*些細なことで喧嘩するきざたか、ベッドは一つしかないので一緒に寝るけどお互い背中合わせ、と思ってたら高谷が背中に引っ付いてきて小声で「ごめんなさい……」って言ってくるので許さざるを得ない木崎さん
-----------------キリトリ-----------------
ソイツとは、もう何回喧嘩したか分からない。顔を突き合わせれば煽られ、まんまと挑発に乗りいつも通り喧嘩が始まる。それは、先輩後輩という間柄に、恋人と名がつく関係が加わってからも変わらない。
「……」
二人きりの寝室に、沈黙が流れている。背中越しに感じる熱はたまに身じろぎし、また鎮まった。お互いの心音と呼吸音はきっと、耳のいいコイツには聞こえているのだろう。
些細な喧嘩をした。ありふれたほんの一つの会話が、少しだけ尾を引いている。
「……」
また、背後の気配が動く。対して俺は、何も言わないし、動きもしない。
どれだけ喧嘩をしていても、帰るベッドは一つだけ。一緒に暮らす時に、それは決めた。
「……木崎さん」
後ろから小さな声が俺を呼ぶ。距離を感じていたはずの熱は、いつの間にか背中にピトリとくっついていて、鼓動がとくとくと伝わってくる。
「んだよ」
俺は振り向かないまま返事をした。後ろの気配が少しだけビクついたのが分かる。自分でも怖いくらいに不機嫌そうな声が出た。当然だ、まだ喧嘩は終わってないのだから。
喧嘩することも、そのまま夜を迎えれば気まずくなることも、もう分かり切っている。それでも、二人が同じベッドに帰るようにしているのは。
「……ごめんなさい」
ポツリ、と、零れるように漏れた言葉を皮切りに、俺は一つため息をついて振り返った。泣きそうな表情を浮かべた、高谷がこちらを見上げている。この顔に、自分は弱い。
「もうしねえ」
高谷はコクリと頷いた。
「反省してる」
高谷はもう一度コクリと頷く。ならよし、と告げて、俺は背中に張り付いていたその熱を、両手で思い切り抱きしめた。腕の中で、ホッとしたような息が漏れる。張り詰めていた空気が、ふわりと解けて優しくなる。これが、いつもの喧嘩の終着点。
どれだけ喧嘩をしても、どれだけ気まずくても、仲直りをするために同じベッドに入る。
どんなに怒っていてもやっぱり、腕の中に相手がいないと、寂しいから。
目を開けて相手がいないと、不安になるから。
だから、ベッドはひとつしかない。