マヤノとイチャイチャしたい
トレセン学園に初雪が降っていた。昨日の天気予報は雪マークだった。天気予報は当たったみたいだ。ちらちらと舞い降りる雪は小さく、いわゆる粉雪が昼から降っていた。
「わあ、トレーナーちゃん!雪だよ雪!」
マヤノがはしゃいで窓の外を見る。近づいたガラスが少しばかり曇った。
「もうそんな時期か。12月入ったもんなぁ」
「冬はいつもこんな風に雪が降るの?」
「ん?そうだなぁ、積もりはしないが粉雪ぐらいは降ってるぞ」
そうなんだ、とマヤノは空を見上げる。灰色の雲から絶え間なく細かな雪が降りてきている。
「積もらないと雪遊びできないね。ちょっと残念かも」
「降ったら降ったで除雪が大変だけどな…」
数年前に、どっさりと大雪になったことがあったが、あの時は大変だった。トレセン学園から出られず授業もトレーニングも中止でみんなで除雪作業をしたからな…。ウマ娘たちが協力してかれたおかげで、周囲の除雪はなんとかなったが、電車や高速は遅延だったり渋滞だったりしていたのを思い出す。あんな大変な作業はもうやりたくない。
しかしマヤノはそうなんだ、と軽く相槌を打つだけで目の前の雪に興味津々なようだった。
「うう、寒い。早く教室に戻らないと」
「えぇー、もうちょっと見てたいのに」
「教室からでも見られるだろ」
「そうだけど。トレーナーちゃんと二人で見たいの」
とマヤノは口を尖らせる。
「もうすぐ授業が始まるぞ。きっと暖房もついてて暖かいぞ」
予鈴が鳴り響く。あと5分で戻らなければ。ぶーぶーと不満そうなマヤノをなだめる。
「じゃあこうしよう。放課後のトレーニングが終わったら少し街路樹を歩こう。イルミネーションの飾りつけやってるんじゃないかな」
「ほんと?絶対だよ!マヤ今日の授業頑張っちゃう」
「それはよかった。ちゃんと授業受けるんだぞ」
アイ・コピー!と元気よく返事をしたマヤノはご機嫌に教室へと戻っていった。
嬉しそうにトレーニングを終えたマヤノは早速運動服から制服に着替えてきたようだ。やはり寒いのか、手袋とマフラーも装着してきている。体操服のままでもよかったのに、と言うと「こういうのは雰囲気が大事なの!トレーナーちゃんも着替えてきて!」と諭された。散歩するだけなのだから雰囲気もへったくれもないと思うのだが、マヤノは違う考えのようだ。機嫌のいいマヤノは見ててこっちも楽しくなるので、マヤノの言う通り着替えてきた。
「デートに向けてテイクオーフ!」
と右手を突き上げて出発する。雪はずっと降っていて、ほんの少しだけ地面が白くなっていた。
街路樹は既にイルミネーションが飾り付けてあるようで、夜になればライトアップされるみたいだ。流石に暗くなるまではいられないので、残念ながら点灯されるところは見られない。マヤノはもうちょっといようよ、と駄々をこねたが、門限を破るわけにはいかない。
「じゃあライトアップは見られないってこと?」
「そうなるな。門限は守らないと」
折角のトレーナーちゃんと二人きりになれたのに、とつぶやくマヤノ。がっくりと肩を落とした姿をみるのは俺も心が痛む。
「当初の雪を二人で見たい、ていう目的は果たしただろ?俺もマヤノと出かけられて楽しかったし、また今度来よう」
ほんと?と問いかけられたので、ほんとほんと、と返事をする。マヤノはうーん、と眉を下げたが納得はしてくれたようだ。踵を返し、もと来た道を戻っていく。二人分の足跡が残っていた。
「へくしっ」
「わ、トレーナーちゃん寒いの?」
「首周りがな。コートと手袋はしてきたけどマフラーはしてきてなくて」
ぴゅう、と風が吹き首元に冷気が通った。出かけた当初は風も吹いてなかったから油断してたが、マフラーを巻いてこればよかった。ぶるりと身震いをする。マヤノはじっと俺をみて、自身に巻いているマフラーを解いた。
「トレーナーちゃん、これ貸してあげる」
赤色のマフラーを差し出される。
「そんな、悪いって。マヤノが寒くなるだろ」
「マヤは大丈夫。こうやって…ほら」
マヤノは髪の毛をゆったりと自分の首に纏わせた。
「マヤの髪は長いからこれで大丈夫。ちょっと恥ずかしいけど」
にこ、と笑うマヤノ。差し出されたマフラーを手にとると、ほんの少し暖かさが残っていた。厚意を受け取り、首にかける。赤色がとても目立っているように思えた。
「似合ってるよ、トレーナーちゃん」
「そうか…?」
「うんうん。マフラー貸した代わりに、イルミネーションは絶対見に行くからね」
そう言ってマヤノは駆け足で学園へと戻っていく。しまった、これが目的だったか。
トレーナーちゃん早く、というマヤノの後を追いかけて行ったのだった。