「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。
 いつの間にか、この声が俺とヤツとの対戦の合図となっていた。
 慣れ親しんで飽きすら感じ始めていた発艦シークエンスも、ヤツとの勝負に備えて呼吸を整えるための貴重な時間となってからは決してスキップすることはない。
 愛機「斑鳩」のマットブラックの機体が青い空に浮かび上がった直後、俺の視界はコクピットに切り替わる。反射的にレーダーを確認。最初にヤツと戦った時、発艦直後にいきなり直上からミサイルを直撃させられた苦い思い出が後頭部のあたりから顔を出しそうになるのを、頭をVRヘッドギアごとヘッドレストに押し付けて無理やり黙らせる。
 [[rb:警報 > アラート]]! 真正面! いつの間に!?
 悪罵を吐く暇を惜しんで、俺は苛立ちを込めてスロットルレバーを全開に叩き込みパワーダイブ。ミサイルの感触が、異様な現実感を持って背筋をかすめていく。なんとか回避。
 そのまま強引に機首を上げる。見えた。ヤツの機体「ストレガ」の腹めがけて機銃を叩き込むべく、ロックオンマーカーを追従させる……捕捉した!
 マーカーがロックオンを示す真紅になった瞬間、すかさずトリガー。しかし、会心のタイミングで放たれたはずのミサイルは、「ストレガ」の腹をむなしくかすめる。
 「ストレガ」は俺がミサイルを発射した瞬間を読んだかのように――いや、実際に読んだのかもしれない――急激に機首を上げ、機体を螺旋状にひねりつつ上昇してミサイルを躱したのだ。どういう[[rb:機動 > マニューバ]]だ!?
「クソったれ!」
 たまらず罵倒を吐き出す。
 この光景を傍から見れば、いい年のオッサンがVRヘッドギアを被って暴言吐きながらゲームに興じているようにしか見えないだろう。いや実際そうなのだが、俺にはそんなことを気にしている余裕などない。次の瞬間には反撃が来るからだ。
 ヤツの行動を確認してからでは遅いことはもうわかり切っている。ミサイルが外れたことがわかったと同時に強引に機体をシザーズさせるのと、火線が降り注いでくるのが同時。ヤツが降らしてくる機銃弾は的確に調整されており、次の瞬間の、そして次の次の瞬間の俺の行動を誘導しているのがありありとわかった。いっそのことこのままベイルアウトしたほうがヤツの意表を突けるのではないかなどという馬鹿げた考えを実行しそうになる。
 半瞬後、案の定ロックオンアラートがスピーカーを埋め尽くした。次の瞬間の行動が頭の中に溢れかえり、無数の選択肢から正解を選び残った俺と俺の機体は逃げ場をなくし――なすすべもなく撃墜された。
 残り2試合のことはもう覚えていない。多分ろくなプレイングもできないまま負けたんだろう。
 気がつけば俺はVRヘッドギアをデスクの上に投げ出し、型落ち品のゲーミングチェアの上に体を投げ出していた。
 「心地よい疲労感」なんてものはない。ただ、祭りの後のような寂しさだけが、電源を落とした液晶モニタにこびりついていた。
 
 
 
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さなコン3の原稿を書いていきます。
初公開日: 2023年05月17日
最終更新日: 2023年06月04日
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