相変わらずの萃香の様子に苦笑しながら、魔理沙は麦茶を持ってきた霊夢に話しかけました。
「ところで最近、魔法の森の妖精がおかしいの、気づいてるか?」
「さあね。この暑いのにあんな暑苦しい森に行こうなんて思わないし。あはーあっつー……」
縁側に裸足を投げ出してうちわをぱたぱたやっている霊夢。巫女とは思えないだらけっぷりですが、いつものことなので魔理沙は構わずに話を続けます。
「まあ異変ってほどでもないんだけどな。なんかやたらはしゃいでるっていうか、テンション高いっていうか」
「ふーん。でもそういうのって、こないだの四季異変で終わったんじゃないの?」
「『終わったんじゃないの』ってお前、その当事者だろうが」
「まあ確かに黒幕は懲らしめたけど。それに、妖精が多少はしゃいでるからってそんなに気になる?」
「お前なあ……博麗の巫女がそんな危機感薄くていいのか?」
「あーん?」
幻想郷の妖精は自然の具現、自然そのものと呼べる存在です。そのため、妖精の様子がおかしいということは、そのまま自然の様子がおかしい、自然に何らかの異変が起こっている可能性があるということを意味します。
……というようなことを魔理沙は霊夢に力説しましたが、霊夢は生返事を返すばかり。
「あんたって変なところで神経質よねえ。そんなに気になる?」
「お前は気にならないのかよ? 仮にも博麗の巫女だろ?」
「仮にもってなによ失礼ねえ。妖精がはしゃいでるのより、わたしはこの暑さの方に危険を感じるわよ」
「そんな呑気に構えてて、もしまたなんか異変でも起きたらどうすんだよ」
「異変が起きたら、すぐにわかるわよーだ」
縁側にごろんと寝転んでやる気のない返事を返す霊夢に、魔理沙は呆れ顔。
「いちおう聞いとくけど、なんか根拠あるのかそれ」
霊夢は唇のはしを釣り上げて、得意げに笑って見せました。
「勘よ」
それを言われたらおしまい、といった感じで、魔理沙はため息をつくしかありませんでした。
それからしばらく経った、ある日のお昼ごろ。
ようやく霊夢は重い腰を上げて人里に買い物に行きました。
いつものように顔なじみのお店で食材や日用品を買い込んで神社に帰ろうと空を飛んでいると、下の方からなにやら聞き覚えのある音が聞こえてきました。
「んー……?」
視線を下に向けると、昼間だというのに花火のような光が瞬いているのがわかりました。そのまわりには、ぐったりした様子の妖精がぽてぽてと倒れています。
「弾幕ごっこ……?」
魔理沙あたりがひと暴れしたのでしょうか。それにしても妖精の数が多い気がします。霊夢は、魔理沙の言っていたことを思い出しました。
魔理沙が言っていた、妖精がやたらとはしゃいでいるというのはこのことでしょうか。
「……」
しばらく空中で考えていた霊夢ですが、結局気になって下に降りてみることにしました。
地上に降りてみると、そこらじゅうに目を回した妖精が倒れていました。異変でもないのに、これだけの数の妖精がひとつところにいるのはやはりおかしい気がします。
自分で言うところの「巫女の勘」が、なんだか胸の奥でざわついているのを霊夢は感じました。
買い物袋を下げたまま、霊夢は周りを見渡します。すると、少し先の方でまた弾幕ごっこの光が見えました。
そちらに近づいていくと、霊夢は弾幕ごっこの光とぽんぽん飛んでくる妖精たちの中に見覚えのある顔を見つけました。
「ぐったりしてる妖精がやけに大勢いると思ったら、何をしているの? こんなところで妖精をしばき倒し回って」
霊夢が声をかけたのは、金色の髪に赤いリボン、白黒ツートンカラーの服を着た小さな女の子でした。
「あんたみたいのにも、ストレス発散ってのが必要なのかしら」
「霊夢だ!」
後ろから声をかけられたその子は、嬉しそうに振り返ります。
そこにいたのは、宵闇の妖怪ことルーミア。毎日どこへともなくふわふわ漂っているはらぺこ妖怪です。