あなたに今日、想いを伝えたかった。私にはその勇気というものが足りなかった、のかもしれない。
あなたはいつも通りとはいかず、少しソワソワしていているような気がした。好きな人からのチョコを待っているんだろうなって、そう分かってしまう。理解できるのが辛い。見たくもなかった。
あなたには彼女がいる。知っている、分かっている。だから、諦めたんだ。想いを伝えることで、困らせたくなかった。ただの言い訳にしか過ぎない。こんな、言葉。
「彩羽、つぎ移動教室だよー?」
可愛くて優しくて、勝ち目なんてあるわけない。
「うん」
チョコみたいに甘くなくて、この感情は苦くてどろり、としたもので。
「ん?どした?」
「ううん……何でもないの」
本当に、何でもない。この感情が器からどろり、と溢れないように。わたしは
__蓋をしなくてはいけない
綺麗にラッピングなんてできない。したく、ないよ。怖い。拒絶されたら?馬鹿にされたら?勇気がないから、こんなこと思っちゃうのかな。嫌だな。こんなわたしがきらい。
「今日ってバレンタイン、だよね」
やめてよ
「……うん」
「私ね、伊織に渡そうと思ってて」
ああ、器から溢れてくるかもしれない。お願いだから、やめてよ。
「彩羽に試食、してもらいたくて」
「分かった。いいよ」
この口は思ってもない言葉がするりと出てくる。
「ほんと?やった」
ああ、可愛いな。そんな風に笑わないでよ。眩しい。直接見てしまったら、身を焦がしてしまいそう。
「楽しみだな」
「うん!楽しみにしてて!」
___甘いや
「どう、かな?」
「ん…わたしには甘いけど…美味しいよ?」
伊織って甘いのいけたんだっけ。
「そっか…!良かったあ…」
嬉しそうな顔をする。髪型もおろして、ハーフアップにして。
「ありがと、彩羽!」
「大したことはして、ないよ」
「ねえ、これ」
「え」
「友チョコ!」
「あ…ありがと…」
「わたしからも…その友チョコ」
「ありがとー!彩羽」
ラッピングうまくいかなかったけど。うまく作れた、と思う。じゃあねー、と莉緒の声を後にしながらわたしは家路についていた。もうチョコ渡したのかな。なに、してるんだろ。わたし。
「ただいま」
「おかえりー」
お兄ちゃんが帰ってきている。
「彩羽……。伊織には?」
横に首を振る。
「そっか」
そんな悲しそうな顔をするのやめてよ。わたしだって泣きたい。わたしだって、想いを伝えたら何か変わるんじゃないかって。
「彩羽、泣いていいんだよ」
「うん」
泣いて、いいのかな。諦めちゃって、いいのかな。久しぶりにたくさん泣いた。お兄ちゃんの腕の中で。
2月15日。
「……」
「どうしたの?莉緒」
「なんでも、ないよ」
莉緒の様子が変だった。どうしたの、と聞いてもはぐらかされて。何かあったことは間違いないのだ。ただ、彼女は言ってくれない。わたしを信頼してないから、だろうか。そう考えると途端に感情がどろり、とまた器に入ってくる。
「わたしに言ってくれればいいのに」
でも何か言われても私にできることなんてあるのだろうか。それでも、だなんてただのわたしの我儘にすぎない。わたしは、待つことしかできない。なんて臆病者なのだろう。待つことしか、できないだなんて。
2月17日。
彼女から、連絡が来た。
 RIO
話、聞いてもらってもいいかな?
もちろんだよ
話を聞かせてくれるのだろう、きっと。
RIO
ほら、私と伊織って付き合ってたでしょ
うん
惚気なんて聞きたくもない。
RIO
別れようって言われちゃってさ
RIO
ほんとショック笑
わたしはどんな反応をすればいいのだろうか。迷いながらも一字一字打っていく。
そう、だったんだ
RIO
私、よく分からなくなっちゃってさ
しょうがないよ
RIO
話、聞いてくれてありがと
わたしに何を求めていたのかな。
バレンタインはもう___過ぎてしまったけれど。甘くなくて、苦くもないチョコをあなた伊織に渡しにいこう。あなたは甘いのが苦手だから。あなたを想ってチョコを作ったの。あなたのために。好きという言葉を言えるかな。
彩羽sise終了
バレンタインというイベント。好きな人や友達、家族、先輩後輩、先生にチョコを渡す。かくいう私も好きな人にチョコを渡すつもりでいた。
「どんなの作ろうかなあ……」
喜ぶ顔を見たい。甘いチョコはどうだろう。どういう形にする?
「楽しいな」
こうやって考えることがどうしようもなく幸せで。喜ぶ顔を想像するだけで、楽しくなる。私はバレンタインが好きだ。こういうカタチで好きだと伝えることが出来るから。
バレンタイン当日。
好きな人はなんだか、違う人を見ているようだった。しょうがないよね。あなたはまったく気付いてくれないし。
「彩羽、つぎ移動教室だよー?」
「うん」
ふわり、と作り笑う。可愛くて、優しくて。伊織を見ている女の子。私のことほんとは嫌ってるんだろうな。
「ん?どした?」
「ううん……何でもないの」
笑ってほしい、本当の笑顔で。
「今日ってバレンタイン、だよね」
「……うん」
「私ね、伊織に渡そうと思ってて」
「彩羽に試食、してもらいたくて」
「分かった。いいよ」
「ほんと?やった」
「楽しみだな」
「うん!楽しみにしてて!」
____甘すぎたかも
彩羽に試食してもらうために、チョコを少し甘くするつもりがすごく甘くなってしまっていた。髪型は可愛くハーフアップで。
「ん、そろそろかな」
彩羽を玄関で迎える。
「いらっしゃい、彩羽」
「お…お邪魔します…」
彩羽はチョコを口にする。
「どう、かな」
「ん…わたしには甘いけど…美味しいよ?」
「そっか…!良かったあ…」
やっぱり甘すぎたか。
「ありがと、彩羽!」
「大したことはして、ないよ」
「ねえ、これ」
「え」
「友チョコ!」
「あ…ありがと…」
「わたしからも…その友チョコ」
「ありがとー!彩羽」
可愛くラッピングされている。嬉しい。彩羽からの友チョコ。これからも、友達で、いられるかな。伊織と約束していた集合場所に着く。
「おっそい…」
不貞腐れた表情をする、伊織。
「ごめんごめん」
「はい、チョコ」
「ありがと…食べても、いい?」
「うん」
「うま…」
「ありがと」
「……伊織が言わないなら言うね」
「話って何?別れ話?」
「うん」
「そっか」
「良いよ。別れよ、私達」
「……うん」
ありがとう、伊織。
「これで、いいよね」
2月15日。
「……」
「どうしたの?莉緒」
「なんでも、ないよ」
彩羽にどうしたのと聞かれてもはぐらかした。何もないから。ほんとうに。
優しすぎるんだよ、彩羽は。だからみんな、彩羽に甘えちゃう。だから伊織が彩羽のことを見ないんだよ。お願い彩羽。伊織のところへ行って。振り向いてよ伊織に好きだと、想いをぶつけて。私を諦めさせて
__私、彩羽のこと好きだったのかもしれない。好きってよく分からないの。恋愛でよく言うけど
『隣にいたい』?『一緒にいると楽しい』?『この人を独占したい』?『一緒にいたい』?友達の好きなんじゃないの?分からない。でも彩羽のこと、特別だったのかもしれない。
話、聞いてもらってもいいかな?
彩羽
もちろんだよ
ほら、私と伊織って付き合ってたでしょ
彩羽
うん
別れようって言われちゃってさ
彩羽
ほんとショック笑
彩羽
そう、だったんだ
私、よく分からなくなっちゃってさ
彩羽
しょうがないよ
想いを伝えたい。駄目だ、困らせちゃう。
話、聞いてくれてありがと
これでいいんだ。お願い彩羽。
___もうバレンタインは過ぎたけどチョコを渡しに想いを伝えにいって。
メールに好きという言葉を打ち込んで、消した。
莉緒side終了
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バレンタインは過ぎた
初公開日: 2024年02月16日
最終更新日: 2024年02月16日
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コメント
初めてです。バレンタインは過ぎてしまったけど書きたかったので。薄め百合です。