そこにある情報を正しく読み取るだけの知識はわたしにはなかったけど、頭のすみの方で、わたしはわたし以外の人類がもう残ってはいないということを……理解し始めていた。
 そんなわたしに構うことなく、女の人は言葉を続ける。
「最終的に人類は、地球圏からの脱出を計画しました。しかし、全人口の50%を地球圏外に脱出させることも不可能だと判断。全人口から回収された未感染の遺伝子を大規模な[[rb:遺伝子 > ジーン]]バンクに保管、それを人類保全機構の全システムを移設した緊急隔離ブロックとともに宇宙に打ち上げました。つまり、人類は地球を放棄したのです」
 目の前の立体映像が切り替わり、今度は筒状の何かが映し出された。周りは真っ暗でなにもなく、その筒状のなにかの大きさをうかがい知ることはできない。
「これが人類保全機構の緊急隔離ブロック、つまりあなたがいるここです。本ブロックは省力化のため、航行システム及び居住区、そして[rb:遺伝子 > ジーン]]バンクと[[rb:再生 > リザレクション]]システムのみで構成されています。現在、[[rb:人類が生存可能な環境 > ハビタブルゾーン]]に該当する惑星を捜索しつつ航行中です」
「……」
 普通なら、驚いたり、悲しんだり、絶望したり、泣き叫んだりするところなんだろうな、とわたしはぼんやりと思った。
 でも、わたしは……わたしの心には、そういう感情はなぜか沸き起こらなかった。
 ただ、体の方はわたしの心よりも状況に正直だったのかもしれない。ベッドの上に起こしていた体からふっと力が抜けて、ベッドに倒れ込んでしまった。
「疲労が見られます。情報開示を中断。休息を推奨します」
 女の人は、今までと変わらない平坦な声でそう言って、わたしに背を向けようとした。
「……待って!」
 今度も体が勝手に反応した。さっきベッドに力なく倒れ込んだはずのわたしの体はバネじかけのように飛び起き、去っていこうとする女の人の手をつかんだ。
 生まれてはじめて……かどうかはわからないけれど、すくなくともここで目覚めてから初めて触れる、ほかの誰かの、肌の感触。
 女の人は自分を人型端末、アンドロイド……人間じゃないって言ってた。その言葉の通り、わたしがつかんだその手からは、冷たくも温かくもない、不思議な温度を感じられた。
「情報開示を再開しますか?」
「ううん、えと、そうじゃなくて……」
 女の人は、私がつかんだ手を振り払うでもなく、握り返すでもなく、そのまま肩越しにわたしに視線を向けながら言葉を返す。
「……」
 言葉の続きが出てこない。体は勝手に反応したのに、心と言葉が追いついてない。
 なんで? なんでわたしは、この女の人の手をつかんだんだろう?
 わたしがそんな疑問で頭の中をいっぱいにしているあいだ、女の人は固まったみたいにそのままの姿勢で、わたしの方をあの不思議な色の瞳でじっと見ていた。
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紅楼夢表紙お礼SSを書いていきます。
初公開日: 2022年12月25日
最終更新日: 2022年12月26日
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書いていきます……。