インターネットとSNSの急激な発展によって、すでにネット上にはもうひとつの社会、さらに言うならもうひとつの現実が構築されつつある。簡単に本来の自分とは異なる人物像を演じることができるネット上の自分(アバター)こそが自分で、モニターの前にいる自分は仮の姿でしかない――そんな妄想を、実感として抱いている人間は多いものだ。
だから、そうした思考に基づくバロックもデータベース上に溢れかえっている。頭を捻って考えるまでもなく、数種類のキーワードを入力しただけでそれらしいバロックが簡単に生成された。
『(バロックの内容は一考)』
悪くない内容だ。
昔に比べれば、簡単なものだ。私はキーボードの脇に置いたマグカップを手に取り、口に運ぶ。そのとき、モニターの端に常駐させているニュースアプリが新着ニュースを知らせる吹き出しのアイコンを表示させた。カーソルをポイントするとウィンドウが拡大し、ニュースを表示する。
「……!」
そのニュースを見た瞬間、私は危うくマグカップを取り落としそうになった。
拡大されたウィンドウの中で自動的に再生された動画に映し出されていたのは、オレンジ色の炎を吹き出しているマンションの窓。野次馬が見上げる中、真っ赤な消防車から伸びたホースが、噴水のように放水している。
『……からお伝えしています。本日午後22時頃、都内のマンションにて火災が発生しました。出火したのは508号室からで、住人の〇〇さんは全身に火傷を負い病院に搬送されましたが、死亡が確認され――』
そこに表示されていた顔には見覚えがあった。青いインナーカラーのロングヘア。緑と青のカラーコンタクト。
クライアントだった。