結合男子
ワンライお題「夏祭り」
四季×藍参
恋愛以下
幼少期捏造
2000字くらい
*誤字脱字報告歓迎
*コメントご自由に
*完成系はTwitterとポイピク
-----------------キリトリ-----------------
書きたいもの
孤児院から花火を眺める四季と藍参
-----------------キリトリ-----------------
「花火大会だって」
帰り道で、不意に藍参がそんなことを言った。後ろを歩いていた彼が立ち止まったので四季も振り向くと、藍参は木に貼り付けられたポスターを見ていた。
ポスターに書かれた日時は今夜で、近くの河川敷で開催される比較的大きい催しのようだった。年中を孤児院で過ごす二人にとって縁のない行事だったが、きっと毎年行われているものなのだろう。
自分には関係ない、と四季は顔を背けたが、藍参はポスターを眺めたまま動こうとしなかった。
「ねえ、四季」
「行かないぞ」
「……まだなにも言ってないよ」
ポスターから顔を上げた藍参が何かを言おうとしたが、四季は食い気味にそれを拒否した。言わなくても分かる、と返された藍参は諦めのため息をつき四季の背中を追いかける。
「大通りの奴らは俺らに当たりが強いの、分かってるだろ」
「うん。うん……そうだね」
前に河川敷に遊びに行って、孤児院の子供だと分かった途端石を投げられたことがある。その人間に限った話じゃない。この辺りに住む人間は、みんな他人に対して当たりが強い。そうしないと生きていけないからだ。それを、四季も藍参も分かっている。
ただ、それでも、少しだけ、憧れがあるのは事実だった。
「デカくなって、金持ちの家にもらわれたらいくらでも行けるようになるさ」
「……うん」
暗い表情になった藍参を励ますために言った言葉だったが、藍参は俯きがちに頷くだけだった。
藍参の真意を知る機会はついぞ訪れない。
***
孤児院の就寝時間は早い。夕飯を食べて、一通りの家事を済ませたら後は寝るだけだからだ。暇を潰す遊び道具も、この院内には充実していない。
寝室の明かりが消え、チビたちもすっかり寝静まった頃、藍参は一人眠れない夜を弄んでいた。じわりと熱をはらんだ夏の空気は、不安な気持ちにさせる。思い起こすのは、昼間の会話。
何回か寝返りを打った後、眠れないと判断したのか重たい体を起こした。そこで、隣の布団が無人であることに気づく。
「四季……?」
小声で名前を呼ぶが、やはり返事はなかった。どうせ眠れないのだからと、藍参は寝室から出て食堂へと向かう。廊下の明かりがいくつかついていることに気がつき、それに誘われるように歩みを進めると、屋根裏への折りたたみ式の階段が下りていた。その前には、見知った人影がある。
「藍参」
「四季どうしたの? 眠れないの?」
「それはお前のほうだろ」
ちょい、と四季は手招きで藍参を呼ぶと、藍参は素直に四季の元へやってきて、隣の階段へ腰掛けた。藍参が何かを尋ねようとする前に、四季が人差し指を口元に寄せる。
言われた通りにしばらく沈黙が続いた。耳を澄ますと、夏の虫の音の合間に、何かが弾けるような低い音が聞こえてくる。その正体に気づく前に、四季が口角をニッと上げた。
「花火だ」
藍参が目を輝かせる。それに満足したのか、四季は立ち上がって階段を登り始めた。
屋根裏は本来院長の許可がないと入れない。階段を下ろしたのも、きっと四季の独断だろう。真面目な藍参は反対しようとしたが、その時もう一度大きく花火の音が響いた。
「見てみたいだろ?」
その誘惑に、抗えるほど藍参は大人ではなかった。ポスターを目にした時に想像した、色とりどりの花が思い浮かぶ。
四季が階段の上から手を差し出してくる。その手に誘われ、藍参は階段へ一歩踏み出した。
屋根裏部屋から窓を開けると、河川敷の方が見渡せる小さな露台がある。人二人が立てるようなそこはまさしく花火を見るために誂えられたような場所だった。
物音を立てないように階段を上るのはなかなか難しく、思ったより時間がかかってしまった。花火大会がいつまで行われているのかはわからないが、きっとそう遅くまではかからないだろう。終わってしまう前にと、なんとか階段を上り切り、露台へ続く窓を開けた。夏の熱気が肌を撫でていく。
「わあ……!」
思わず上げた声は四季のものだったか、それとも藍参のものだったか分からなかった。
目の前に広がる色とりどりの花は、開いては消え、開いては消えを繰り返している。火の粉が散り地面に落ちていく最後の一瞬まで、目を離せないほどに二人にはそれが輝いて見えた。
一際大きな花火が上がる。河川敷まで少し距離があり、音は遅れて二人の耳に届いた。物音を立てないように、というのも忘れて、四季と藍参は揃って声を上げた。
「すごい、すごいね四季」
「ああ……花火って、こんなにキレーだったんだな」
大きな花に続くようにして、小さな花火が次々に打ち上がる。演出の派手さから、そろそろ終わりなのだろうということがわかった。綺麗な花火とは裏腹に、もの寂しい雰囲気が流れる。
「もう終わりかな?」
「さっきのデカいやつが目玉だったみたいだな」
「そっか……」
見れると思っていなかった花火を見れただけでも満足なのに、終わりが近づくとどうしても欲が出てしまう。
もう少し、四季と見ていたい、と。そう思って藍参は横に視線をやると、同じようにこちらを見ていた彼と視線があった。
「来年も、あるだろ」
ポツリと、彼がつぶやく。
「今度はあいつらも連れてこよう」
賑やかになるぞ、と。笑って見せた彼の笑顔は、花火の光に照らされて何より輝いて見えた。くるかも分からない来年の光景に、胸が高鳴る。
「来年も、一緒にいてくれる?」
不安げに藍参が尋ねると、彼は左手の小指を出してきた。つられるようにして藍参も同じように出すと、指が絡められる。
「約束」
藍参が不安な時は、彼はいつもこうして指切りをしてくれた。彼の口にする「約束」が、嘘でないことを誰よりも知っているからだ。
絡められた小指に力を込める。ゆびきりげんまん、と口にした頃には花火の音がもう響いていないことに気づかなかった。藍参には、彼の笑顔と、声と、指の感触だけで十分だった。
院長が倒れ、藍参の行方がわからなくなったのは、その年のことだった。
***
煉瓦街では夏に花火大会が行われる。仕事のせいでなかなか行くことは叶わなかったが、防衛本部からわずかに打ち上がる花火の片鱗を見ることはできた。
栄都や三宙あたりは、その時ばかりは訓練を早めに切り上げて防衛本部の屋上へ向かっている。
四季は一人、部屋に篭り響いてくる花火の音に耳を澄ませていた。
脳裏によぎるのは、9年前、彼と交わした約束だった。あの日、夕方に見た彼の不安げな表情の真意が、今ならわかるような気がした。
『デカくなって、金持ちの家にもらわれたらいくらでも行けるようになるさ』
今日見る花火は、果たしてあの時と同じくらい輝いて見えるのだろうか。打ち上がる花火は、子供の時に見た花火よりもずっと大きくて派手だった。それでも、あの時、二人だけで見た花火に勝る綺麗さを、四季は認められない。
「一緒じゃなきゃ、意味ないんだな」
藍参、と。
漏らした声は花火の音にかき消された。最後に銀色の花が打ち上がる。