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仕事を終えて帰宅する帰り道。こんなにも胸が弾むのは明日が休日だからだろうか。金曜日の午後なんて、もう仕事は大して集中していない。帰ったら何しようとか、どこかに寄ろうかなとか考えてしまうものだ。でも今日は真っ直ぐ帰ることが朝から決まっていた。だって珍しく仕事が早く終わる彼がご飯を作って待っていてくれるから。
ウキウキで家までの階段を上がって鍵を開ける。その瞬間、ふわっと鼻を掠める香ばしい匂い。今日の晩ご飯はなんだろう。いそいそと靴を脱ぎ、リビングの扉を開けた。そこにはいつだったか私が買ったエプロンを着けた燐音くんがいた。
「おかえり」
「ただいまー! 約束通り真っ直ぐ帰って来たよ!」
「偉い偉い。もうちょいで出来っから先に着替えて来な」
彼がフライパンで焼いていたのは豚肉だった。焼いた豚肉にあとから燐音くん特製のソースかけるやつ。私が好きなもの。仕事でくたびれた私にとって最高のご褒美だった。
「これ、お土産」
食卓に並んだ燐音くん特製の晩ご飯の横に私が買って来たビールを並べる。やっぱり缶ビール片手にご飯食べるのが週末の醍醐味ってもんでしょ。私の考えは彼もお見通しだったらしく「さすがだなァ」って笑った。二人同時にプルタブを引いて乾杯。こうして週末の夜は幕を開けた。
「それでさぁ、今日もあの上司がね」
「はいストーップ。ナマエちゃんさすがに飲み過ぎっしょ」
晩ご飯を食べ終えて缶ビール片手に上司のことを愚痴る。最初は相槌を打ってくれていた燐音くんの顔つきが変わったのは、私の指が五本目を開けた時だった。
「なに」
「なにじゃねェよ。目ェ座ってるし」
「座ってないよ。まだまだいける」
「いぃや、もうダメ〜。あとは燐音くんが飲みま〜す」
「ずるい! いいじゃん、明日休みなんだから!」
「だからっしょ」
ひょいっと私の手から缶ビールを抜き取って、そのまま自分の口に運ぶ燐音くん。いつもなら私の気が済むまで付き合ってくれるのになんでだろう。明日は彼だってお休みなのに。
「夜はこれからなのに、ナマエちゃんに潰れられちゃ困るンだよなァ」
そう言って残りの缶ビールを呷る燐音くん。大きく数回動いた彼の喉から何故か目が離せなかった。理由ならわかっている。
「次の日の休みが被るなんてそうねェんだから、楽しまなきゃ損っしょ?」
その目が濡れているのはアルコールのせいなのか、それとも。たぶん私も同じ目をしている。これから行われることを期待して。まだ夜は始まったばかりだ。
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ふと、寒さを感じて目が覚めた。微睡みの中ゆっくりと顔を動かせば、寝る前は肩まで被っていた布団がなくなっている。隣の彼女に目を向ければ、布団にぐるぐるに包まっていた。……またか。最近肌寒くなって来たしねぇ。やれやれ、と壁にかかった時計を見ればまだ午前三時過ぎ。明日は休みだし、もう起きるには早過ぎる。多少心は痛むが、俺もこのままでは寒くて眠れない。それに万が一風邪でも引いたらと思うと背に腹はかえられないのだ。
ぎゅっと布団を握りしめた手を解いていく。闇雲に布団を引っ張ったところで彼女は離さないから仕方ない。手が緩んだところでズルズルと布団をこちらに寄せていく。次第に彼女の上から俺の方へと戻って来たのだが、引っ張りすぎたか彼女の身体が半分布団から出てしまった。彼女にも風邪を引かれては困る。むくりと起き上がり彼女の方へと布団を掛けてやろうとした。その時俺の目に飛び込んできたものは、中途覚醒した頭にはあまりにも毒だった。
寒いはずなのにぺろりと捲れ上がった上半身のスウェット。暗闇の中でもわかるくらいの彼女の白い肌が曝け出されていた。胸まで捲れていて目のやり場に困る。自分で脱がせるのとはまた違う。これは流石の俺でも動揺してしまう。そんな気持ちに蓋をするように、スウェットを直してやった。そして思いっきり布団をかけてやった。半ばヤケクソだった。そのままの勢いで横たわり目を閉じた。なのに広がるのは暗闇じゃなく、彼女の白い肌。だめだ、このままじゃ、眠れそうにない。
人の気も知らずに隣ですやすやと眠る彼女に少し苛立つ。別に彼女は悪くないけど。それでもむかつくので冷え切った手で頬を触ってやった。すぐに口がもごもごして、小さく「冷たい……」と呟いた。こっちは変に熱を持って暑いくらいだ。起きたらどう責任取ってもらおうかな。