久々の非番である。
本当に久々の非番であるから、土方は屯所を出る前から変な気分で着流しに袖を通していた。
なんだか隊服で過ごす時間が長すぎて、むしろ着流しの方が気合が入ってしまう気すらしている。本来ならリラックスして着るはずの物なのに。
とりあえず一服、そう思って一本咥え、着流しの前を緩める。ふと、今日会う男の顔が思い浮かんだ。
「コラ!雄っぱい見せびらかしちゃ行けません!!!」
いつもの声が聞こえる気がして、慌ててちょっと前を締め直す。窮屈だが、皆の前でいそいそと世話を焼かれるよりはマシだ。
一体自分の胸元にどれほどの需要があるのか定かではないが、どうしてか野郎は土方が着流しの前を遊ばせるのを嫌がった。キチっと閉めておいて欲しいらしい。
ハッ、馬鹿げている。そしてそれに従う自分も馬鹿げていた。
土方はちょっとムスッとした顔でライターをシュボシュボ意味もなく鳴らし、タバコを深く吸い込み、吐いて。
自室の扉に手を掛けると、非番の日の空気を吸いに外に出るのだった。
かぶき町のシンボル、ターミナルの再建が慌しく進められる中、土方も銀時と慌しくくっついた。
色々と事が片付いた後でふと気づけば、肩を貸しあって歩んできたこの数年間。
もうお互いの背にのしかかっている荷は、どっちが背負っていたかも分からない程ごっちゃになってしまって、自分の大切なものはアイツの大切なものだし、アイツの大切なものは自分も大事にしようなんて思い始めていたからとんだお笑い草である。
要は、絡まってしまった荷をまた分配して、二人別々に歩んでいく程の気力も残っていなくて、心がくっついちゃったのである。
それに気づいたが最後、しばらくして体もくっついた。くっつかない理由もなかったし。
最後のバカ騒ぎが終わってから久しぶりに二人が飲み屋で出くわした時、妙な意思疎通が働いて。お互い飲みすぎを止めたりしなかったし、その後何も言わずにホテルに入ったし、目が覚めたときお互い全裸でもさして驚かなかった。
何となく予感はしていたので。
お互いちょっとぶすくれた顔をして、「じゃあ、」「これから、」「なんだ、その、」「よろしく頼まァ」とかなんとか言って、晴れてお付き合いが始まった。
と言っても特に劇的に何か変わるでもなく、土方に非番の日があればちょっと飲みに誘うぐらいで。(まァ体はくっつけたが。)
それに、なんだかんだ言って待ち合わせなんざしなくても勝手に鉢合わせる。
便利なもんだ。
そう言って、土方とオフでなかなか会えない事に文句も言わない銀時は笑うのだった。
土方は銀時のこういうところが、ちょっと尊敬に値すると思っている。相手に気兼ねさせないし、こちらに全く気兼ねもしないので。お付き合いをするにあたって、相手の心を最大限に思いやって、それを感じさせない男だった。きっとそれを知っているのは今現在世界で土方一人だけだと思うと、ちょっと面映ゆいような、そんな気持ちになるのである。
街中でばったり合えば、いつも通り暴言のひとつやふたつ吐くし、額を突き合わせてメンチを切ることは決して忘れないが、それでもやっぱり2人きりの時は少しだけ、気を緩めたりできるぐらいになった。
そういうわけで、この関係は案外心地よく進んでいた。が。
土方には一つだけ思い残していることがあった。
お付き合いをしていることは周りに秘密にしているので、近藤さんたちに正式に報告していないのである。ちなみに銀時もそれに合わせて、特に神楽や新八に言ったりはしていないらしい。
銀時からは何度か、「お前んとこのゴリラにちっとぐらい言っといた方が融通効くんじゃねぇの?総一郎くんに言えとは言わないけど。さすがに。」みたいなことを言われたが、どうしてもウンと言えなかった。だって、小っ恥ずかしい!
仮にも親元と呼べる場所に、自分が、あ、愛する人?を?紹介?いや待て、愛するってなんだ。俺はあいつを愛しているのか、いや、愛していないと言ったら嘘になるが、それが世間一般に言う愛か、と言われるとなんか違う気がするし、ていうかそもそも愛するって何だ。愛って、手を繋いで砂浜を駆け回る、薔薇の似合う男女のイメージではなかろうか。こちとら腐れ縁という名の手錠に両手を繋がれて、イバラの道を駆け回る三十路の男が二人の図だ。なんか違う気がする。愛って何、誰か教えてくれェェェェ、とこんな具合に思考回路が乱雑化し、お付き合いのご挨拶どころではない。
万事屋が近藤さんの目の前で、「土方くんの彼氏やってます、坂田銀時です。」と真面目腐って自己紹介する地獄みたいな絵面になるのか、それとも「オタクの副長さん、俺にハメられてっから。もう根元までずっぽりだから。」と鼻くそをほじりながらトンデモないことを言い出し自分が抜刀する絵面になるのか。それを考えるだけでも頭が痛いのに、そこに行き着く前にまず【男同士】という壁もあるから困ったものだ。土方にとっては前途多難すぎて、一生後回しにしたい問題だった。
そして土方がここまで悩んでいるにもかかわらず、周りには付き合っていることはバレバレであった。バレてないと思っているのは土方だけで、銀時はそれがいつ土方の耳に届くかヒヤヒヤしていたので、もう一刻も早くご挨拶は済ませたかったのである。
そんなこと知らない土方、今日もお江戸の砂利道を踏みしめながら、非番の空気をタバコの煙と共に吸って、万事屋へ向かった。
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