「これ、おすすめなんだ。いちごの酸味と桃の甘みが良い感じに溶け合って、何度食べても飽きないの」
 淡いピンク色に整えられた指でサンドイッチを挟んだ由紀は、そう言ってぱくりと口に含んだ。豪快に開いた口に半分ほど呑み込まれ、手元に残ったサンドイッチから生クリームやいちごが溢れている。口角についたクリームを爪先で拭い取ると、人目も気にせず舌で舐め取った。昼下がりで客は少ないが、窓側の席に座っているため外からの突然の視線は免れない。
「ん、美味しい」
 目を細めて頬に手を添えた由紀を見て、梢江は喉を鳴らす。果物はそのままで食べたい派の梢江は由紀の言葉を半分流し気味に聞いていたが、由紀が浮かべる幸せそうな表情に、口の中がどんどんと甘いものを欲してきた。園々堂では主にランチメニューを扱っているためデザートはほどんど用意されておらず、あるとすれば抹茶アイスやコーヒーゼリーなどで、甘いものは見当たらない。生クリームやフルーツが乗ったパフェが食べたいと思っても、目の前でフルーツサンドを平らげる由紀を見ていることしかできないのだ。
「由紀先輩、本当にそれ好きですよね。この人、ここに来るたびに食べてるんだよ」
 ひそりと内緒話のように、隣に座る寿梨が教えてくれた。つられて、そうなんですね、と小声で返事をしたが、おそらく本人の耳に届いているだろう。
「サークルの皆はあんまり食べてくれないよね。ずっとすすめてるのに」
「昼食を食べに来てるんだから、がっつりいきたいじゃないですか。甘いものじゃお腹膨れないから、午後の講義困るんですよ」
 注文していた煮込みハンバーグとクリームパスタが運ばれ、通路側にいた梢江はそれらを受け取ると、両方とも寿梨の目の前に置いた。梢江は既に注文していたミネストローネのセットを食べ始めている。ハンバーグもパスタも大皿に盛られ、見ているだけで腹が膨れそうだ。
「寿梨さん、結構食べられるんですね」
「これくらい食べないとお腹が空くんだよね、夜もバイトが入ってて日付が変わってから帰ることも多くて。晩御飯も兼ねてるかも」
 両手を合わせた寿梨は早速フォークでパスタを巻くと、一口目を運ぶ。由紀と比べると、一口が小さく見える。
「てか、同い年だから寿梨さんじゃなくて寿梨で良いよ。サークル内では一番下だから、みんな寿梨って呼んでるし」
「あー、そうなんですね」
 何度かサークル内で顔を合わせ、こうしてご飯も一緒にすることが多いが、梢江はその先までまだ踏み入れられていない。ようやく関わり始めて一カ月が経とうとしているほどだが、寿梨の人柄をまだうまく掴めていない。
 秋華の時は周りにつられていつの間にか「秋華」と呼ぶようになっていたが、それでも知り合って半年は経っていた頃だろう。きっと「寿梨」と呼ぶのにもそれほどの時間が掛かるだろう、しばらくは名前を呼べない。
「同い年の子誰もいなかったから、梢江ちゃん入って来てくれてほんとよかったー」
「二人とも、見て」
 寿梨の言葉を遮った由紀に視線を向けると、彼女はサンドイッチの断面をこちらに向けながら、「このいちご、ハートだ」と、声を震わせた。溢れ出る生クリームに隠れてはっきりとは見えないが、確かに言われてみればハートのようにも見えた。
「いえ、見えないです」
 はっきりとそう言い退ける寿梨。彼女は黙々とパスタを口に放り込み、その量を半分まで減らしていた。
「嘘だ、ちゃんと見てないでしょ」
「見てますよ。でもハートには見えないです」
「ハートじゃない、ほら、ここからこういう風に。これをハートと言わないで何と言うの」
「何とも言いません。大きく育ったいちごです」
「えー。梢江さんにはどう見える?」
 突然名前を呼ばれた梢江はミネストローネを飲み込んでから、えっと、と首を傾げた。同じ雲を見てうさぎだと言ったり猫だと言ったり、でも実際は滑り台に見えたりするような、梢江にとって二人の会話はそんな曖昧なものだった。
「……ハートに見えないことは無いです」
「だよね? 梢江さんは想像力が豊かな人だ」
「由紀先輩に気を遣ってるだけですよ」
 二人の会話を聞きながらゆっくりと減らしていったはずなのだが、それ以上に寿梨のハンバーグやパスタがどんどんと減っていく。二人を待たせることになっては申し訳ないと思い、ミネストローネのカップを両手で持ち上げて直接腹に流し込んでいく。僅かに冷めたくらいが喉に優しい。
 サークルに入ってからちょくちょくご飯に誘ってくれるのは、部長の由紀と一年の寿梨だった。サークル内でも一緒に居るところをよく見かける二人がいとこであるということを知ったのは前回のランチの時だ。冗談交じりに呼び始めた名前が定着したんだと言った寿梨は、少し顔を歪めていた。
「そうだ、この間校内で梢江さんを見かけたんだけど、一緒に居たのはお友達?」
 フルーツサンドを食べ終えた由紀はコーヒーを傾けながらそう問うた。
「そうです。茶髪で、髪の短い子、ですよね」
「そうそう、その子。この間駅前の喫茶店で見かけて、綺麗な子だと思ったから覚えていたんだ。そうしたら梢江さんと一緒に歩いていたから」
ねるよ
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