菩薺村は既に秋の空気を纏っていた。どこからともなく吹く風は少し冷たく、色付いた落ち葉を運んでくる。謝憐は一人、その落ち葉を箒で集めていた。菩薺観の前をあらかたはき終わり、謝憐は道観の壁に背中を預けた。すると、足元の方から女性の声が聞こえた。
「素敵な道観ですこと」
 謝憐が視線を足元に落とすと一人の女性が座っていた。彼女は謝憐に顔を向けるわけではなかったが、非常に美しい顔立ちをしていることは正面から見なくてもよくわかった。謝憐は自分の道観を褒め言葉を素直に受け取った
「ありがとうございます」
 謝憐が礼を言うと、女性は先程謝憐が集めた落ち葉の山をぼんやりと眺めていた。
「この道観は誰を祀っていらっしゃいますの?」
「仙楽太子です」
 女性は酷く気だるげであった。謝憐の言葉にこれといった感情を動かされないようだった。
「その神様はどんな神様でいらっしゃいますの?」
「うーん、ガラクタの神でしょうか」
「ふふ……不思議な道長さんですこと。自分の道観に祀っている神様のことなんですから自信を持って仰ったらいいんじゃありませんの?」
 彼女は笑った。しかし、それは心の底から出たのもではないという印象を与えるものだった。
「そうですね、その通りです」
 謝憐はこの不思議な女性とごく普通に話した。
「ねぇ、道長さん。そのガラクタの神様は恋人に会わせてほしいと願ったら、叶えてくださいます?」
「さぁ、どうでしょう。貴方は会いたい人がいるんですか?」
「えぇ、もう……ずっと、長い間会えていませんわ。でも仕方がないのです。これもまた、神がお決めになったことですもの」
 彼女の声色には暗い翳りがあった。諦めようとしているものの、諦めきれない。そんな苦悩の色があった。
「神が決めたとは?」
謝憐は一つの疑問を投げかけた。
「私は彼とは会ってはならなかったのです。しかし、私たちは会ってしまった。当然の報いなのです」
「何故、会ってはならないんですか?」
「私にも分かりません。でも、そう思うのです 。今のこの状況が、私をそう信じさせるのです。それに、私はもうすぐここを去らなくてはなりません。きっとまた彼と会うことはできないでしょう」
 女性の声は少し震えていた。ちらりと見える瞳は潤んでおり、今にも泣きそうであった。謝憐は天性の「万人を救いたい」という思いが、湧き出る泉のように心を満たした。
「互いに思い合ってるのなら、彼の心は貴方の近くにいるかもしれませんよ。姿は見えなくとも、傍でずっと見守ってくれている。きっとそうです」
 謝憐はかつての自分を思い出した。祖国も、信徒も、両親すら失った彼はひたすら孤独だった。しかし、傍には誠実な信徒がいた。謝憐は絶望の中、その事実に気づくことは出来なかったが確かにいたのだ。
 謝憐は彼女にも、かつての自分のように傍にいてくれる者がいてくれることを願った。
「それもそうかもしれませんね。道長さん、ありがとうございます。どこか吹っ切れたように思います」
 彼女はすうっと優雅に立ち上がると、初めて謝憐の顔を見た。その表情は少しばかり晴れやかに見えた。謝憐はその表情を見て安堵した。
「力になれてよかったです」
「では、私はそろそろ行きます。もし彼が此処に来たら伝えて欲しいことがあるのです」
 彼女は微笑んでいた。しかし、その優美な微笑みの中には意志の強さが見て取れた。謝憐は微笑みに背筋が伸びる心地がした。
「はい、なんと伝えますか?」
「"どんなに離れていても私は貴方を愛している"と」
 謝憐は深く頷いた。彼女は満足したようにきすびを返し、前へ一歩踏み出した。しかし、なにか思い出したかのように振り向くと謝憐に向かって笑顔で告げた。
「道長さんはあの赤い衣の少年と幸せになってくださいね」
 謝憐は驚き、目を僅かに見開いた。そして口角を上げると、彼もまた笑顔で告げた。
「はい、そのつもりですよ彼岸花のお嬢さん」
ここらで切り上げようと思います。見に来てくれてありがとうございます!
では、配信終了しますね
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初公開日: 2022年09月17日
最終更新日: 2022年09月17日
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天官賜福のSS書きます