※プロット考えながら書きます/今日上げたいです
君はエイリアン
休日の昼下がりは、まちの匂いがよく香る。
訓練も任務もない、本当に久しぶりの日曜。それなのに俺は特に何にもすることがなくて、リビングでソファに横になり、ダラダラと時間を無為に過ごしている。開いた窓がカーテンを揺らして、穏やかな風が俺の額を撫でた。その感触を味わうように、ゆっくりと瞼を閉じる。
遠くで母親がかける掃除機の音が聞こえる。階段を昇りながら二階に向かっているようで、その音はどんどん遠ざかっていった。
平和な日常、万々歳。何もすることがなくたって、いいじゃないか。いつもよりもゆったりと流れる時間に浮かんでいると、そう思えてくる。俺達が日夜、汗水垂らして(トリオン体は汗をかかないが)身を粉にして任務に当たっているからこそ、こうやって他愛のない時間を楽しむことができる訳だ。
瞼越しにうっすらと見える光を感じていると、急に視界が暗くなる。急なことに微睡はじめた意識がひっぱり挙げられてうっすらと瞼を持ち上げれば、腰に両手を添えた姉ちゃんが優雅にオフを満喫している俺を見下ろしていた。
「何あんた、朝からダラダラして。せっかくの休日なんだから、どっか出かけなさいよね〜」
呆れ顔のまま、「あたしが高校の頃は毎日遊び歩いてたっていうのに」なんて続けて言った。その眉間には異常に薄い眉が寄って、深い皺が刻まれている。化粧をしてないといつもの半分以下しか眉毛が無くて、まるで平安時代の人間みたいだ。姉ちゃんは軽い嫌味を投げた後に自分の顰めっ面に気づいたのか、「ああ、マズいマズい」と呟いて丁寧に眉間の皺を伸ばしていく。
二十三なんてまだまだ若いと思うけど、皺は若い時から気をつけた方が良いらしい。風呂上がりに丹念に化粧水だの美容液だのクリームだのを塗り込んでいる姉ちゃんは、いつも俺にそう言った。「綺麗になる努力をすることは、女の子にとって最強の武装だからね」と。だからって、思いっきり感情を表せないなんてつまらなくないんだろうか。俺はいつも、そんなことを思う。
それに。せっかくの休日だからこそ、ダラダラしてるんじゃないか。面倒臭いことになると分かっているからそんなことは間違っても口にも出さなかったが、俺は心の中で思いっきり舌を出した。ダラダラするのだって、大切な時間だ。普段、家にいない時は学生としての本分を全うしているか、この世界の危機を救っているんだから、これくらいは許されたいものだ。やるせない気持ちを込めてソファの上で身体を伸ばすと、背もたれにかけた両足が軋むのが分かった。ハーパンから剥き出しになっている膝裏は、革張りのソファと接しているせいでうっすらと汗をかいている。
それに、自分だって俺とそう変わらない格好をしてるくせに。さっきと変わらずに前髪をピンで止めて剥き出しになったおでこを指で押さえている姉を、横目で見る。毛玉が着いた部屋着は、高校の時から着ているよく見慣れたものだ。大学に行く時のいかにも「女子大生」といった風とは全く違う姿には、本当に脱帽する。前に流行った干物女って感じだよな。
「俺のことはどうでもいいだろ〜、久しぶりの休日なんだよ。休ませてくれたっていいじゃん」
小さい声で「すっぴんでダラダラしてる自分はどうなんだ自分は」とモゴモゴ言えば、すぐさま鋭い声と視線が飛んでくる。
「公平、あんたなんか言った?」
「……イーエ、ナニモ」
姉ちゃんの視線から逃れるように何とかそう返したが、視線が緩むことはない。鋭かったそれは、段々とじめっとしたものに変わっていた。暗に「そこに寝るからどきなさいよ」と言う意味が込められてることに気づいて慌ててソファから立ち上がれば、さっきまで俺が寝転んでいた二人がけのそこに、同じように横になった。そのまま俺がそこにいないものとして、スマホの画面に夢中になっている。
安息の地を追い出された俺は、取るものも取らずにいそいそと家を飛び出した。焦り過ぎたせいで、ポケットにはスマホしか持っていない。あーあ、今日はゆっくりとゴロゴロするつもりだったのに。完全に予定を狂わされてしまって、パーカーのポケットに両手を突っ込む。つっかけてきたスニーカーの爪先が、道端に転がっている小石にぶつかった。
時間だけはあるし、駅に向かって散歩でもするかな〜とぶらぶらしていると、やけに家族連れやカップルが目につく。どいつもこいつも、幸せそうだなあ。この人たちの幸せの土台を自分がつくっているのだと思うと、酷く誇らしかった。まあ、この人たちはパーカーにハーパン姿のどこにでもいる高校生風情が自分たちの命を守っているなんて、思ってもいないだろうけど。
つらつらとそんなことを思いながら、ほとんど無意識に足だけが動いている。住宅が立ち並んでいた風景は、どんどん栄えていく。パチンコ屋や蕎麦屋の前を過ぎれば、もう駅前のショッピングモールだ。財布は忘れてしまったから、電子マネーを使って喫茶店で時間を潰すしかないか、と建物の中に入ると、俺の目の前を見慣れた顔が通り過ぎて言った。
それは、高校生も同じクラスの幼馴染だった。
生まれた時からずっと一緒で、それこそ、互いの裸まで知っている。(いや、変な意味じゃなく)
学校で見る制服姿や
家が隣だということを、今日ほど呪ったことはない。俺にしては珍しく時間に余裕を持って準備を済ませ、たらふく朝食を腹に納めた。そうして家の門扉を開けた瞬間に、隣の家から同じように出てきたあいつと目があってしまったのだ。
「公平おはよ」
「お、おー」
いつものように笑いかける彼女には
言葉もなく、一緒に学校へ向かう
「なあ、お前さー昨日駅前にいた?」
「あー、いたよ。昨日は友達と買い物してたから」
「何、公平もいたの?」
「あ?まーな。ひとりでぶらぶらしてたわ」
「なんだ、声かけてくれたらよかったのに」
「いや、まあ。邪魔したら悪いしな」
制服はいつもと同じなのに、なぜか違う人のように見えた
せせこましく早足で過ぎていく大人
「何か買ったのか?」
「うん、コスメとか、服とか……。昨日一緒に行ったみのりちゃんってさ、すごいそういうの詳しいんだ」
「ふーん……」
「あ、今お前何かが?ってバカにした?」
「は?!してねえよ……」
「ふーん……本当かなあ」
「喉乾いた」
そう言って、彼女がペットボトルを取り出す。ヨーグルトの味がする清涼飲料を愛飲している
少し濡れた彼女の唇は薄いピンク色に光る。正月の食べたみかんのひと房を思い出すような、触れたら弾けそうな水気。
「何見てんの?」
「いや、なんでも」
おかしいんだ。ついこの間まではよく知った幼馴染だったはずなのに、今はまるで別人を見ている見たいで。
風でスカートが翻る。やけに眩しく見えて、俺は目を細めた。それはまるで、遥か遠くの星の輝きに似ている。