三題噺「ラーメン屋」「麦茶」「穿つ」
「『穿った見方』の意味、知ってるか?」
 俺は、麦茶を喉に流し込んだ。
「ひねくれた見方とか、そんな感じの言葉だろう。ちょうどお前にぴったりだ」
「何だそれ。違うぞ。本当の意味はな、物事をしっかり捉えた見方をするって意味だ。ネットにそう書いてあった」
 そう言って、フウトは麺をすする。
「ふうん」
「つまり俺は、物事を深く考えられる人間だというわけだな」
「いや、それは絶対違う」
 俺はチャーシューを齧る。一口、また一口。あっという間にチャーシューが消える。
「何でだよ」
「ラーメン食ってる時にそんな話をする奴が、物事を深く考えられる人間なわけないだろ」
「いやあ、この景色を見てたら、ふとこの雑学を思い出してさ」
 俺は器から顔を上げた。
 ガラス張りの窓の向こうには、巨大な穴がある。
 数ヶ月前、宇宙人が地面に穿った、巨大な穴だ。何の前触れもなく、突然このど田舎に落ちてきた。そして、この穴から巨大な何か、今では『触手』『ミスト』『冒涜的な何か』と呼ばれている腕が、うねうねと這い出してきた。
 触手は、たまたま近くに近くのコンビニに入った。コンビニには店員がまだいた。気の毒な店員が恐怖のあまり凍りつくのも気にせず、店内を物色し、カップ麺やポテチ、酒のおつまみ等等、店のほとんどの食べ物飲み物日用品類を手に取って穴へ引き上げていった。なお、野菜や生肉、店員は無事だった。
 そしてそれ以降、触手はラーメンばかり求めるようになった。青空が広がる中、触手は次々と穴から這い出て、民家に入ってカップ麺を盗む。スーパーに行けば、そこで籠城している人間には構わずカップ麺だけ取っていく。
 国は気づいた。こいつは麺類が好きだ、と。そこで実験した。熱々のラーメンとカップ麺、両方を触手が通る道に置いた。どちらを気にいるのだろう?
 結果は、どちらも気に入った。ラーメンなら何でもいいらしい。とんこつラーメンも塩ラーメンも味噌ラーメンもネギラーメンも醤油ラーメンもカップ麺も、全部食べる。そして人間には危害を加えない。
 かくして、穴の周りに、史上最強規模のラーメン店街が生まれた。ありとあらゆる美味いラーメンが食べられる町だ。人々は美味いラーメンと穴のために押し寄せ、触手は穴の縁にお供えされたラーメンを食べる。
「……あ、きたぞ」
 フウトが言った。店のドアが開き、触手が入ってくる。触手はお供物だけでは足りず、店に来ることがある。昔と違い、もうドアをぶち破って入ってくることは無い。礼儀正しく入ってきて、触手の先を椅子の上に乗せるのだ。
 俺はそばにあるメニューを触手に渡す。
「はい、どうぞ」
 触手は真剣に読んでいる……ような仕草をする。文字が読めているかは分からない。
 店員が麦茶を運んでくる。触手は器用にお茶を飲んだ。
「本日のおすすめは、チャーシュー増し増し豚骨ラーメンになります」
 触手は何も言わない。店員は特に気にせず、店の奥へ帰っていく。
 しばらくして、店員がお盆を持ってやってきた。触手の前のテーブルにチャーシュー増し増し豚骨ラーメンを置く。
 触手は割り箸を割る。パキッ。割り箸は粉々に砕けた。
 俺は箸置きから新しい割り箸を取り、触手に渡した。触手は慎重に慎重に箸に力をかけ、今度こそ綺麗に割った。
 触手はラーメンに箸を入れ、チャーシューを掴む。そして口……ぽいところに運んでいく。続いて、勢いよく麺を啜る。ズズズッと。見た目は触手だが、動作は日本人そのものだ。
「何で地球に来たんだろうな?」
 突然、フウトが言った。
「分かるわけないだろ。色々な説が出てるが、どれも正解とはいえない」
「まあそうだけどさ。こんな星に来て、ただラーメン食べてるだけって。あり得なくない? 実はあの穴の中で地球を破滅させる恐ろしい何かをやってるとか」
「穿った見方だな。明後日の方向に穿ってるが」
 俺達がダベってる間も、触手はせっせとラーメンを啜り、肉厚なチャーシューを頬張り(触手にこの表現が合っているのか甚だ疑問だが)、器に口をつけて汁を飲む。
 チャーシュー増し増し豚骨ラーメンの器は空っぽになった。
 触手はするりと椅子から離れた。そして、俺に近づいてくる。
「お、おお、何かようですか?」
 間近で見ると流石にビビる。上体をそらせ、できるだけ離れようとする。
 触手はぶるりと震えると、口から何かを吐き出し、俺の膝の上に落とした。黒い小石だ。俺はそれを手に取る。
「あ、ありがとう」
 触手はすうっと店の出口へひいていく。レジカウンターの釣り銭置きに、また小石を置く。そして店から出ていった。
「ラッキーじゃん。俺にもちょっと見せて」
「ああ」
 俺は小石を渡した。フウトはおお、と目を輝かせる。
 この小石を渡す行為は、店のカウンターで金を払う人間を真似ていると考えられている。かつては店のカウンターに置かれるだけだったが、今では穴の縁にラーメンを持っていく自衛隊や、こうして触手に対して何か良いことをした人間にも渡されるようになった。
「この石、研究施設に持っていくと高く売れるらしいぜ。どうする?」
「記念に取っておく」
 俺は小石をポケットにしまった。そして、麺をすする。このラーメン街のガイドブックで三つ星を獲得するだけあって、とにかく美味い。
「これ食べ終わったら、次はどうする? 俺、一番街のラーメン屋に行きたいんだが」
「もうお腹いっぱいなんだけど。ここで三店目だよ? そんなに行きたければ触手と行けば?」
「ビール奢るから」
「チャーハンも」
「分かった。ビールとチャーハンな」
 会計を済ませ、店の外へ出る。道は観光客とラーメン屋と自衛隊の人でごった返している。しかし、どれだけ混んでいても、触手が通っている場所は空いている。踏んづけてはならないからだ。まあ、一度や二度踏んづけても触手は怒ったりしないが、危害を加えないに越したことはない。
『触手注意報、触手注意報、触手は一番店街に向かっております──』
 放送を聞きながら、俺達は夕暮れ時のラーメン店街を、触手と共に歩く。
「あ、次の店、チャーハン無いわ」
「はあ? そんなの無しだぞ。というかチャーハンが無いラーメン屋って何だそりゃ」
「ちょっと我慢してくれ。餃子じゃダメか?」
「嫌だ。別の店にしてくれ」
「んー……じゃあこっちにするか」
 俺達は角を曲がり、二番街へ入った。触手とはお別れだ。
「アイツ、餃子やチャーハンは何故か食べないんだよな。何でだろうな」
「知らん知らん」
 店が見えてきた。俺達は新たなラーメンを求めて、店に入った。
(完)
 即興なのでこれと言ったオチはありません。すみません。
 見てくださり、ありがとうございました。配信停止後、手直ししたものをまた公開します。
 ではまた。私はカップ麺を食べにいってきます。
カット
Latest / 117:40
カットモードOFF
65:53
最中亜梨香
ラーメン食べたくなってきた
チャットコメント
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
三題噺「ラーメン屋」「麦茶」「穿つ」
初公開日: 2022年02月25日
最終更新日: 2022年02月25日
ブックマーク
スキ!
コメント
「ラーメン屋」「麦茶」「穿つ」の単語を使って短編小説を書きます。即興です。