第三話 過去の自分が教えてもらいたかったこと
 2機の宇宙船が高くそびえ立つ崖の上に着陸する。辺りは一面の樹海。人がほとんど足を踏み入れていない証拠だ。片方の船のカバーが開き、1人の人間が姿を現す。
 先に宇宙船から出てきたのはジョージだった。彼は思い切り背伸びをして、狭い船内で固まった身体をほぐす。
「ほら、ここら一体にお前が言っていた危険なものはないぞ。さっさと出てこい」
 もう片方の船からは、ジョージと比べるとその小柄な身体が目立つクアリーが、辺りを警戒しながらゆっくりと出てくる。惑星ネブーテに到着する前に、ジョージとクアリーの間にはひと悶着あったようだ。
「ほ、本当にここは安全ですか?」
 すると、ジョージはニヤリと悪だくみをしている子供のような笑みを浮かべる。
「ああ、ここは安全だ。……今から向かう所は違うが」
 クアリーは雷に撃たれたかのように硬直し、船の中に戻ろうとした。それを見たジョージは慌ててクアリーの腕を掴み引き留める。
「おいおい! 何だ、帰ろうとでもしているのか?」
 するとクアリーは半ギレ状態で、ジョージを振りほどこうとする。
「そうです! こんなところに長居はしたくないですよ!」
「第一何で、ど素人の僕をそんなに危険な所に連れて来たんですか?!」
 ジョージは少しムッとした顔をして、クアリーの腕を強く引っ張った。それに驚いた彼はどこから出したのか見当もつかない声を出す。
「お前、ワーカーのくせに何言ってんだ? この職に100%安全は存在しないんだよ!」
 ジョージは強くクアリーを叱った。
「で、でも……」
 うだうだするクアリーにジョージは真剣な顔をして、肩を掴み目を合わせて言った。
「『でも』じゃねぇ! この仕事が危険なこと、お前だって分かっているだろ?」
「……そんな仕事に家族を養うため自ら就いたんだ。それの責任ぐらい取れ」
 クアリーは、目を伏せ何も言わなくなる。ジョージは鼻から息を吐き、クアリーの肩を軽く叩き座らせた。座っている2人の間に、少しの沈黙が流れる。しかし、それをジョージが断ち切った。
「実は俺な、ワーカー歴は長くても教育係歴は1日なんだ」
「全く教え方ってものを分かっていない、ズブの素人なんだぜ」
「そんな俺が頭を捻って考えた教育方法が、『ワーカーになったばかりの頃教えてもらいたかったこと』を教えてやるってことだ」
「ここは、俺が昔……ワーカーになったばかりの頃、よく来ていた惑星なんだよ」
 ジョージはちらりとクアリーの顔を見る。彼はうつむいたままだった。しかし、その表情は真剣なもので、ジョージの話をちゃんと聞いているよう。
「お前は素人ワーカー、俺は素人教育係。お互いに素人なんだ。頑張ろうぜ」
 クアリーは顔を上げて、ジョージの顔をチラッとみて直ぐに目をそらす。
「あの、ジョージさん、僕……」
 クアリーの言葉を遮ってジョージは言った。
「俺もお前をからかって悪かったな」
 ジョージが口角をあげると、クアリーも目を細めて笑った。
 
「それより、早く仕事で成果を出して、俺に素人って言わせないようにしろ」
「……はい」
 自分を元気づけようとする彼のその言葉に、クアリーはジョージと出会って一番の安心を感じた。
「よし! じゃあ、行くぞ!」
 そう言って立ち上がり、ジョージは樹海の中へ入って行こうとする。
「ちょっと待ってください!」
「ん? どうした?」
 そんなジョージをクアリーが止めた。
「銃……持って行かないんですか?」
 クアリーが止めるのも無理はない。なんとジョージは、船にあるライフルを置いていき、武器をサバイバルナイフ一本しか持っていない状態で行こうとしていた。
「ああ、今回はこれしか持っていけないんだよ……」
 ジョージは、困った顔をする。
「今回の仕事は、天然ガス『ディープメタン-J1』の採集が目的なんだが……」
「採集場に可燃性物質が漂っていてな。ちょっとの火気も厳禁なんだ」
「さらに、有毒物質まであるときた。だから、今のような防護服が必要って訳」
「安全の『あ』の字も無いじゃないですか!」
 クアリーは声を張り上げ驚いた。それを見たジョージは何故か笑いが込み上げて、堪えきれなくなる。
「ハハハッ! 確かにそうだな!」
「笑い事じゃないですよ!」
 彼の怒り顔をみてジョージは更に笑う。クアリーはため息をついた。
「ま、お前のクロスボウが活躍するんだから気にすんなよ。さっさと行こうぜ」
 ジョージはそう言って歩き始める。クアリーは何か言い返そうとしていたが、黙ってジョージについて行くことにした。
 クアリーはずっと、忙しなく首を回して辺りを見る。それもその筈、こんなに美しい樹海を見たことがなかったからだ。苔の生えた木々は、どれも特徴的な「表情」を持っており、永遠に見続けていても飽きがこなさそう。
「おい、そんなに上を見ていると木の根で躓くぞ」
 そんなジョージの言葉はクアリーの耳に入らなかったようだ。でもジョージには、好奇心を抑えれない子供のような彼が、可愛らしく見えていた。
(ここに初めて来た俺も、こんなんだったのかもな)
 過去の自分を思い出そうとジョージは記憶を辿って行ったが、結局思い出せることはほとんどなかった。しかし、ジョージはクアリーのように、ここまで可愛くなかっただろうなと思う。
「そろそろ、目的地だぞ」
 クアリーはなま返事をする。しかし、ジョージにはこの余裕そうなクアリーが、目的地ではまた喚くことになるだろうと想像がついていた。
 すると、辺りを見回していたクアリーの目に大きな口を開けた洞窟が飛びこむ。その巨大さと、奥が地獄まで続いているかのように暗く深い洞窟を見ていると、もちろん恐怖も湧いた。しかしクアリーも、どこか少年の心を持っているらしく、緑色の目を輝かせていた。
「ジョージさん……ここ……」
「ああ、目的地だ。マスクはもうつけた方がいい」
 ジョージがそう言って、二人はマスクをつけた。
「結構息苦しいです……」
 マスク内に取り付けられた小型スピーカーから、クアリーの声が聞こえる。
「そんなもんだ。キツイだろうが頑張れ」
 ジョージはクアリーの表情がほとんど見えていなかったが、辛そうな様子はよく伝わった。
 そしていよいよ、二人は洞窟へ足を踏み入れる。入り口に立つと、強い風穴が流れているのが分かった。きっとこの風は、肌を刺すように冷たいのだろうとクアリーは想像する。内部は、命綱が必要なほど急ではなかった。しかし、足元は水浸しでうっかりすると滑って転びそうだ。さらに、洞窟の上下には鍾乳石が隙間なく並んでいる。広範囲を照らすヘッドライトで、クアリーはその光景を見ていた。
 しかし、ジョージはいつになくピリついていた。その様子を察していたクアリーは、恐る恐るジョージに話しかけてみる。
「ジョージさん。どうしたんですか?」
 ジョージは辺りの警戒を怠らず、クアリーの質問に答えた。
「ここは、『デスロバイト』っていう虫の住処だからだ」
「もちろん肉食性だぞ。奴は獲物に飛びついて前足で押さえつけた後、そのストロー状の口を突き刺し消化液を流し込む。そこから溶けた組織をすするというのが奴らの捕食方法だ」
 それを聞いたクアリーは、肌に一気に鳥肌が立つのを感じた。しかし、ジョージはお構いなく続ける。
「しかも、厄介なところが群れで行動するってこと。5匹とかそんなレベルじゃない数十匹単位だ」
「サイズはビート版ぐらいある。あとは――」
「ストップ! もうその話は止めてください!」
 ついに、クアリーがジョージに歯止めをかける。大声を出すクアリーに対してジョージは慌てて口元に人差し指を立てた。しかしもう遅かったようで、静かだった洞窟内からカチカチと岩を突く足音が無数に聞こえてくる。
「ジョ、ジョージさん……これって……」
「俺から絶対に離れるなよクアリー」
 自分たちが置かれている状況を察したクアリーは、クロスボウを構える。
「上にも気をつけろ、ヘッドライトの光をもっと明るくしておけ」
 クアリーは言われた通りにして辺りへの警戒を高める。そのお陰で、ジョージの言った何かが天井を這っているのが見えた。しかも、それがジョージの真上に移動している。
「ジョージさん上!」
 クアリーが言ったのと同時に、そいつがジョージ目がけて襲いかかってくる。ジョージはそいつの
 
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