アカデミーの卒業式が終わり、一週間が過ぎたある日の事。
「……ええっ!?」
穏やかな午後の時間、男性の大きな声が辺りに響き渡った。
「家を出るって、何でそんないきなり!?」
「いきなりというか……元々卒業したら出ようと思っていたので……」
あわあわしている後見人──ラマに対してレヴィスは少し困ったような表情を浮かべている。
事の発端は昼ご飯の後。相談をしたい、とレヴィスが言って切り出したのが「家を出る」話だった。
「何、フロートさんと一緒に暮らすから!? 部屋ならあるから良いよフロートさんもウチにいてもらって!」
「……いや、それもありますけど、それだけじゃなくて……」
ラマの発言に顔を若干赤くしながら否定をするレヴィスを見つつ、今度はクレアが口を開く。
「先に言っておくけど、あたしも兄さんに付いて家出るからね、ラマ様」
「クレアまで!?」
レヴィスの横に座っている金髪の少女の言葉にラマは更に大きな声を上げた。
「今日はこれから内見して、良かったら準備出来次第出ていくから。決まってから話すと揉めそうだから先に話しておくね」
「何でそんな急に! この家に一人で住むの寂しいんだけど!」
縋るような表情と声を向けてくる後見人に対し、レヴィスが申し訳なさそうな顔をする一方、クレアは呆れたような目を向けた。
「エリルさんを呼んで一緒に住めば良いじゃない。とにかく、そろそろ時間だからもう行くね。行こ、兄さん」
「……あ、あぁ……」
椅子から立ち上がり居間を出て行く妹と呆然としているラマを交互に見ながらも、レヴィスは先を歩くクレアを追ってその場を後にした。
そのまま玄関から外に出れば、門の所で待っていたらしいフロートがレヴィス達の方へ顔を向けた。
「こんにちは、フロートさん! お待たせしちゃってすみません」
ニコニコ笑ってそちらへ駆けていくクレアの後ろから、レヴィスはフロートへ声をかける。
「悪い、待たせた」
「それは良いんだけど……叫び声が聞こえたのは大丈夫……?」
「あ、大丈夫です。ラマ様がちょっと騒いでただけなので」
「…………」
心配そうな表情を浮かべる少女に対し、パタパタと手を振りながら明るく答える妹の姿をレヴィスは微妙な顔で眺めていた。
卒業後、家を出てフロートと一緒に住む事にする──そう最初にレヴィスが伝えたのは妹のクレアだった。クレアは一瞬嬉しそうにパッと顔を輝かせたがすぐに何か考え込み、申し訳なさそうに顔を向けてきた。
「あまり邪魔したくないから、出来たらで良いんだけど……あたしも付いて行っても良い?」
「え?」
その言葉にレヴィスが首を傾げれば、クレアは苦笑い混じりの表情を返す。
「あたし達の面倒をみてたら、ラマ様とエリルさんいつまで経っても結婚しなさそうだし……兄さんが家を出るなら良いタイミングかなと思って。兄さんとフロートさんの邪魔もしたくはないけど、一緒に出た方が流れとしては良さそうだし……」
エリルはラマの恋人だが、レヴィス達が無事に成人するまではそちらを優先したいというラマを尊重して一緒に住んではいない。傍から見ていてもいつ結婚しても良さそうな間柄でもあるし、レヴィスもそれは気になっていたので妹の言い分に納得した。
「……なるほどな、判った。大丈夫だとは思うけどフロートにも聞いてみる」
「ありがと。宜しくね、兄さん」
二つ返事で答えたレヴィスにクレアは笑顔でお礼を言って──その後、フロートからも快諾をもらえて迎えた本日である。
「見に行く場所、お店としても使えるんでしたっけ」
「うん、そう。一階が店舗スペースになってて、二階が居住スペースだって。カルロ先生が手配してくれてるし、国管理の所らしいから家賃も割安になってるみたい」
「良い物件だと良いですねー」
「そうね」
会話を交わしながら歩く二人の背中を見つつ、レヴィスはふぅ、と息を吐く。
ロアドナで生活するといっても、国所属の機関で働く訳にはいかない。何かあれば徴収の命令がでるからだ。探索者ギルドも同様で、そうなると自営業しか選択肢はなく……フロートと話し、ラピスやカルロに相談した結果、道具屋を開いてアイテム販売をしようという事になっていた。
薬系はボッカから仕入れれば良いし、道具は簡単なものならレヴィスも作れる。魔力や法力を付与すれば魔法具にも出来るし、探索者相手に需要はあるだろうと考えたからだ。
そうして歩くこと二十分。
ロアドナ郊外、森に近い場所に白い建物がひとつ、ぽつんと建っているのが見えてきた。
「あそこですか?」
「もらった地図だとそうね」
見上げてくるクレアにフロートは地図が載ったチラシに目を落とす。建物に近付くにつれて、入口に誰かが立っているのが見えた……が、そこに居た人物の姿にレヴィスとフロートは「あっ」と声を上げた。