「あなたの妹であるルイリー・チャンを救う手立てがある」
 ワンは警戒を深めた。スカベンジャーとして活動している以上、各種の個人情報の一切は偽造かダミーだ。まして、その家族構成を把握されている時点で、凍項電子開発公司のエージェントを名乗る男は何らかの手段でワンの本当の個人情報を把握していることは明白だ。
 企業は決して慈善事業を行わないことをワンは知っている。これは取引ですらない。ルイリーの存在とその状況を知られている時点で、ワンは妹を人質に取られているのだ。
 腰の後ろに突っ込んだ自動拳銃の重さを確かめつつ、ワンは目の前の男をにらみつける。
「アンタらのような大企業が、一介のスカベンジャーにしか過ぎない俺の妹を助けてくれるって?」
 男は無言だ。青白いその顔は、見れば見るほどこの世のものではないように見える。この男は自分のルイリーを救いたいのに救えない焦燥感と罪悪感が生んだ幻影なのではないか、そんな気持ちにすらなってくる。
「いったい、何を見返りに求めるつもりだ」
「我々の目的は一致している」
「どういうことだ」
 男はワンの問には答えずに、データパッドを取り出した。それがルイリーの医療記録であることに気づいた瞬間、ワンは今度こそ腰の後ろの銃を引き抜き男の眉間に押し当てていた。
 震える銃口を眉間に押し当てられながらなお、男の表情は死人のように変わらない。
「貴様どこまで知って――」
「このままではあなたの妹は助からない」
 無感情に男は言い捨て、データパッドを操作する。そこに表示されたデータは、ワンがよく知る、しかし同時に目を背けていたかった事実が列記されていた。
 言われるまでもない。正規の市民IDを持たない貧民であるワンには正規の医療を受けさせることはできない。かろうじて闇市で手に入る抗生物質や薬品、そして食料も、延命措置でしかないのだ。
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