 2024年03月21日
最終更新日: 2024年03月21日
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コメント
ピュアピュアなスアを多分書こうとしてたので書きます。
ワンライ書きます
スグアオのワンライ書きます。同じく作業する方もどうぞ。
海棠ひより
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