私は今介護施設でパートをしているんですけど、その前は大学病院で看護師をしていたんです……
正看護師、といっても看護師長や先生には叱られてばかりで……いつも仕事が遅い、一人にどれだけ時間をかけているんだと叱られてばかりで……
私自身、おっとりしているところがあるみたいで、患者さんに怒鳴られたり、嫌みを言われることもあって……ごめんなさい、今日のお話とは関係ありませんでしたね。
それで本題なのですけど……
実は私、前の病院で『死神』なんて呼ばれてしまって……はい、お察しの通りです。
病院は良くも悪くも出会いと別れの場所。
私の場合は担当に当たった患者さんと悪い意味で分かれてしまうことが多かったんです……よく、看護師の間で都市伝説のように言われてたことがあるんです。
看護師の中には、担当した患者さんが必ず『ステる』方がいるそうで……あ、すみません、ステる、というのは業界の隠語でして……もとはドイツ語のシュテルベンって単語がもとになっているんです。
意味は……虹の橋を渡ること、です。
もちろん、命を救う側の人間として不名誉極まりない言葉なのですが、私の場合そのステる頻度がほかの方よりも明らかに多かったんです。
ひどい時は挨拶をした昼に問診に行くとすでにステってしまっていて……はい、やっぱりそう思いますよね?
私以外の誰かがそうなるように仕向けているって。
ナースコールもあるのに、誰にも気づかずになんておかしいって。
私もそう持って廊下の……担当した方の病室前の監視カメラを確認したんですけど、私が入った後は誰も出入りした様子はなくて……
やっぱり、おかしいですよね……え?それがどのくらいの時期にあったか?
えーっと……病院に勤めてから一念しないくらい、ですかね……?え、そうではなく?
呼ばれ始めたタイミングかどうか?
それならその時はまだいうほど呼ばれていなかったと思います。看護師長と先生に言われだして、そう呼んでいたのは三人ぐらいでした。
その前の患者さんは一人だけステってしまいましたけど……はい。それから言われるようになりました。
話を続けても?……はい、ありがとうございます。
それで、そんなことがあったので同僚にも広まってしまって……すれ違うたびに死神といわれました。
中には近づくだけで寿命を取られる、なんていう人もいました。
もちろん私だってただの人間ですし、そんなことできるわけありません。
でも、私が死神であるといううわさが広がるたびに、まるでそれが現実になるように、ステる患者さんが増えていったんです。
ある時は初期の胃癌で入院していた方が実はほかの場所……レントゲンなどでは見えにくい場所でかなり進行していたものの転移でした。
ある時は昼食の時間に力の弱いおばあさんが誤ってバナナを丸のみにして窒息してしまいました。
ほかにもいろいろありましたが、この辺で……もちろん、これだけ偶然とはいいがたいような問題が起こってしまったので、患者さんの間にも私のうわさがはやりました。
それはもちろん、患者さんのご家族の方々にも……
それ以来、上司や同僚からのいじめ、患者さんのご家族の心ない言葉によってPTSDを発症してしまって……
はい?カサンドラ症候群……?お若いのによく知っていますね。
おそらく当時はPTSDというよりはカサンドラ症候群のほうが近かったと思います。
ただ、身近にアスペルガー症候群の方もいなかったですし、正式名称でもないのでPTSDという診断に落ち着いたのだと思います……話がそれてしまいましたね。
診断を受けてから、私はすぐに退職してPTSDが落ち着くまで休養していたんです。ですが……
ある日の朝でした。私には夫がいたのですが、その夫がいつまでたっても起きてこないのです。
いつも決まった時間に起きる方だというのもありましたし、夫は冷え性でしたから、朝食も温かいうちに食べてほしいという思いもありました。
私は少し駆け足で夫の寝室に向かい、起こすためにその体に触れました。すると夫の体は冷え性どころではないほどひどく冷たくなっていたのです。
驚く暇も、悲しむ余裕もありませんでした。
夫が亡くなってから今度は夫のお葬式に参加してくれた夫と共通の友人が、その帰りに交通事故にあって亡くなりました。
そしてその後も。
今度はお義父さんがくも膜下出血で亡くなりました。そして言われてしまったんです。お義母さんやお義姉さんにお前は死神だと。
いつしかその言葉は私の中で呪いの言葉になり、心に染みついてしまっていました……御辺外です。あのサイトは解決方法を広めてくれると書かれていました。私のこの呪いとなってしまった言葉を何とかする方法を教えてください……!!これ以上、大切な人を失いたくないんです……!!
―――
「それが、今回聞いた人の話?」
「ああ、エニシならどうする?」
「うーん……言霊は口にすればするほど、呪いは人の思いが強ければ強いほど力が強くなるっていうからね……」
「噂を止めるのは無理……だよな」
「そうだねぇ、でも噂を上塗りすることはできるんじゃない?」
「上塗り?」
「そうそう、大元は何とかならなくても、人の認識を少し変えられればその場しのぎ程度にはなりそうでしょ?」
「いや、そうかもだけど……」
「こうしよ、ここを……こうして……うん、これでOK!!」
「……なるほど、一応俺もやっといたほうがいいかな」
「大丈夫だと思うけど、一応やっといてもいいんじゃない?」
「ああ、そうしとく」