うぐひらワンドロ【 お酒 】
現パロ
※※※
鶯丸の家に通うようになって数年経つが、ダイニングテーブルに見慣れないお酒が置いてあり平野は目を見開いた。
部屋の明かりに照らされて、底の方がキラキラと光っている。
普段お酒を飲んでいる姿を見たことが無く、もしかして間違って買ってしまったとかだろうか、と首を傾げつつ今日の夕飯を作るために台所へ向かった。
珍しく鶯丸が食べたいと言ってきたのはクリームシチューで、夏に食べたくなるなんて珍しいとは思いつつ、確か以前にもこういう事があった気がすると思いを馳せる。
(そうだ、あの時も)
初めて鶯丸にクリームシチューが食べたいと言われたのだった。
こんな真夏にですか、と訊いたら真夏でも関係ないと言われたが、出来上がったシチューを見てさりげなく部屋の温度を少し下げたのを平野は見逃さなかった。夏だけど冬、を感じたかったのだろうか。
その時の平野はまだ料理に不得手で、人参もジャガイモも大きさはバラバラで多分いくつかは生煮えで硬かったはずだ。
でも鶯丸は眉一つ寄せず、ふふふと笑っていた。
それで、平野は(ああ、好きだな)と沁み沁み思ったのを――芋づる式に思い出して少し顔が熱くなった。
エプロンの紐を結び、よし、と握りこぶしで気合を入れる。
あの頃に比べれば料理のレベルも上がったはずだ。
果たして鶯丸はその違いに気づいてくれるだろうか。
思い出に釣られるように、平野もふふ、と笑った。
*
おかえりなさい、と家主を迎え入れて、「お腹空いてますよね、準備はできていますよ」とダイニングに招く。
夏の湿気と共にやってきた鶯丸は用意されていた夕食にニッコリと笑い、まず「ありがとう」と礼を言ってくれた。
なんだかくすぐったくて、無意識に急かしてしまった自分が恥ずかしくなる。
さあいざ実食、となったところで鶯丸は何かを思い出した様で、一旦台所に向かった後にグラスを二脚持ってきてテーブルの隅にあったボトルを開けだした。
そういえば料理が終わってすっかり忘れていた。
「そのお酒、どうされたんですか?」
「買ってきて冷蔵庫で冷やすのをすっかり忘れていた。ノンアルコールだから平野でも飲めるぞ」
平野が聞きたかったのはそういうことではないのだが、はい、と手渡されたグラスに目が釘付けになってしまった。
(金箔が……)
金箔が炭酸の泡――おそらくシャンメリーなのだろう――と共に舞っている。
「綺麗ですね」
ほぅ、とため息をつく平野に「気に入ったか?」と訊いてくる。
「もちろんです。ありがとうございます」
お酒ではなかったことにも安堵した。平野はまだ年齢的にも酒は飲めないので晩酌の相手はきっと満足にできないだろうから。
「では、いただこうか」
乾杯、とグラスを小さく突き合わせ二人で夕食が始まった。
* お腹すきました。
「ごちそうさまでした」
食事が終わり他愛ない話も尽きたところで、思い切って鶯丸に訊いてみた。
「前と比べて、どうでしたか?」
曖昧な質問に、一瞬きょとんとした顔をしていたが、多分平野が一番好きな笑顔で「ずいぶん上達していた」と言ってくれた。
ほしい言葉をそんな笑顔で言われてしまったら、平野は嬉しいやら恥ずかしいやらで口がむずむずとして慌てて口で手を抑えた。
それで少し変な顔になってしまっただろうが何とか「ありがとうございます」と言葉を絞り出す。
「俺の方こそありがとう。いつも料理を作ってくれて」
ああ、好きだなぁと改めて思った。
このひとを好きで良かった。
「今日は平野がうちに来てくれるようになってちょうど5年だったから、何かしたくてな」
「……えっ、そうでしたっけ」
「そうなんだ。だから今日はシャンメリーでお祝い」
「それならそうと、言ってくだされば……」
もっと豪華な料理を作ったのに、と呟いたら笑われた。
でもそれよりも平野の初めて作ったクリームシチューをもう一度食べたかったということだろうか。なんてことだろう。
目の前のグラスを揺らしてシャンメリーを含む。
「じゃぁ、平野が酒を飲めるようになったら、今度はシャンパンを買ってくるよ。――指輪と一緒に」
ゴキュ、と喉が鳴った。
クーラーの音が少し強くなる。
穏やかな鶯丸の声を脳内で反芻するたびに、平野の顔に熱が集まって動きがぎこちなくなる。
(それ、は、つまり……)
「えっ、と、あの、……」
一度大きく深呼吸して、乾いた口をシャンメリーで濡らす。
「では、とびっきり豪華な夕食を準備して――お待ちしております」
少し涙目になった平野が持つグラスに、鶯丸のグラスが寄せられる。
「よろしく頼む」
チン、と福音が部屋に響いた。
終わり
一時間過ぎたかも\(^o^)/