*
メッセージで伝えた場所に向かうと、待ち合わせ時間にはまだ早かったが、すでに銃兎が到着していた。すらりとした長身にさっぱりとしたカジュアルスーツがよく似合う。人だかりの中で頭を飛び抜けて目立っていたのですぐに見つけることができた。すれ違う女性たちが銃兎の方を見て何かを囁き合っているのを見かけた。
――あんだけかっこよかったらモテるだろうな。
同い年の男とは思えないくらい、銃兎は美しかった。長い足がパンツスタイルをよりよく見せていて、どこかのモデルではないかと見紛うほどだった。
「観音坂さん」
 人だかりの中で自分を見つけ出して声をかけてくれたことになぜだか嬉しくなる。銃兎はさっと人だかりを割って入って独歩の元に歩いてくる。
「すみません遅くなってしまって」
「いえ時間通りですよ」
「お店に向かいましょうか」
「そうですね」
 そう言って独歩の横に並び立った銃兎はさっと車道側に移動して歩き始める。本当にモテそうだなと思った独歩は銃兎の横顔に見惚れてしまう。刺さる視線に気がついた銃兎はふっと顔を綻ばせた。
「観音坂さんは私服だとイメージが変わりますね」
 唐突に話を向けられた独歩はえっ、と言葉に詰まった。
「そうですか……あまり服に頓着がないもので……」
「いえ。似合っているなと思ったんです。可愛らしくて」
 どんな服を着ていくのか悩みに悩んだ独歩は気取らない寿司屋とはいえそれ相応の服装がいいだろうと思って、少しだけきっちりとした服にしていた。それなのに、銃兎の感想が可愛らしいということに、独歩は不思議に思った。
「どういう意味ですか」
「そのままの意味ですよ。決して馬鹿にしているわけでは。とても似合っています」
「じゃあそういうことにしておいてあげます。ありがとうございます」
 少しだけ頬を膨らませた独歩はぷりぷりと歩みを早める。くすりと笑った銃兎は独歩の歩調に合わせるように、長い足で独歩に追いついた。
「観音坂さんは最近お仕事どうですか?」
 銃兎はすっかり濃くなった独歩の隈を見て眉を顰めた。薄い体はさらに薄くなってしまったように見えるし、どことなく覇気がない姿を見て心配になる。はは、と乾いた笑いをこぼした独歩の方に軽く視線を流してさっとその様子を観察する。
「それが急に忙しくなってしまって。帰りがすごく遅いのであの猫に会いにいくことができないんです」
「そうですか。それは大変ですね」
 銃兎と連絡先を交換したあの日の次の日から急に大型の取引が始まることになって、その対応に追われることになったのだった。仕事が片付かなくて日付を超えることはザラで、電車も無くなった時間になったときは社内の仮眠室で泊まり込むこともあった。
 それほど忙しくなっても、独歩は銃兎との約束だけを楽しみに仕事に励むことができた。銃兎の言葉が胸に浮かんでいつも温かい気持ちになるのだった。その度に独歩は心の中で彼にお礼を言っていた。
「入間さんのおかげで頑張れています」
「それは……よかった」
 銃兎はふと首を傾げながらも、独歩の謝礼を素直に受け止めた。何に対してお礼を述べているのかはきっとわからないであろう。あの日の夜もお礼を言えた。すぐに謝罪の言葉が口をつく独歩にとって、銃兎は素直にお礼を言うことができる貴重な存在だった。彼の「あなたは悪くない」という言葉のおかげだろう。思わず口角が上がってしまったことに気が付いて慌てて平静を取り繕う。
「あの猫ですが、たまに巡回中に見ますよ」
「本当ですか?」
「ええ、元気そうです。他の人も餌をあげているみたいですし」
「ああ、人気者なんですね」
 人懐っこい猫の姿が脳裏に浮かぶ。餌を与えればすぐに腹を見せてきてくれたあの猫は策士かもしれないな。そう思った独歩はふふと声を漏らして笑った。
 落ち着いた個室に店員が入ってきて、熱い留椀が二人の前に置かれる。蓋を外すと出汁のいい香りが部屋に広がった。
「あっ写真も撮ったんですよ」
「へぇ見せてくれますか」
 スマホのロックを外して写真フォルダを遡る。深夜の公園で撮った写真は少しぶれていたけれど、街灯の下でベンチでくつろぐ姿を捉えていた。たった一枚だけだけれど、その写真を通じて銃兎との邂逅が脳裏に浮かんで大好きな一枚だった。
「この猫、観音坂さんみたいですよね」
「えっそうですか?」
「ご褒美を前にしたら懐いてしまうところが」
「っばかにしてます?」
「いいえ。可愛らしくて好ましいですよ」
「ぐっ」
 美丈夫ににこりと微笑みかけられてしまえば、独歩はぐうの音も出なかった。銃兎の笑顔がキラキラと輝いて見えるのは幻覚だろうか。
 ーー本当に綺麗な人だなぁ。
 一挙手一投足が優雅で美しい。白くしなやかな指を見て、独歩はごくりと唾を飲み込んだ。
「美味しいですね」
「ええ。旬のものをこうやって食べられるのはいいですよね」
「とっても美味しいし割とリーズナブルでいいお店らしいと聞いたんですよ」
「さすが営業ですね。お詳しいわけだ」
「はは。そうですね」
*
「入間さん、
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12月原稿
初公開日: 2022年05月10日
最終更新日: 2022年05月10日
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【3/6は臣椋の日】ということにして笑。むっくんが不意打ちで臣さんに少女漫画エチュード(?)仕掛けら…
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