私が驚いたのは、その服装だった。
映画やドラマのようにサングラスやコートで正体を隠しているわけでもなく、彼女はそこのモニタに映っている姿と同じ、アイドル衣装のままだったのだ。
まるで「今しがたスタジオから逃げてきました」とでも言わんばかりのその風体に、私とルビは言葉を失っていた。
しかし、彼女の様子はモニタの中で楽しげに歌い踊る姿とはかけ離れていた。ドアの隙間からのぞかせたその顔は青白く生気がない。自身のまとったフリルやリボンのたくさん付いた衣装の中に埋もれてしまうそうに見える。
「あの……」
顔色と同じく生気の感じられないか細い声を漏らして事務所の中に足を踏み入れようとした彼女は、そのまま足をもつれさせて倒れそうになった。素早く飛び出したルビがその体を支える。そのままルビは妙に手慣れた仕草で彼女に肩を貸し、ソファに座らせた。
「キツネ、何ぼーっとしてるの、タオル絞って持ってきて!」
「あ、ああ……」
そう言われて、私はあわててキッチンに向かう。やれやれ、これではどっちが助手かわからない。
ややあって、彼女はなんとか意識を取り戻した。
タオルをどけた顔色は相変わらず青白いままだったが、彼女ははっきりとした口調で話し始めた。
「いきなりご迷惑をおかけして申し訳ありません……。ええと、もうおわかりかも知れませんが……」
「ええ。アイドルグループ『〇〇』のメンバー、〇〇さんですよね」
「はい。あの、本名の方はちょっと……」
「ええ、かまいません。お客様のプライバシーは守ります」
私が接客用の笑顔でそう言うと、彼女……〇〇はほっとした様子で話し始めた。
「ええと……ここ、バロック屋さんなんですよね。私のバロックを探してほしいんです」
「わかりました。どのようなバロックをお探しでしょうか」
おそらくウィッグであろう、青いインナーカラーの入った長い黒髪。顔を隠すように長く垂らされた前髪の向こうに隠された瞳の様子をうかがう。
その瞳もまたカラーコンタクトなのだろう、緑と青の視線を不安定に揺らしながら、彼女は続ける。
「どこかにあるはずの、本当のわたしのバロックを」
私もバロック屋をそれなりに長くやっているが、事務所に訪れる客の中にはバロックを装った冷やかしもいる。本物のバロックとそうでないものは目を見ればわかる。本物のバロックは、虹彩が浮いたような特徴的な目をしているのだ。彼女の目は――。
「本当のあなたのバロックですね。――つまり、今のあなたは本当のあなたではない?」
「そうです」
彼女は即答した。カラーコンタクトに覆われた彼女の目は――本物のバロックかどうかは、まだ判然としない。
「この仕事……アイドルになってからまだ3年くらいですけど、ふと気付いたんです。こうなる前の私って、もともとはどんな人間だったんだっけって」
「……」