それはどちらかといえばカウンセラーに相談すべきことなのではないかと私は思ったが、しかし私は口を挟まずに、彼女の話を聞く。傾聴が大切なのはバロック屋でも同じことだ。
 私が無言で続きを促すと、彼女はぽつぽつと消え入りそうな声で続きを話し始めた。
「確かに私は憧れていたアイドルになって、華やかな芸能界で働くことができるようになりました。でも、ステージを降りて、スタジオを後にしたときの帰り道でときどき思うんです。今、ステージにもいない、スタオジオにもいない私は、いったい誰なんだろうって。本当の私はもうとっくに消えてしまっていて、みんなが見ているアイドルの私は、私が夢見ていた理想の自分の妄想なんじゃないかって」
 そこで彼女はうつむいていた顔を上げて、初めて私の目を真っ直ぐ見た。緑と青のカラーコンタクトに隠された彼女の本来の瞳の色はわからない。そして――彼女が本物のバロックかどうかも、しっかりと目を合わせても結局分からなかった。
 結局、私は今回はクライアントからの話を聞くだけに留めておくことにした。クライアントが帰った後、ルビが何の気まぐれか私の分まで用意してくれたインスタントのミルクティーを口に運びながら、私は考え込んでいた。
「どうしたの、キツネ。考え込んじゃって」
 我が物顔でソファーを占領しているルビの声を背中越しに聞きながら、私はモニターのデータベースとにらみ合っていた。
「ルビ、お前、今日のクライアント……どう思う?」
「どう思うって?」
「バロックか、バロックじゃないか」
「それを判断するのがキツネのお仕事なんじゃないの?」
「わからないから聞いてるんだ」
 自分用のマグカップを両手で持ったルビは、湯気の立つミルクティーを一口すすって、視線を宙にさまよわせた。
「違うよ、バロックじゃない」
 断言口調に、キーボードを叩いていた手が止まった。モニタから視線を外し、椅子ごとルビに向き直る。
「やけにはっきり言い切るじゃないか。根拠を聞こうか」
「カン」
 呆れそうになったが、しかし――こいつの言うカンには、それなりの説得力があることを私は認めていた。
 こいつ、渡辺ルビがこの事務所に転がり込んできて、半年程度だろうか。いつの間にか助手気取りで私の仕事に首を突っ込むようになったこいつは、かって各メディアで大々的に報道され、今なお語り草となっている「グログロ殺人」の生き残りだ。
 ルビはグログロ殺人の現場となった、安全レベル0の危険区域である通称「ゼロ地区」に指定されていた地下バーの跡地でバロックたちと集まっていたらしい。我々バロック屋とはまた違った形でバロックと接してきたのだ。
 そんなこいつの助言や交友関係が、クライアントからの依頼解決に役立ったことは一度や二度ではない。だから私は、普段の態度はともかくとしてルビには一定の信頼を置くことにしているのだ。
「カン、ね……まあ、信用してやらんでもない」
「なによ、えらそう」
「で、バロックじゃないなら、あの子はなんなんだ? ただのどこにでもいるような悩めるアイドルか?」
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冬コミ原稿を進めていきます。
初公開日: 2023年10月31日
最終更新日: 2023年10月31日
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リハビリ
SSをぼんやり書きます。見直しは一旦度外視です。
宮古遠
【紘と臣と善】夏の隙間で食べ比べ ★
臣しかいないMANKAI寮に紘がやってきて唐揚げを食べる話。善も来るよ。
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