#重行ワンドロワンライ
七聖召喚が各国で大流行し、この機を逃すまいとして様々なカードゲームが発売されている。商人の港璃月にはいち早く新商品が流れ着くため、飛雲商会もその例に漏れず、来月発売される予定だという新しいカードゲームが届いていた。
「というわけで重雲、僕と一戦勝負しないかい?」
行秋は飛雲商会の御曹司であるため、発売前の商品サンプルをもとに製品を商会で取り扱うかどうかのチェックをすることがある。今回はカードだから、実際にプレイすることが必要で、行秋は共にゲームに興じる相手に重雲を選んだのだ。
「ぼくに用事があるというのはそのことだったのか。」
「その通り。これは七聖召喚よりもターゲットの年齢層が上の予定で、チップを賭けて遊ぶような賭け事向きの商品なんだ。しかし僕たちはモラや物品を賭けるわけにはいかないから、別のものでも賭けてみないかい?」
「何をだ?」
「例えば、相手にひとつ言うことを聞いてもらう権利。もちろん金品貴重品の要求はなしで、無理のない範囲でだけど。」
「それなら大丈夫だ。じゃあ始めよう。」
今回のゲームは行秋の勝利に終わった。行秋は商会で多種多様な遊戯に触れる機会があり、これは彼に少々有利な場面設定だったのかもしれない。
「勝負あったね」
「ぼくの負けだ... よし、僕がお前の言うことをひとつ聞く約束だな、僕は何をしたらいいんだ?」
しばらく黙り込んだ行秋は、やがてさらりとした口調で告げた。
「明後日は暇かい?実は天衡山に妖魔が出ると聞いたんだ。」
ゲームから2日、重雲は行秋とともに朝から天衡山へ赴いていた。重雲にとってみれば不思議な話だった。無理難題は無しとしたが、行秋のことだ、絶妙にぼくを困らせる要求でもこねているのだと思っていたから、一緒に妖魔退治へ出向こうなんて、妙なことだと思った。
「しかし、妖魔はあまり見当たらないな...璃月港で噂になるような妖魔なら、多少なりとも邪悪な気配を感じるはずなのに...」
「確かに。まあ詳しい情報ではなかったから、この周辺ではないのかもしれない。ところで重雲、そろそろ昼時だよ、香菱が持たせてくれた弁当があるから休憩にしよう」
「もうそんな時間か。ああ、いただこう。」
腹ごしらえと休憩を挟み、2人は夕方まで妖魔を探して回ったが、めぼしい成果は得られなかった。璃月港まで帰る道すがら、重雲は先ほどかうつむき気味で、心なしか気落ちして見えた行秋に声をかけた。
「行秋、今日はあまり成果を得られなかったが、そう落ち込むことはないぞ。妖魔退治にはこういうこともつきものだ。それにしても、行秋が妖魔退治に同行したいなんて珍しいな、どういう風の吹き回しなんだ?」
「そう?僕は僕の義侠の心に従ったまでだよ」
「そうなのか...?まあ今回は残念だったな。」
「いや、残念ではなかった。少なくとも僕には有意義な時間だったさ。」
行秋はくすと笑って、怪訝そうな顔をした重雲の頬に一瞬口づけた。
「君と2人きりで1日過ごせたんだ、この上ないご褒美だったよ。」
そのまま礼を言って行秋は立ち去り、後にはかすかに感触を残す頬をその手で抑え、顔を真っ赤に染めて呆然と立ちつくす重雲がひとり残された。