【忘却、創造、悔恨、諦観】
自己同一性とは何だろうか。
他者と自己を分かつ絶対の分水嶺?
彼我と此我とを区分ける唯一の性?
なぜ?どうして?だれが?なにを?
あらゆる疑問と諦観、一握りの憎悪の中に生まれたわたしは、それじゃあ一体何を以ってその自己同一性とやらを獲得すればいいの?
「くだらない問いかけよな」
「そう?わたしとしては十二分以上に真剣な問いなのだけれど」
冷酷な口調は、そも根本的に他者への興味薄弱が感じられる。
これは、むしろわたしに対してだからだろう。
召喚以来、ずっとこの調子だ。
上下の関係を叩き込む………のは実際不可能。
叡山を焼き打った所業にこそ、この英霊の合理と酷薄が表れている。
…しかしまあ、これを手懐けていたのだというのだから、『わたし』というのはどうかしている人間だったらしい。
つくづく、度し難い。
「現界以来幾度目の問いか。そも貴様のようなモノをマスターと認めること自体が痴れ事。
異例に異例を重ねた此度の僥倖を、廻帰不変の問答で潰すなぞ、思い上がりと呼ぶのも烏滸がましい」
「ふうん?やっぱり、哲学的宗教的な問いかけは嫌い?
史実では結構会談したんじゃなかったっけ?あの、本願寺の…なんだっけ、お坊さんの」
「顕如か」
「あ、そうそれ。比叡山とかあの辺りのお坊さんの総元締め、よね?
そんなヒトと話すってなれば、避けて通れない話題だと思うけど?」
肩を竦めてワザとらしく溜息。
敢えて煽るとまではいかないが、しかし一矢報いる意味でもこれくらいの抵抗は必要だろう。
───だが、眼前の女から発せられた視線は酷薄などというソレを超えて、いっそ妖艶ですらあった。
「その口で顕如を語るか?自己の唯一性などという俗人の咎に縛られる貴様が?
ふ、はははははは!!!!それは佳い!現界以来初めて貴様を愉快と思うたわ!」
「あら、それはよかった。わたし、正直貴女に嫌われてると思ってたから」
「ん?普通に嫌いじゃが?」
「あ、そう。そりゃまあ、そうよね」
「うはははは」
「えへへへへ」
互いに笑い、適当に茶を濁す。
慣れたモノだ。召喚以来ずっとこの調子だし。
…。
……。
………。
ホント、どうやってこんなのと仲良くしてたんだ、『わたし』は。
本気で、心底、無理だな。うん、無理。
「はぁー………で、その本願寺顕………の話はまあ!置いておいて!」
いや!眼が怖いってやっぱり!
どれだけいやなの!?本願寺顕如の話題!
とりあえず話題を変えましょうね!
「ええと、まあ貴女が言うように、現状わたしたちは特に何もしてないわ。
ただ、それも今日で終わり。
いい加減、うんざりするほど繰り返した問答も、貴女から向けられ続ける殺意も、全部ね」
「………」
女は答えない。
まあ、当然だろう。
何せ確か、嫌いなモノは諦めの良い人間だったはずだ。
なら、わたしは最初から埒の外。
どう足掻いたって、好かれる要素がない。
ああ、こっちの名誉のために言わせてもらえば、わたしとしてもこの女は嫌いだ。
分かり合う必要はない。
どうせ、英霊は兵器なのだから。
「…………ふむ」
女の視線が遠くを捉える。
一寸遅れて、令呪を通じたラインの気配。
まったく、ふざけた感知速度だ。
契約しているわたしが気付くより先に、もう一騎のわたしの英霊を察知するなんて。
「来たわね」
「そのようじゃな」
わたしは居住まいを正し、虚空を見る。
記念すべきファーストコンタクトに備えて。
苦悶すべきこれからのことを考えて。
ああ、ようやく始まるのだ。
築きに築いた一理塚。壊して回るは我が汚濁。
「マスター、指示通り連れて参りました」
慇懃な、しかし憮然とした声。
この英霊も、わたしを嫌いなのだろう。
いいよ、いい、それでいい。
「ご苦労様です。さがりなさい」
強制的に霊体化させた英霊を下がらせ、わたしは眼前のソレと対峙する。
「…ふむ、俺を呼んだのはお前で相違ないか?」
流麗。
初見で感じたのはただその一事。
次いで老練。
不可思議な感覚だった。
わたしの眼前に立つソレは、明らかに若い。
だというのに、そう、何か不自然なまでの老獪さを感じる。
三度目をやれば腰の佩きに意識を奪われる。
まるで月光だ。
鮮やかで、繊細で、夜に輝き、しかし決然と儚い。
「ええ、そうよ。
貴方を呼んだのはわたし。
さあ、名乗りなさい。貴方の銘を。
それで────全てが始まるから」
「そうか。相承知した。
俺は──────三日月。
三日月宗近だ」
…。
……。
………。
「ふ、はは、あははははははははは!!!!!!」
知らず、笑いが漏れる。
いや、漏れるなんて柔らかいモノではない。
溢れる、流れる、怒涛のように。
ああ!ああ!まさにこの時が始まり。
さあ、さあ、さあ。
幕を上げよう。
悲劇でもいい、喜劇でもいい。
なんでもいいから幕を上げよう。
それがわたしの意義、意味。
自己同一性?
自己愛性?
そんなものはどうだっていい!
そんなものはただ生きる有象無象に任せておけばいい!
幕を上げるのは幕を上げる権利を持つモノが受け持つべきだ!
つまり、つまり、ああ、つまり。
「ええ、宣戦布告よ。
この出会いが、
この日々が、
このわたしが全ての因果。
いい加減、諦めないって姿勢にうんざりなのよ、わたし。
だから、ええ、宣戦布告。
わたしから、貴方たちへの
マスターから、審神者への
──────藤丸立香から、この世界への、ね」
本当は、何かtwstクロスの短編とかも書こうと思ってたんスけどね…。
思いのほかとうらぶクロスの冒頭に時間がかかってしまった…
筆が遅いのなんのって…
しかもですよ
『三日月を連れてきたのは沖田さん』とか
『実は村正も召喚されたけど直後に速攻自害してる』とか
そういうのも書くつもりだったけど書けなかった…
自己同一性のくだりも本当はもう少し長くする予定だったんですけどね…
さすがに自己満が過ぎるなぁと思って結果的に削っちゃった…
難しいモンですホント…
とりあえず今回はここまでですが、どうもアーカイブに収録すると今回の配信の全部が後からでも見れるらしいんで、なんか序盤とか見逃したー!的なのがあればアーカイブから見てくだせえ!
つたない配信でしたが、ありがとうございました!
次はまた違うクロスを書くかも、です!
その時はよろしくお願いします!