「離さないで」
君は時折、そう言って僕に縋る。
その度に僕は君の髪を撫でながら、抱きしめてこう言うんだ。
「大丈夫、側にいるよ」
たったひとこと。
それを聞いた君は安心したような顔で少し笑う。
……何度、同じ事を繰り返せば判ってもらえるのかな。僕が君を離す訳ないのに。
何がそんなに不安なんだろう。
こちらとしては不安にさせる態度をしてるつもりはない。
……それとも君の事を判ってないのは僕の方なのか。
君が本当に欲しいものをあげられてないのかな?
もしそうなら、それは何だろう。
少し考えてから君の名前を呼ぶ。君は顔を上げて僕の方を見た。
「……何か、僕にして欲しい事はある?」
「…………」
何も言わず、君は僕の顔をじっと見る。
君の目の中に僕が映ったが、それは目が伏せられた事ですぐに見えなくなった。
「……そばにいて」
そう言って君は再び僕に身を寄せる。
……何度も繰り返されるやりとり。
いくら言っても僕の言葉も気持ちも伝わらない。響かない。
君が抱える不安はどうしたら消してあげられるんだろう。
自分の無力さを情けなく感じながら、僕は顔を君の髪の中へ埋める。
「……いるよ、ずっと」
……考えても出ない答えに、僕はそう言うのが精一杯だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「離さないで」
私はそう言って、貴方の胸に身を寄せる。
……こうすると貴方は必ず、優しく微笑んで私を抱きしめ、柔らかい手つきで髪を撫でてくれる。
「大丈夫、側にいるよ」
たったひとこと。
それだけで胸は満たされて安心する。
……でもそれはこの場の一時だけ。少し時間を置けば、私はまた不安に駆られて貴方に縋り、同じ事を繰り返す。
……本当に、どうしようもない自分。
貴方はいつでも優しくて、沢山のものや気持ちを与えてくれる。……でも、私は何も返せてない。
与えられてばかりの情けない自分。
いつか貴方に呆れられて、見限られるんじゃないかと不安でしょうがない。
貴方がそんな事を思ってないのは判ってるのに。
……不意に、優しい声色で名前を呼ばれて顔を上げる。
そこには柔らかい微笑みを浮かべる貴方の姿。
「……何か、僕にして欲しい事はある?」
まっすぐこちらを見る貴方の目の中に私が映る。
……情けない、私の姿が。
それを見たくなくて、私は視線を下に落とし。再び彼の胸に身を寄せた。
「……そばにいて」
温かい腕の中、優しさが身にしみて……刺さって、痛い。
それでも感じる心地よさがある。離れたくない。
そんな事を考えていたら、貴方が頭を私の肩に当ててきた。
「……いるよ、ずっと」
小さく聞こえた貴方の声はどこか寂しげで、泣きそうなものにも感じて。
……きっと、私は貴方を傷付けてるんだろうな。
情けなく思いながらも、変われない自分はどうしようもなくて。
貴方の優しさに甘えたまま、私は目を閉じた。