ヤツとの出会いから、もうどのくらいになるだろうか。
 最初のきっかけは、VRソフトの配信開始リストに昔やっていた空戦ゲーム「Sky Dogs」がVR対戦ゲームとしてリメイクされるというニュースを見たことだった。
 当時の俺は……まあただの男でただの会社員だった。そこそこの暮らし、そこそこの収入、そこそこの仕事を確保してはいたものの、あるいはだからこそ、ある種の虚無感を抱えていた。
 のめりこめることが何もない。
 別段頑張らなくても、仕事はあるし収入も途切れない。だからこそふと、自分の生活に虚しさを覚えることがあった。そんなときに、ふとニュースサイトで見かけたのがこの情報だった。
 「Sky Dogs」は、学生の頃に随分ハマっていたゲームだった。それがどういう事情か今の時代にリメイクされるとのことで、俺はほんの気まぐれで購入ボタンを押した。
 学生の頃はともかく、今の俺はゲームに熱中するような状態でもない。心のなかでは、どうせこのゲームも2時間もプレイしないうちに飽きてしまうんだろう。そんなふうに思っていた。
 それが、1週間後にはVRヘッドギアを新調し、ずいぶん久しぶりにPCのフタを開け、昔の記憶を頼りにグラボやらなにやらを換装した。
 それまでは仕事が終わってからはダラダラと過ごすだけだった日々が、家に帰ってからは食事を摂る間も惜しんでVRヘッドギアをかぶるのが日課となっていた。
 なかでもとりわけ夢中になっていたのが対戦モードだった。もともとは対人戦のあるゲームはプレイしなかったものの、ものは試しと始めてみるとこれがなかなか面白く、まんまとハマってしまった。
 自分のランキングが次第に上っていくのは楽しかったし、次々とそれまで知らなかった[[rb:機動 > マニューバ]]を身に着けていくごとに、陳腐な言い方かもしれないが自分が少しずつ成長しているのかが実感できたのだ。
 それまでの平坦な生活の中では決して得られない充実感が、そこにはあった。たかがゲームというのは簡単だが、職場と自宅を往復するだけの俺の生活の中では、決して大げさな言い方ではなく「Sky Dogs」での対戦は心の拠り所となっていたのだ。
 そんな折に出会ったのがヤツ……「ストレガ」だった。
 手当たり次第に対戦を繰り返していた俺だが、その名前は「Sky Dogs」のコミュニティでたびたび話に上がることがあったので知っていた。
 「魔女」を名乗る謎の凄腕プレイヤー。まあ今どき、ゲーム画面のアバターやキャラとプレイヤーをイコールで考えるやつも、画面の向こうにいる相手の実生活を気にするやつもほとんどいやしない。そいつが「謎のプレイヤー」と呼ばれている理由は、ヤツのそのおかしな行動だった。
 「ストレガ」は対戦前にかならずボイスチャットを送ってくる。「チャンスは残り三回です」と。
 その言葉通り、ヤツはどんなプレイヤーとも一度に3回しか対戦しない。そこにどんな思惑があるのかは「Sky Dogs」のコミュニティで常に議論されているトピックではあるものの、憶測は山ほど出ているが真実は闇の中。中には3回の対戦チャンスのうちに「ストレガ」に一勝でもできれば願いが叶うだの、「ストレガ」の正体は某大企業の作ったAIプログラムだのといった迷信家陰謀論めいた話を真剣に信じている連中すら現れる始末。
 しかし、俺の関心はヤツの正体ではなかった。俺はいつしか、ヤツに勝つことだけを目的として「Sky Dogs」をプレイするようになっていた。
 最初にヤツと戦ったときのことは忘れられない。それからヤツに勝つべく、俺は何度も対戦を繰り返したが……一度も勝ててはいない。
 ただ単に強いというだけではとても済ませられない、まさに別次元の技量。
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