そして、その女の人は、致命的な言葉を口にした。
「現時点において、現生人類と呼べる存在はあなただけです」
わたしは言葉を失った。人類が……わたしだけ?
言葉だけでなく意識まで失ってしまうのに、そう時間はかからなかった。
次にわたしが目を覚ましたのは、ベッドの中だった。
相変わらずなんだか自分のものではないような体をなんとか動かして、ベッドから体を起こす。
あたりを見回すと、また白い部屋。白い色に囲まれて目がくらみそうだ……。
くらくらするのは目だけじゃない。頭の中も。
あの女の人の言葉だけが、ぼんやりする頭の中にはっきりと残っていた。
人類の生き残りが……わたしだけ? どういうこと……?
当然、いくら考えてもその理由はわからない。
その代わりに、わたしが目を覚ましたときと同じように部屋の壁の一部が音もなく縦に割れて、あの女の人が入ってきた。
「覚醒を確認。ステータス、ノーマル」
やっぱり感情のこもらない声でそう言って、女の人はわたしがいるベッドに近づいてきた。わたしはなんとなく気恥ずかしくなって、シーツを顔まで引き上げる。
そんなわたしの様子をどう思っているのか、女の人はまったく感情の読めない目で、わたしをじっと見つめている。
その目は、一度も瞬きをしていない。
女の人は言っていた。自分は人型端末……アンドロイドだって。
じゃあ本当に、ここにいる人間はわたし、だけ……?
女の人は何も言わず、じっとわたしを見つめている。その眼が……一度も瞬きしていないことにわたしは気づいた。この目の前にいる女の人は、本当に……人間じゃないんだと、まだぼんやりする頭で思った。
「……あの」
わたしはやっとそれだけを口にしたけど、その後に続く言葉が見つからなかった。
そりゃあ、聞きたいこと、わからないことはたくさんあったけど、ありすぎて何から聞いていいかもわからない。
そんな思いまだぼんやりした頭の中に溢れて……目と口から溢れた。
目からは涙がぽろりとこぼれた。口からは小さな「さみしい……」という言葉が。
「さみしいのですね」
女の人は、わたしの言葉をそのまま繰り返す。そして、すっと体を屈めて、手を伸ばして……わたしの頭を、なでた。
機械がするような……実際に機械なんだけど……迷いのない動作で、わたしの頭の上にすっと手を持ってきて、その手を測ったみたいに正確に同じペースで、三回往復させた。
「大きなメンタルストレスである不安の解消に有効なのは、接触です。不安の解消は見られましたか?」
女の人の声は、今まで通り感情の感じられない、平坦な声音だった。でも……わたしを安心させてくれようとしていることは、わかった。
実際、女の人がそうしたくれたことで、わたしの気持ちも少しだけ軽くなった……ような気がする。でも、まだわからないことがたくさんあるのは変わっていない。それでも、わたしはなんとか、わからないことをひとつずつ質問するだけの余裕を取り戻していた。