「蘭ちゃんは、自分が死んだらどうするの……?」
三度目に聞こえた声は消え入りそうなほどに小さく、弱弱しい音だ。
死んだら、どうする?反吐が出そうなほどの愚問だ。
そもそも、死の先にあるのは無だ。なにも感じない。何にも見えないし、触ることもできない。視界が真っ暗になってそれで終わり。その先のことなんて誰も分かりはしない。それなのに、どうするなんて聞くのは馬鹿げてる。
死んだらどうなるって?そんなの決まりきってる。
蘭は一度右手を上げて首の裏をかきながら、左右に頭を振ってゴキリと首を鳴らすと淡々とした口調で答えた。
「……死んだら死んだだろ。下らねぇ。そーいう順番だったってだけ。」
「っ!!!」
ひゅ、と細く息を呑む音と同時に、だらりと下ろした彼女の左手が強張り、持ち上げられるのが視界の端に映る。不意に持ち上げられた片手が自分の顔に向かって伸び、頬に当たろうとする瞬間、蘭は薄く目を細めて、彼女の手首を掴んだ。
一回目は受け止めたけど、二回目を食らう気は端から無かった。
「なァ、オイタも大概にしろよ。」
「゛んッ……う、痛っ。」
中指と親指の先が付着するほど細い手首に力を入れると、ミリミリと骨の軋む振動が手のひらに伝わる。不思議と、瞼が開き切り、こめかみの血管が隆起していくのが分かる気がした。
一度怯んだ彼女は痛みに顔を歪めて、それでも目だけはこちらを睨みつけながら、力いっぱい振り払おうと腕に力を込めていた。
数秒の沈黙の後、蘭は力で押さえつけるのも面倒になって彼女の手首を放した。突然手を放された彼女がよろめき、砂粒を靴底で踏みにじる音が足元から昇ると、蘭はこれ以上の問答は無駄だとでも言いたげに冷めた視線で彼女を見上げる。
自分が、こんなにも必死に訴えているのに当の本人たちがあまりにも冷めているからなのだろう。
タダでさえも林檎のように真っ赤に紅潮した頬は、一層赤く染まって、涙声が大きくなっていく。
「蘭ちゃんが死んじゃったら、竜胆はどうなると思うの?」
「どーもしねぇだろ。だから。」
「っ、じゃあ、私は?……全然理解ってないよっ!」
「知らねぇよ。オマエのことなんか。」
「……蘭ちゃんが死んじゃったら、私も死んじゃうから。」
「はあ?」
悲鳴みたいな甲高い彼女の声を聞き流しながら、おざなりな返事を返していたけれど、この言葉だけは妙に耳に残って、本当に意味が分からなくて、蘭は思わず顔を顰めた。
「死なねぇだろ。」
「死ぬよ。」
それは決まった事実のようにハッキリとした口調で、一つの迷いも無かった。それが一層強く、腹の奥に隠した何かを刺激して、どうにも不快で、苛々して堪らなくさせられる。
それなりの人生があってそれなりに人間に囲まれて、今なら何処にでも好きなところに行けて、昔のように何処にも行けないと泣く必要もなくなった。そんな彼女にとって、自分も竜胆も彼女の生活を構成する要素の一つでしかない。これが無いと生きていけないわけじゃない。必ずしも必要なものじゃない。早い話、むしろ要らないものだろう。そのくせ、こんな言葉を口にする彼女が腹立たしかった。
オレが居なくなったからって簡単に死ぬようなタマかよ。と思ったし、残念ながら他人が死んだ、それ如きの理由で人は簡単に死なない事実くらい身をもって知っている。
蘭は彼女の顔なんてもうひと目でも見たくはなくて、静かでそれでも低く声を上げた。
「うざってぇからさっさと失せな。」
「……言われなくても帰る。……っ、」
つっかえながら、左手の甲で瞼を拭った彼女の手首には赤い指の痕が痛々しく刻まれていた。
「蘭ちゃんなんて、大嫌い。」
別に最初からオマエの気持ちなんてどうでもいいよ。
オマエに好かれようなんて、微塵も思ったことなんかない。
嫌ってくれて結構だ。
先に変わったのは彼女の方で、自分じゃない。
膝を抱えて白くて丸い頬を火照らせて泣いていた小さな女の子は、制服姿の少女になって、そのうち瞼を彩り髪を飾った大人の女になったが、自分は今も袖の足りない服を着て、埃臭くて饐えた匂いの充満したゴミクズだらけの、あの狭くて暗い部屋の中にいる。
半年ぶりに出会った彼女を一目見た時から、もうなにとなく結末はわかっていた。
『蘭ちゃんは私の一番のトモダチ。』
そう言って笑った遠い記憶の中の彼女の言葉が脳裏に蘇って、もうそんなくだらない言葉の通りの『優しいオトモダチ』のフリはできないことに気付いてしまったのだ。どう足掻いても。
「そんな無茶ばっかりするんなら、もう……ここには来ない。」
「そーしな。」
喉の奥が、ぎゅうっと締め上げられるような閉塞感で、薄く口から息を吐きながら、蘭は絞り出すように最後に返事を返した。彼女はつ、と鼻水を啜ると、右手で掴んだままのバッグの持ち手を握り直して踵を返す。それから、背を向ける直前、最後に言葉を繋げるように、小さく吐き捨てる声が、蘭の耳の奥で木霊した。
「蘭ちゃんの葬式なんて行きたくないもん。」
それが、最後に聞いた彼女の声だったように、蘭は記憶している。
『いいの?』
と、あの後、まるで蚊帳の外のように会話に置き去りにされた竜胆が冷めた声で尋ねてきた時、自分は何と答えたのか。むしゃくしゃとした気分を頬に残したまま、蘭はポケットから煙草の箱を取り出し、一本口に咥えると火を点けた。
すう、と息を吸い込んで、肺にため込んだ煙を数秒おいて吐き出すと、やんわりと頭の奥が靄がかかり、視界が灰色に薄く煙り始める。
『何が?』
『いや、……何がって。』
『いいだろ別に。』
拒絶したのはアイツだ。来ないと言ったのもアイツ。嫌いと言ったのも、アイツだ。そこに自分の何らかの意思が入り込む余地など無かったように、蘭は感じていた。
蘭はベンチの座面に煙草を挟んだ左手のひらを置くと、一度もう片方の手で胸元に下げた毛束を手の甲で払うように肩の後ろへ流した。
『ホントに?』
『アイツがそー言うンならそうなんだろぉよ。』
『いや、違うって、』
『だから、』
何がだよ、と言いかけて隣の弟を蘭は横目でギロリと流し見る。
金色の細い毛並みが生ぬるい風に揺らされている。強い日の光を受けて明るく輝く毛先が蘭には少し眩しかった。
自分と同じ瞳の色を持つ片割れは何か言いたげに、下がった目じりをそのまま数度まばたきをして、じっとこちらを見つめてきた。それはどこか懐かしい、随分心配そうな幼い目つきで、棘めいた心の先端が丸まっていくのを感じ、身体の力が抜けていく。こういう顔をされると、少しだけ弱い。
『兄ちゃんはさ、……何でもない。』
自分の気持ちを知ってか知らずか、への字に曲げた唇を開いた竜胆は言いかけた言葉を呑み込むようにすぐさま口を閉じて、それきりなにも話さなくなった。
なにも珍しい事でも、悲劇的な別離でもない。
小学生の頃仲の良かったクラスメイトが進学と共に校区が分かれて、めっきり会わなくなるのと同じことだろう。
彼女には矢張りそれなりの人生があり、それなりの将来がある。
元々自分と違う生き物だったのだし、自分と違う先行きがあることに何ら不満も疑問も持ち合わせてはいない。
それきり、訪れた沈黙は重たく、汗で湿った肌の不快感だけが残った。動くこともできず、どこかに行く気にもなれず、結局二人白けた気分をぶら下げたまま阿保面こいて、ずっと座ってた。
急に地球の回転が静止してしまったような厭に静かで蒸し暑い夏の日、相も変わらずじわじわと泣き叫ぶ蝉の声を背景に、ずっと、そのまま。
たった、それだけの記憶だ。
「その女がどうかしたんですか?」
「あン?」
新宿の某繁華街にある風俗店にて、数日前に目にした写真を眺めながら、蘭が物思いに耽っていたのを中断させたのは黒い上下のナイロンに身を包んだ若い男の声だった。
頭の中で巡るセピア色の映像が煙のように霧散して、蘭は猥雑な色合いの内装で彩られた店内に意識を戻す。
薄いピンクの照明と、壁に並んだ写真の数々、小さな受付のカウンターの奥ではストライプ柄のベストに蝶ネクタイを結んだ髭面の男が佇んでいた。
さて、自分は先ほどまで何をしていたのか。
すっかり先ほどまでの自分の行動を頭の斜め後ろへ追いやっていた蘭は、しばらくの間逡巡した後、思い出したように部下の名前を呼ぼうとしたが、やはり思い出せなかったので口を閉じた。そうだ、此処で待ち合わせをしていたのだった。
此処に車で向かうまでの間、車中で要件の仔細を聞いた気がするが、もうその仔細とやらも忘れてしまった。元々細々とした要件は部下にすべて一任しているし、その手の雑用を懇切丁寧に請け負うほど落ちぶれてもいない。というか幹部のする仕事じゃない。
望んで得られた地位ではないが、此処まで上り詰めると自分の仕事というのは、上等な革張りの椅子に腰かけ足を組み、ひじ掛けに肘を預けながらもっともらしい顔をすること、ただそれだけである。
それらしい服装、それらしい表情で、それらしい仕草で、黙ってそこにいるだけでいい。組織の上層部が担う役割というのは反社会的な組織も、企業も、ひいては議会においても変わらない。訳知り顔で佇んでいるだけいい。
小さなエレベーター、人が二人並んで同時に入るのも難しそうな両開きの扉の隣には三脚金属製のスツールが設置されていた。蘭はそのうちの一番扉から遠い一つに腰掛けて、使いに出した部下が戻ってくるのを待っていたのだ。そうだ、思い出した。
そして、今現在、自分の目の前に立ちながら背中を丸めて、手元を覗き込んでいるのがその男、というわけだ。
まだ二十代前半くらい。顔面に貼り付けられたツラの皮に、横一直線にメスで切れ目を二か所入れたみたいな、そんな一重目蓋のキツネ目が特徴的な痩せた男だ。
悪魔のゲロでも頭から吐きかけられたみたいな色合いの髪の毛はカラーとブリーチを繰り返しているせいかひどく傷んでいる。
耳の先にいくつも付けたピアスや耳たぶの大きな風穴、顔つきは頭が悪そうだが、存外人語が通じるらしい。ちゃんと人語を理解して人語で返してきやがるところだけは評価できる。昔、同じ暴走族に所属していた斑目獅音に少し知能を足したような感じ。
「あ、いや、……その、何回も声かけたんスけど。ずっと、見てたから。」
人の手元を覗き見てんじゃねぇぞ。と蘭が、に、と唇の端を吊り上げて口を開きかけたところ、ゲロは慌てて首を振り、弁解するようにそう告げた。ぺこぺこ、スイマセン、とすぐに謝るソイツの首からは服装に全く合っていない安っぽいゴールドカラーのネックレスが下げられている。だっさい上下を身に纏っている割にはアクセサリーやら小物やらに気を遣うゲロの思考回路に蘭は半ば首を傾げそうになったが、思考がそこに逸れてもどうしようもないので、気にしないことにした。
「テメェ知ってんの。」
「え?」
「コレ。」
蘭は、ハア、とため息交じりにゆっくり瞬きをして、それから写真を人差し指と親指で抓むと背筋を伸ばして姿勢を正したゲロの目の前に軽く突き出した。何度眺めてみても、間違いないと確信するほどには似ている。
少し尖った目つきとか、普通にしてても微かに下がって見える口角とか。耳の形、フェイスライン、記憶の中ではあんなにぼやけて判然としないのに、まじまじと再び目にすると、彼女で違いないと分かってしまう。
「……知り合いかなんかですか?」
「テメェに教える必要性あっか?」
「、……はあ。……その、三犀企画(さんせいきかく)ってとこ、知ってます?」
「……三犀企画?」
「ええ、と。まあ、イベント会社っすね。六本木駅の、すぐ近くに交差点有るでしょう?そっから向かって右に曲がって真っすぐ進むと、道路挟んだ向かい側に閻魔坂ってあるじゃないすか。で、その坂の並びに、深川ビルってのがあるんですけど、そこの三階に入ってて、多分、新しく入ったヤツが元々オーナーしてると思うんですけど。」
六本木、自分のお膝元じゃないか。と蘭は意外に思いながら男の話に耳を傾けた。
そんな企画会社あっただろうか、聞いてないのか、覚えていないのか。そもそも、自分は写真の女について知りたいのであって、新顔がどうちゃらとかそんなことは特段興味が無い。だから蘭は緩慢な仕草で、けれど急かすように、声を発した。
「で?」
「自分、知り合いがそこで働いてんスよ。」
「はは、キョーミ無ぇなァ。」
「いや、それでこの前、飲み行くって会社の前まで迎え行った時に見ましたよこの女。」
「……あ?」
ヘラヘラと笑みを湛えた口角が、ふ、と下がっていくのを蘭は自覚した。
企画会社。と言うと聞こえが良いが、
『新しく入ったヤツがオーナーをしている。』
『知り合いがそこで働いている。』
断片的に頭に入った情報だけでもまともな会社でないのは明らかだった。
それは蘭自身、いくつか有限会社という名目で架空の企画会社を受け持っているから気付いたことだが、この業界に身を置くなら誰でも予想の付くことだ。
この手の企業はイベントの設営や企画なんかを任されるという特性上業務の内容が多岐に渡ることから、外界からは不透明な活動内容でも違和感を持たれにくいという利点がある。特に、日本の企業が広告にかける費用は非常に莫大なものであることから、大きな金が動いてもまず怪しまれにくい。
だから洗濯に使われる。
例えば、発注元からの仲介業者を通した架空の依頼に対して、企画会社が設営を行い領収書を切るとする。元々不正な方法で儲けた金を経費として計上、企画会社は受け取った金の一部を報酬として受け取り、残りは顧問料として仲介業者に還付する。
表から見ると、三つの企業がイベント運営のために行う取引のように見えるが、実際のところこの三社は裏ですべて繋がっている。マネーロンダリングによく利用される手法で、犯罪行為で得た金の出所をわからなくするために、内輪で金を転がして、汚い金を表社会で使える綺麗な金にするためにしているということ。
自分の会社に時折顔を出してるから分かるが、そういう会社というのは実態が無いから、無職のプー太郎やらヤクザからも弾かれたようなはぐれ者ばかりが、うじゃうじゃオフィスに溜まってのんべんだらりと過ごしていることが多い。金を洗うために置いてる会社であるから社員を置くのも隠ぺい工作のためだけでしかない。
そんな物騒で陰鬱な企業がテナントに入っているビルに、まともに大学卒業したであろうあの幼馴染の姿があること自体おかしいことだ。
眩暈を催す、と言うほどでもない。別に、十年以上前の出来事を今更蒸し返して、冷や水浴びせられたような気分になるほど彼女のことを思っていたわけじゃない。それが出来ていたなら今頃悠長にこんな場所でご歓談なんてしていないはずだ。
けれど、彼女のことが気になったのは事実だった。
あの泣き虫が、それでも、なんとかメソメソ泣きながらでも、それなりの未来でそれなりに過ごしているのだろうと、蘭はずっと思ってた。
自分が居なくても笑わせられるのは自分だけではないし。
泣いたり、悲しんだりしているときに、頭を撫でてやれるのも自分だけではない。
けれど、灰色の色気もそっけもないような悪人面の男の後ろの映る横顔は、目の下が青黒く、薄紅色だった頬は真っ白で、そう、ちっとも、これっぽっちも幸せそうには見えなくて。
口にできる言葉が特になくて、蘭は薄皮一枚張っただけで、その内側はなにも無い心の虚ろをむき出しにされたような気分になって、上げた腕を下ろすともう一度写真を見つめた。
そんな自分を男がどう思ったのかは知らない。自分がどんな顔をしてるのか分からない。しかし、彼は『灰谷さん、キョーミ無いかもしれないんすけど。』と言葉を繋げた。
「俺も良く知らないんすけど。俺たち昔っからこんなんだから、ダチもあんま、普通じゃないってか、ぶっちゃけ碌でもないことしてるんで。あそこの会社も、大体そんな奴らの集まりなんですけど、」
という前置きから、ご親切にも語ってくれた男の話を要約するとこうだ。
丁度三週間前、夜の九時半ごろゲロはその三犀企画とやらに務める友人と落ち合ううために深川ビルの三階に足を運んだ。
この会社、どうにも不用心というか、常に社長と専務が不在なことが多く、部外者が勝手に社内に入ったところでぼんくら社員共の中に咎めるヤツが居ないらしい。
そんな事情から、ゲロは何度電話をしても出てこない友人に痺れを切らし、恐る恐る事務所のドアを開けたというわけだ。
「別に、なんか話したワケじゃないんスよ。たまたま入ってすぐのデスクに座ってたのが、その女で。……いや、正直薄気味悪かったっていうか、普通急に人入ってきたら、なんかこう、あるじゃないですか。”コンニチハ”とか、”あなた誰ですか”とか。そういうの、一切なくて。……ほんと、俺目の前に居たんスよ。大体50センチくらい。それなのに、じーっと、前だけ向いたまま全然動かなくて。目に入ったら、少しは目動かしたりするでしょう。……なんか幽霊みたいで。」
ゲロはバツの悪いような何とも言えない顔で眉を寄せると、おもむろに手のひらを上げて頭の裏をぼりぼりと掻いた。
「後でその女のこと聞いたらあそこの会社み~んなあんな感じらしいっすね。どうも、会社で扱ってるクスリ、社員にも流してるみたいで、昼間ボケっとしてるヤツばっかりなんですよ。ま、いきなり暴れ出したりしないだけマシかもしんないですけど。仕事はできてるけど話しかけてもあんまり反応ないし、男ばかりのとこだから、まあその、色々あるみたいで。……って、それだけですケド。」
だらだらと時間を要した割には随分と実の無い話だった。ただ単純に見かけた女がヤク中らしかった、というだけの話題のために数分を要してしまったことに対して、男も若干の気まずさがあるのが、『まとまりなくてスイマセン。』と頭を下げた。
男の口ぶりからしてその企画会社のオーナーというのが写真の男であることは間違いないのだろう。先日読んだ書類の紙面には、半年ほど前から、ウチの組織と取引関係にあることが明記されていたような気がする。
違法薬物をこちらから買い取り、自分たちは運び屋と売り子を担うことで、パイプ役を果たし利益を上げるという名目で、梵天の傘下に加わった小さな犯罪組織がいくつかあった。このオーナーが頭を務める組織もそのうちの一つだ。
それを思い出した時、蘭の視界がぐにゃり、と歪んで、ほんのわずかに手のひらにかいた汗がぬるりと紙に滑る感覚をもたらした。
「オマエ、ヤッたことある?」
「…?」
「クスリ。」
「……無いっすよ。俺頭悪いんで、これ以上ぼんくらになったら困りますもん。それに、逃げたいモンなんてなんも無いし。」
はは、と男は糸目をいつも以上に細めて、大口開けて笑った。
それから、付け足すように『逃げられなかったら死ぬだけですから。』とも。
数日前からずっと感じる不規則で厭な鼓動の音とモヤモヤと頭の中に立ち込める黒い渦が膨張して脳を埋め尽くすのに、頭だけは急速に回転を繰り返しているままだ。
逃げたいものが無いから手を出さないというのなら、彼女は逃げたかったのであろうか。
自分が空から落とした飴玉が。
雑踏の中、引き金を引いた銃口から飛び出した銃弾が。
不運な名前も顔も知らない何某かが。
奇しくも、幼馴染の彼女であった。
『そういう順番だったってだけ。』
それなら、例えば、自分が間接的に殺した顔の見えない相手が彼女であってもこれが通用するのだろうか。
蘭にはまだわからなかった。昔から、他人の気持ちが手に取るように分かっても、自分のことなるとよくわからない。
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居留守
昨日書いたヤツ肉付けしていってます。見に来てくれてありがとうございます。
98:41
居留守
三時半で一回閉めるね
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居留守
そろそろ一度終わりますね。閲覧ありがとうございました。
142:24
居留守
夜暇だったらまたやります。
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ホロネス 続き
初公開日: 2021年10月24日
最終更新日: 2021年10月24日
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灰谷蘭の夢小説の続きを書いていくよ
血と肉 ②
昨日上げた三途くんの夢の続きを書いていきます。
居留守
202111212311
アンドロイドの灰谷蘭の夢小説の続きを書いていくよッ。
居留守
202111062111
灰谷蘭のトロイメライの続きを書いていきます。飽きたら寝る。
居留守
よりみちを書こうと思います
よりみちです。良い兄さんの日!戦国時代のよりちとうたちゃん。兄上は会話文のみ。ざっくりですみません。
がーこ