サンサン劇場では、現在いつものポスターが掲示してある階段が工事中で、反対側の階段から地下に入るルートとなっていました。
 そのため、いつもの見慣れた光景が左右反転しておりなんだか鏡面世界に迷い込んだみたいな気分で地下に降りていきました。
 さて、そんな不安定な気分で見に行ったのは、さらに不安定になりそうな作品「ポゼッサー」。仕事が詰まってますが今日までだったので、駆け込みで見てきました。
 もうこのポスターの時点で不安定になる! 不安定になる!
 人が映画に求めるものはさまざまですが、世の中にはイヤ~な気分になりたくて映画を見るという人種がいるのです。ヘンタイジャナイヨ?
 加えて本作、みんな大好き「裸のランチ」や「ヴィデオドローム」の監督であるデヴィッド・クローネンバーグ監督の実子であるブランドン・クローネンバーグ監督の作品ということで以前から注目していた作品でもあります。
 劇場に足を踏み入れると、なんかもう上映前から不安感を煽るような重低音が場内に鳴り響いており嫌が応にも期待が高まります。なんの期待だよ。
 さて感想なんですが、いやーもう最高にイヤ~な気分になれました。
 本作はR-18指定なので、もう冒頭から生々しい血ィドバドバの殺戮シーンが繰り広げられるんですが、いわゆるスプラッターな映像ではなく、なんというか脳の奥底に映像を塗り込めようとするかのような見せ方で、ああ~これクローネンバーグ監督の作品で見るやつ~!!と内心大はしゃぎでした。
 実際冒頭から続く殺戮シーンは、主人公であるタシャのフラッシュバックとして執拗に繰り返されます。フラッシュバックだけでなく、タシャは作中で実際に必要以上に残酷な手段でターゲットを殺害します。この辺で、視聴者はタシャが狂気に歪められつつあるのではなく、最初から狂気をはらんでいたことを察するわけですよイヤですねえこういうの大好き。
 そして本作でいちばんイヤ~だった(=良かった)シーンは、タシャがターゲットであるテイトの意識に入り込むシーン。
 そもそも映画というものの魅力のひとつは「現実では見えないものを映像として視覚化すること」だと思ってるんですが、このシーンは本当に不気味かつ生理的嫌悪感を催す映像で最高。
 このシーンはもうまさに人格が溶け出して他人の意識の中に塗り込められていく様子そのもので、これを映像として作り上げられるブランドン監督の脳内が心配になるレベル。
 本作ではタシャの意識とテイトの意識が入り混じり、混濁していく様子がフラッシュバックを多用した映像で表現されており、幻惑的な内容となっています。
 幻惑されると言えば、そもそも本作では「個人」や「自意識」といった自他境界線を意図的に曖昧に描いていると感じました。冒頭の事件にてタシャが意識を乗っ取った女性コンパニオン・ホリーは、他の従業員と同じ服を着て、他の従業員と同じように並んでバスに乗って出勤しています。また、テイトも同じように職場ではほかの職員と同じ作業着を着て、工業製品のように並んで単純作業を続けるだけ。彼らを識別するのは、首から下げた身分証だけ。そしてタシャとテイトも、だんだんとどちらの意識で行動しているのかが曖昧になっていき、その殺意すらもどちらのものかわからないという異常な状況に陥っていきます。
 クローネンバーグ作品には、常に現実や常識といった普段揺るがないとされているものをいとも簡単に崩壊させるという世界観がある気がしますが、本作もまた「自分」という一見しっかりほかと隔てられているはずのものの境界線を焼き溶かした作品と言えるでしょう。
 この辺、P・K・ディックみを感じてとても良い。
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塚口サンサン劇場「ポゼッサー」見てきました!
初公開日: 2022年05月19日
最終更新日: 2022年05月20日
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