ダンスする
「そう、右手は俺の肩だ」
ヒールのある靴を穿かされたので、思ったよりさまになってガイア隊長の肩まで腕が届いた。ろっ骨のそばを通って彼の左腕は背後にまわる。ワンピースの布地ごしに大きな手のひらがわたしの背中を捉えた。はっはっは、と朗らかにガイア隊長はわらう。
「もっと胸を張って背すじを伸ばせ。ああ、ちょうど、いつもジン代理団長のまえに立っているときみたいにな」
背中の手にすこし力が込められる。わたしは言われたとおり胸を開いて背すじを伸ばした。そうすると、思ったよりも身体は近づいて、なんだか、いつもよりガイア隊長のかおもよく見える。生粋のモンド人にはない、どこか異国を思わせる端正な顔立ち。光をなめして深くかがやく、なめらかな色をした肌膚は密やかに波打って、わたしに囁きかける。
ガイア隊長のゆびが頬にふれた。ふり向かされる。
「足を気にして下を見たくなる気持ちはわかるが、よけい気になってステップがめちゃくちゃになるだけだから、視線はまっすぐ。……、そうだな。俺のことを見つめていてもいいぞ」
軽やかな口調で告げられた言葉に、思わず眼を丸くしたまま彼を見つめれば、彼は苦くわらって「冗談だ」と言った。すこし、戸惑ったような、困惑しているような声がやわくふるえて。わたしは目をみはる。わたしはそう、いつも、彼の冗談をうまく受け取ることができない。
ガイア隊長はわたしの硬直を打ち消すように、軽やかに言った。
「まあ……、その、あまり硬くなるな。おまえは主宰でも賓客の側でもないんだから、そう格式ばったお作法なんかは気にしなくていい。誘われたら快くダンスに応じて、相手にリードされるまま適当にステップが踏めれば、なに、それでいいんだ。まちがえたらにっこり笑っておけ。にこにこ微笑むおんなを嫌いなやつはいないからな」
そう告げられる柔らかな言葉のひとつひとつがあえかな示唆に富んでいる。わたしにはそれが、彼のちょっとした希望であり、また、しずかな命令に聞こえた。息を潜める。緊張する。それらをすべて、ガイア隊長の期待通りにこなせるか自信がなかったから。
はあ、とガイア隊長が軽くため息を付いた。わたしは、はっとして顔をあげる。視線があえば、ガイア隊長はほろ苦く微笑んで「それじゃ、はじめるぞ」とわたしにふれる両腕にそっと力が乗った。「はい」向かい合わせに立たされて、うなづく。まっすぐにガイア隊長を見つめる。ガイア隊長のかんばせは凛々しくて、ちからづよい。
「それじゃあ、ステップからな」
さらりと告げられてハッとした。教えてもらった足の動きを頭のなかで反すうする。想像することができても、実際に踊れなければ意味がない。ガイア隊長の重心が移動する。足を一歩うしろに下げようとして、ふっとガイア隊長の軽い笑い声がこめかみを通り過ぎて行った。
「逆の足だな」
「えっ?!はい」
「それだと俺が[FN:なまえ]の足を踏むことになる」
「アッ、はい!!!」
口のなかで、軽く、含むようにわらっていた声が、のどの奥でくつくつとわらう声に変わり、ガイア隊長は肩をふるわせてわらった。「……、っふ、くっくく……、あっはっはっはっは!!!」背を折っては全力でわらっているガイア隊長に閉口する。こうべが倒れて、彼の額は肩に重みを乗せた。柔らかな髪が剥き出しの肌膚にふれ、彼の――ガイア隊長の遠慮なくわらう振動が伝わる。
「ム」
「~~、ハッハッハッハッ……、悪い。すまん、すまん。……ふ、は……!おまえ、なんて顔してるんだ……?」
それから彼はまた笑い転げて、わたしはただ黙ってくちびるをとがらせるだけだ。
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社交ダンスによせて
初公開日: 2022年02月19日
最終更新日: 2022年02月20日
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コメント
ガイアと社交ダンスするはなしにしたかった。
202204050904
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一枝
202204091504
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