今どきCDメディアで音楽を聞くケースは珍しい。よほど入れ込んでいるのか、それともわざわざかさばるCDメディアを購入するのが何らかのステータスになっているのかは定かではないが、私には他人の趣味に乗っかる気も起きず、そのCDは机の引き出しに突っ込んだままにしていた。それに私は――CDというメディアに、あまりいい思い出がないのだ。
「アイドル業界も大変なんだな」
「なに? 興味ないの? そんなんじゃ若い子の話についていけないよ?」
「そんな必要はない」
「お仕事につながるかも知れないのに?」
「……」
実際、私は芸能関係のクライアントからの依頼を受けたことがある。報酬の面から言えば、彼らは上客と言っていい。また、クライアントによってはほかのクライアントを紹介してくれたり、リピーターになってくれたりというメリットもあった。
しかし、いわゆる「芸能界の闇」というヤツだろうか。私は芸能関係のクライアントに対してはあまり深入りしない方がいいと直感的に感じていた。芸能関係のクライアントはたしかに上客ではあるものの、リスキーな相手でもあるのだ。踏み込む深さを間違えてしまうと取り返しのつかないことになってしまう――そう感じていた。
「私もアイドルになろうかな」
「いきなり何を言ってるんだお前」
「ほんとになんにも知らないんだねキツネって。このグループも、もともとは個人で歌やダンスを配信してたのがどんどん人気が出て、プロデビューしたんだよ? だから、私にもチャンスはあるってこと」
などと言いながらソファから腰を上げたルビは、なにやら私の知らない歌とダンスを披露し始めた。
「まあ、夢を見るだけならタダだしな」
「なに枯れたこと言ってるのよ、夢がないなあ。女の子はだれだってアイドルに憧れるものなんだから」
「そんなものかね……」
いつものようにルビの言葉を聞き流していた私の耳に、控えめにドアをノックする音が聞こえた。私がドアを開ける前に、ルビが素早く部屋を横切ってドアノブに手をかける。
「ようこそいらっしゃいませ。今日はどのようなバロックをお探しで――」
すっかり助手か受付嬢気取りのルビの言葉が途中で止まった。そして、椅子から腰を浮かせかけた私の体も止まった。
ルビが開けたドアの隙間の向こうにいたのが、見覚えのある顔だったからだ。ついさっき見たばかりの顔だったからだ。
そこにいたのは、さっきのニュースで報じられていたアイドルグループ〇〇から失踪したという少女、〇〇本人だった。