そんな私の返事を受けて、ドレミーは満足気にうなずいてみせた。
「ありがとうございます。ご協力の間は、私が快眠を保証しますよ」
 うーん……やっぱり胡散臭いけど、信用してもいいのかしら?
 そう思ったものの言葉には出さず、私は話を続けた。
「それで? 私は何をすればいいのかしら」
「案内させていただきます。どうぞこちらへ……」
 ドレミーはそう言うと、さらに奥へと歩いていった。私もそれに従う。
 ふと私は足を止めて、改めてこの不思議な夢の世界を見渡してみた。
 私たち以外には、人間も妖怪も、誰の気配もない、不思議な世界。静かな、夢の中。自分の夢の中の世界を、こうしてじっくり見渡すことになるなんて、思いもしなかった。
「……」
 そして、そんな静寂の中にいると、どうしてもわかさぎ姫や影狼のことを思い出してしまう。ドレミーの言う通り、この夢の世界の中にみんなの大切な記憶の欠片が潜んでいるというのなら。私がそれを集めることで、みんなの大切な思いを取り戻せるなら。
「早く思い出せると、いいなぁ……」
 そんな私のつぶやきが、夢の世界に溶けてゆく。
 そう、私の大切な友達のためだ。
 それに……私自身の夢の中とは言え、私のような大きな力を持つわけでもない妖怪が、異変解決だなんて面白いじゃないか。
 博麗の巫女の真似事ができるとは思えないけど、私が頑張ることで大切な友達の失われた記憶を取り戻せるというのなら、行動しない理由はない。
 そう思うと、なんだか力が湧いてくるような気がしてきた。
「……よし!」
 気合を入れるようにそう言うと、私はさっさと先に行ってしまったドレミーの後を足早に追いかけた。
 しばらく先に進んでいくと、唐突に視界がひらけた。
 私が出たのは、これまででいちばん広い空間だった。自分の夢の中なのに、まったく見覚えのない空間だ。洞窟の中のようにむき出しの岩で囲まれているけれど、閉塞感はまったくない。それどころか、無限に広がっていそうな気さえするような場所だった。
 周りを見渡すと、何箇所か洞窟の入口のようなものが見える。上を見上げると、そっちの方にも空間が広がっているようだ。
 そしてドレミーは、その中央で私を待っていた。
「ここは……?」
「先ほどお話した、さまざまな記憶の【空間】につながる大広間……わかりやすく、【エントランス】とでも呼びましょうか。それぞれの【空間】へある程度行き来できるように私が構築したものです。なかなかいい出来でしょう?」
「さすが夢の支配者と言ったところかしら。割と何でもアリなのねぇ……」
 得意げにそう言うドレミーに、半ば呆れてしまう。こんな芸当が可能なら、この異変も彼女が独力でどうにかできそうなものだけど……。
 でも、考えてみればこの事態は、そんな力を持っている彼女でも外部の助けを求めるような状態になっているということだ。うう……やっぱり安請け合いしちゃったかなぁ……。
「ただ、先ほどもご説明したように……このあたりのエリアは私では対応できていない部分でもあります。赤蛮奇さんには、ここでの欠片探しをお願いしたいのです」
「なるほどね……。ま、やれるだけやってみるわ。こう見えて失せ物探しは得意でね」
「頼りになります。あちらにゲートをつないでおきましたので、よろしくお願いします」
 ドレミーが指し示す先にあったのは、どうやら彼女の言う【空間】とやらの入り口のようだ。まだ不安はあるが、まあやってみるしかない。
「わかったわ。それじゃ行ってくる」
「本当に助かります。お気をつけて……」
 多少の強がり混じりの私の返事に、ドレミーはひらひらと手を振ってみせる。
 私はドレミーに背を向けて、【空間】の入り口へと向かっていった――。
 【空間】への入り口は、私の背丈の倍ほどの高さの穴だった。
 夢の世界だからか、いくら目を凝らしてもその奥は真っ暗で何も見えない。
「うぅ……中に入ってみるしかないわけね……えいっ!」
 未だにためらいがあるものの、もうやると決めてしまったのだからここで迷っていてもしかたない。私は数歩後ずさり、助走をつけてその入口に飛び込んだ。
 恐る恐る目を開けると、そこにあったのは【エントランス】を小さくしたような場所だった。
 そこにはさらに、今しがた通ってきた入り口を小さくしたような穴が、ぽつんと空いている。その入口も、さっき入ってきた入り口と同じように、いくら覗き込んでもその中は見えない。
 ドレミーは、この夢の世界に【記憶の欠片】が無数に散らばっていると言っていた。ということは、この夢の世界は【エントランス】から私が今いるようなさまざまな【空間】に枝分かれしているという構造になっているんだろう。そして、【エントランス】の先の【空間】にさらに入口があるということは、私がこの世界で集めるべき【記憶の欠片】はかなりの数になることは間違いなさそうだ。
 ……あいつめ、さては【記憶の欠片】の数についてはわざと言わなかったな?
 まあ今さら後悔しても仕方ない。それに……【記憶の欠片】がどれだけ大量にあったとしても、それは大切な友達の記憶を取り戻すために何もしない理由にはならない。
 入り口へ足を踏み入れると、その先に広がっていたのは……草原だった。
 草原。上を見上げれば青空が広がっていて、太陽すら輝いている。頬をくすぐるさわやかな風は、足元の草を静かに揺らしていた。
「え……え!? どういうこと?」
 さっきまでは洞窟の中のような空間だったのに、入り口一つくぐっただけで文字通りまったく別の世界に出てしまった。まあ……夢の世界なら何でもアリということなんだろうか。
 深く考えるのを止めて、私は先へ進むことにした。
 誰のどんな記憶から作られたのかはわからないけれど、草原の世界は穏やかだ。できることなら、このまま昼寝でもしていたいくらい。
 でも、そんなのんきにもしてられない。夢の世界の時間の流れがどうなっているのかなんてわからないけれど、もたもたしていると現実世界での記憶の欠落がより広がってしまうかもしれない。私は足早に進んでいった。
 最初の【記憶の欠片】は、程なくして見つかった。入念に隠されているわけでもなく、祭壇に飾られているわけでもない。そこにあるのが当たり前のように、空中にぷかぷか浮いていた。
「これが……【記憶の欠片】?」
 先にドレミーに見せてもらったものと同じ、赤い色をした結晶。そっと手を伸ばして、取る。
「わぁっ!?」
 【記憶の欠片】を手にとった途端、視界が光で埋め尽くされた。そして、視界がもとに戻ったときには、私はさっきの入り口のところまで戻っていた。
 渡りを見回しても、なんの変化も……いや、大きな変化があった。
 入り口が、増えている。
 私がさっき入ってきた入り口の隣に、「お次はこちら」と言わんばかりに新しい入口が現れていた。
「……なるほど、そういうことね」
 つまり、【記憶の欠片】を手に入れるたびに入れる【空間】が順番に増えていくというわけだ。
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紅楼夢原稿を書いていきます。
初公開日: 2021年10月22日
最終更新日: 2021年10月22日
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11月28日開催予定の東方紅楼夢の原稿を書いていきます。