映画館なんか久し振りに来た。
前に来たのはいつだったか。小学校に入る前だったように思う。
当時のわたしは相当落ち着きがなかったから、動かないことも静かにすることもできず、始まって間もない頃に母が場内から連れ出すほどだった。
家族がわたしの性格を知り始めたのもこのぐらいの時期だ。
ともあれそうした経緯もあって、わたしが自然と映画館や劇場なんかに足を運ばなくなったのも当然と言えよう。
じゃあそんなわたしがどうして長らく入ることを避けてきた映画館に踏み入ったのかといえば、沙弥香から誘われたから。
もっと言えば、その誘いというのも、かつて沙弥香が好きだった人が出演する映画のチケットをもらったという経緯のものだったから。
沙弥香にとってはなんてことはない、折角友達からもらったから、って感じのノリなんだろうけど、わたしにとってはそうもいかない。
わたしもその人――七海先輩とは侑ちゃんとの関係で度々会ってるし、どんな人か少しは知ってるつもり。優しくて面白くて、なにより美人さん。高校時代は沙弥香と並んで会長夫婦なんて呼ばれてたらしい、それくらいに二人が並ぶと絵になる美人っぷりだ。ひょっとしたら、沙弥香より前に会ってたらわたしもコロッと好きになってたかもしれない。とにかく顔がいい、そんな人。
そんな人を沙弥香は好きだった。
当時の話をせびる度、沙弥香は「昔の話よ」と口元を苦く綻ばせながら、遠くを見るようにして語る。その口調は優しく、穏やかだ。過去ならではの苦労や愚痴を零しながらも、思い出に触れる沙弥香の表情は、今でも七海先輩のことが好きであることが読み取れた。
勿論、沙弥香はわたしと付き合ってるわけで。更に言えば七海先輩も侑ちゃんと付き合ってる。沙弥香自身、七海先輩はもう一番じゃなく、友達だと言ってくれてるのだから、そこに心配があるわけじゃない。
じゃあどうしてわたしが沙弥香に付き添ったのかと言えば、言ってしまえば面白くないからだ。
スクリーンに映るあの人を、沙弥香がじぃーっと見つめるのが。
だからわたしは心に決めていた。
そういう時、沙弥香の手を握って、わたしを見てもらおうって。
沙弥香の呼ぶ声に応じながら、わたしは決意を新たにしたのだった。
……ちなみに、映画が普通に面白く、わたしも見入ってしまってその目論見が果たせなかったのは、内緒である。