「大丈夫かな、財布むきだしに持っちゃって」
電柱の陰から心配する父親をよそに、クリちゃんは商店街に並ぶショーウィンドウに夢中です。ちょうど父親からクリちゃんの背中程度の距離しか離れていないタバコ屋まで歩くのに、クリちゃんの足はまっすぐ伸びず、手前のお店で止まってしまいます。
「確かおもちゃ屋さんだっけ。あ、そうだ。もうすぐクリスマスか、まいったな。全然忘れてた。家に帰ったらママに相談しないと」
ガラスに頭をくっつけてひとしきり眺め終えたクリちゃんは、やっと隣のタバコ屋さんに向かいます。ドアの前に立ってから長いこと!やっと入ったことを確認すると、父親は下駄を鳴らしておもちゃ屋さんまで走ります。すれ違った軽トラは顔なじみの八百屋さんだったので頭を下げつつ、けど頭の中は息子の心配で一杯です。怪人マッハの人形の値段に驚きながら、窓からこっそりタバコ屋さんを覗きます。
「坊や、タバコ吸うんかい?」
店主の冗談にクリちゃんはすぐ答えられず
「ごめん、ごめん!所さんところの子だろ?えーと、わかばだったよな。いくついるかい?」
少年は指を二本立てて、2コと言います。
「よし、ちゃんと買えたようだな」
喜ぶ父親は来た道を戻り、今度は前からクリちゃんを偵察します。あんなにタバコを見せびらかすように持って、嬉しいんだろうな。何度も路地を先回りして、いよいよ無事にクリちゃんが玄関に消えるのを確認すると、父親は大急ぎで庭から縁側に滑り込みます。
「あの子大丈夫だった?」
頷きながら、汗と動悸を隠すように新聞を読むフリが決まると、襖の開く音が聞こえます。クリちゃんの自慢げな表情に、母親は、もう大人ね、と褒めちぎり、父親は背中で気づかないフリを続けます。
「お父さん買ってきたよ。全然難しくなかったもん」
 
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