――噓でしょ?
 声にこそ出なかったが、”それ”を見た途端、瑞希の口はそう動いていた。
 何度となく見た……いや、「見た」という意識したことがないくらい、”それ”は瑞希の人生において決して欠くことの出来ない存在であった。
 だが――瑞希の眼前にある”それ”は、彼女にとって、受け入れ難い現実の象徴のようなものでもあった。
 一言で言えば、”それ”は人の形をした機械。胴体、両腕、両脚……人間の体を構成するそれらの部位は、全て銀色の鎧のようなものに覆われていた。胸部には乳房のような半球が隆起し、その先端には乳首を思わせるガラス玉のようなものが煌めいている。腰回りは黒いゴムのような蛇腹状のパーツに覆われ、腹部には楕円形の鉄板が取りつけられている。それはまるで扉のようで、開いたら”それ”の中身を覗き見ることが出来るのではないか――そんな想像を催させる形状だった。
 股間部は、さながら鉄製の下着を履いているようだった。もっとも、人間の女性とは異なり、膣口などは見当たらない。が、本来なら膣口があるべきところには、スリットのような溝が入っていた。腹部同様、ここも開閉が可能で、もし開いたなら、その中から人間の女性と同じモノがある……のかもしれない。
 そして、その股間と脚を境目にある隙間からは、黒い鉄球のようなものが覗き見えた。もっとも、その鉄球のような物体は、サイズこそ違えど、”それ”の胴体と両脚両腕、上腿と下腿、上腕と前腕の境目にも埋め込まれているようだった。その鉄球は、”それ”にとっての関節であるようだった。
(なんで……)
瑞希は、”それ”の首から上へと目を転じる。その視線の先には、全身が機械で構成された”それ”の中で唯一、人間のような外観を備えていた頭部があった。背中まで伸びた黒髪、瑞希を真っ直ぐに見つめる瞳、真一文字に結ばれた口――紛れもなく、それは人間の顔だった。
 が、外観こそ人間だが、その中身は体同様に機械と化している特徴もあった。顔の皮膚には血色がなく、さながらゴムのような膜で覆われているようで、瑞希を見つめる瞳は、ガラス玉のような人工的な輝きを放っている。そして耳の辺りは半球状のカバーで覆われており、そのカバーからはアンテナのようなものが伸びていた。
「なんで、こんなロボットが……」
瑞希の口から、そんな呟きが漏れる。だが”それ”は――瑞希の眼前に立つ女性型ロボットは、彼女の言葉にまるで反応しない。口を真一文字に結んだまま、困惑に満ちた瑞希を見つめ続けている。
 そして瑞希は――叫んだ。
「なんで、こんなロボットが、お姉ちゃんと同じ顔をしているのよ!?」
 瑞希には2歳年上の姉がいた。だが、その姉――柚希は、1カ月前のある日を境に、忽然と姿を消してしまった。
 無論、警察へは捜索願を届け出たが、柚希の行方を知るための有力な情報さえ入って来なかった。
(だったら私が……!)
そして瑞希は、家族にも内緒で、独りで柚希の行方を追う決意をした。生まれてからずっと一緒だったお姉ちゃんのことを、一番知っているのは私――そんな自負を胸に。
 とはいえ、行方不明になった人物を追うノウハウなど備えていない瑞希が、柚希を見つけ出すことなど出来るわけもない。思いつくままに柚希の行きそうな場所を訪れては、何の手掛かりも得られずに帰る――そんな日々を重ねるばかりだった。
「お姉ちゃん、一体どこに行っちゃったんだろう……」
そうして、足取り重く帰路に就いていたある日のこと、見知らぬ男が瑞希に近づいてきた。
「向坂瑞希さん、ですね?」
突然、自分の名前を言われた瑞希は驚く。思わず、正直に「はい、そうです」という言葉を漏らしてしまいそうになった。が、その寸前で思いとどまり、瑞希は何も言わず男を見つめた。すぐにでも逃げ出せる体勢を整えながら。
 が、男が次に言い放った言葉が、瑞希の中にあった「逃げる」という選択肢を掠め取った。
「あなたは、向坂柚希さんの妹ですね?」
男の口から放たれた「柚希」という名に、瑞希は反応してしまう。
「お姉ちゃ……姉のことを知っているんですか?」
「ええ。よく存じ上げてます。柚希さんが今、どこにいるのかも」
「本当ですか!? それなら――」
教えて下さい、と瑞希は続けようとした。が、そこで男の顔を見て、ふと我に返った。この人はもしかして、お姉ちゃんの名前を出して、私のことを騙そうとしているんじゃ――瑞希の中で、再び警戒心が湧き起こる。
 だが、瑞希のそんな心中を知ってか知らずか、男は続けた。
「もしよろしければ、柚希さんのところにご案内しますよ?」
この男について行ってしまおうか――瑞希の頭の中に、そんな考えがよぎらなかったわけではない。だがそんな願望よりも、警戒心の方が勝った。このまま、この男について行くのは危険だ――そう判断した彼女は、一歩、二歩と後ずさり、三歩目で身を翻して男から逃げ出した。が、
「あっ!?」
その途端、瑞希は何かにぶつかった。何か、壁のような固いものにぶつかった感触。思わず尻もちをついた瑞希は、自分が何にぶつかったのかを確かめようと顔を上げた。その目に飛び込んできたのは、銀色に煌めく――
「痛っ!?」
眼前に立つ何かを確かめようとした瑞希は、不意に、うなじに痛みを感じた。注射針を刺されたような、鋭くて小さな痛み。瑞希はうなじに手を充て、後方へと振り返った。その目に、あの男が注射器を軽く掲げる姿が映った。
「な、何よ、それ――」
怒気を孕んだ声で、瑞希は男に問いかけ――ようとしたが、その言葉は不意に途絶えた。彼女は、口にしようとした言葉を言い終える前に、そのまま地面へと倒れ込んだ。
「さて、と」
寝息を立て始めた瑞希を見下ろしていた男は、彼女がぶつかった相手――女性型ロボットへと目を転じる。そのロボットもまた、瑞希のことを見下ろしていた。何の感情も宿っていない、カメラレンズの瞳で。
「それじゃあ、この娘を運んでもらおうか――YUZUKI」
男の言葉に、瑞希の姉と同じ名で呼ばれた女性型ロボットが頷いた。
『了解しました、マスター。私は、向坂瑞希を運びます』
「どうかな? 久しぶりに、お姉さんと再会できた気分は」
道端で声をかけてきたあの男が、瑞希に向かってのんびりとした口調で問いかけてきた。
「な……何を言っているの?」
男の言葉に、瑞希の顔色が変わる。彼女は女性型ロボットを指さし、
「こんなロボットが、お姉ちゃんのわけがないじゃない! ねえ、お姉ちゃんをどうしたの? お姉ちゃんはどこにいるの? 教えなさいよ!」
怒りに駆られた瑞希が男へと歩み寄る。が、瑞希が男に手が届くところまで近づいた途端、その間に、女性型ロボットが割って入ってきた。
「ちょ、ちょっと! どきなさいよ!」
瑞希は女性型ロボットを押しのけようとする。が、ロボットはその場から頑として動かない。それでも瑞希は、ロボットの両肩を掴んで、その場から動かそうとする。
「どきなさいってば! ロボットなんだから、人間の言うことを聞きなさいよ!」
「無駄だよ。YUZUKIは、俺以外の命令を聞いたりしない」
男がせせら笑った。瑞希の顔が更に紅潮する。
「なんで、こんなロボットをお姉ちゃんの名前で呼ぶのよ!? こんなの、お姉ちゃんの顔に似せて作ったロボットでしょ? だから、お姉ちゃんを――」
「さっきから言っているんだけどな。このロボット――YUZUKIが、君のお姉さんだって。仕方ない。YUZUKI、ちょっと自己紹介してやってくれ」
『了解しました、マスター。私は、向坂瑞希に自己紹介をします』
そう言うとYUZUKIは、瑞希の体を軽く押した。思いも寄らないYUZUKIの挙動に虚を突かれ、瑞希はよろけるように二歩、三歩と後退した。
 そうして瑞希との間に一定の距離を置いたところで、YUZUKIは瑞希の顔を見据えた。その表情は、しばらく離れ離れになっていた妹を見るものとは凡そ思えない、感情のない人形のようなものだった。
『私は、サーバントロボット・YUZUKIです』
少しの乱れもない淡々とした口調で、YUZUKIは瑞希に向かって言った。
「ゆ、YUZUKIって……」
YUZUKIの口から発せられたその名に、瑞希は改めて衝撃を受けた。それと同時に、彼女は認めたくない事実を突きつけられた。YUZUKIの発した電子音声が、姉の柚希とほぼ同じであることを。
 恐る恐る、という足取りで、瑞希はYUZUKIに近づく。そして、感情なく柚希を見据えるカメラレンズの瞳を見つめながら、彼女は問い質した。
「ねえ。あなた……お姉ちゃんを知っているの? 向坂柚希を知っているの?」
『はい。私は、向坂柚希を知っています』
「それなら――」
瑞希は質問を続けようとした。が、次にYUZUKIが告げた言葉に、瑞希は言葉を失った。
『向坂柚希は、私の素体となった人間です』
「素体となった……人間?」
呆然として、瑞希はYUZUKIの言葉を繰り返す。そしてYUZUKIの両肩を掴むと、
「それって……どういう意味よ!? お姉ちゃんがあなたの素体って……」
昂る感情のままに、瑞希はYUZUKIに疑問をぶつける。だが、そんな彼女とは対照的に、YUZUKIは少しも動揺していない。感情の起伏が感じられない電子音声で、YUZUKIは瑞希に残酷な事実を告げた。
『私は、向坂柚希の肉体を素材として製造されたサーバントロボットです』
「そんな……」
YUZUKIの両肩を掴む瑞希の手から、力が抜けていきそうになる。そんな、そんな……うわ言のように繰り返していた瑞希だったが、不意に、再びその手に力を込めた。
「……嘘だ!」
瑞希は叫んだ。YUZUKIの背後に立つ男が、瑞希が突然発した叫びに驚き、一瞬だけ身を震わせた。けれどもYUZUKIは、男よりもずっと近い距離で瑞希の叫びを聞いたにもかかわらず、その表情は全く変化していなかった。
「お姉ちゃんを……人間をロボットにするなんて、そんなの……あり得ない! ねえ、嘘でしょう? お姉ちゃんが、あなたの素材になったなんて」
『私はロボットです。人間に対し、嘘をつくことはありません』
「嘘だ! 嘘だ!」
「嘘じゃないよ」
瑞希とYUZUKIの間に、男が割って入ってきた。そしてYUZUKIの肩を軽く叩き、
「今のところ、俺以外の人間の命令を聞くことはないとはいえ、YUZUKIは人間に対して決して偽りの返答をしない。もちろん、人間である君の質問に対してもね」
「それじゃあ、お姉ちゃんは……」
瑞希の手が、YUZUKIからゆっくりと離れる。そして彼女は改めて、姉の顔をしたロボットを見つめた。気をつけ、の姿勢から指一本たりとも動かさず、感情の存在を感じられない顔を瑞希へと向け続けるロボットを。
 そんな瑞希の様子を見て、男は呟いた。
「そろそろ、YUZUKIの言ったことを信じる気になったかな?」
だが、瑞希は何も答えない。その表情は、YUZUKIが自分の姉・柚希であるという現実に愕然としているようにも、或いは、そんな現実を頑として受け入れまいと気張っているようにも見えた。
 すると男は、瑞希たちの元から離れると、室内にあった机の上に置かれていたタブレットを手に取った。それは何? 言葉には出さず、瑞希は男に向かって顔で尋ねた。
「リモコンさ」男が事も無げに答えた。「YUZUKIを操作するための、ね」
「操作……?」
その意味を理解出来ず、瑞希は男の言葉を呆然と繰り返した。そんな様子の瑞希に、男は得意気な笑みを浮かべて、
「それじゃあ、ここで駄目押しの証拠を見せてあげようか。YUZUKIが、紛れもなく君のお姉さんを素体として作られたロボットだという証拠をね」
そう言うと、男は手元のタブレットの上で指を滑らせた。その途端、
「えっ!?」
微動だにしなかったYUZUKIの体が、びくん、と小さく跳ね上がった。突然のその挙動に驚いた瑞希は、鋭い視線を男に向けた。
「あなた、一体何を……」
「まあ、見ていれば分かるって」
見ていれば分かるって――瑞希は再びYUZUKIへと視線を転じた。すると、無表情だったYUZUKIの瞳が、いつの間にか大きく見開かれていた。それと同時に、真一文字に結ばれていたYUZUKIの口が、呆けたように開かれた。
「ちょ、ちょっと! どうなってるの!?」
『瑞……希……?』
えっ? YUZUKIの口から漏れた声に、瑞希はハッとした。しかもその声は、先ほどとは違って、柔らかな響きを備えていた。
『瑞希……なの?』
言葉を失い、呆然とする瑞希に向かって、YUZUKIは更に尋ねた。
「お姉……ちゃん? お姉ちゃんなの?」
瑞希が問い返す。が、YUZUKIはその問いに答えない。その代わりに、口から漏れ出たのは、悲しみを帯びた電子音声だった。
『あ……ああ……』
YUZUKIの顔が悲嘆に染まっていく。そしてそれにつられるように、瑞希の双眸が潤み出す。
「お、お姉ちゃん! 私だよ! 瑞希だよ! ねえ、お姉ちゃ――」
『見ないで!』
おずおずと歩みようとする瑞希に向かい、YUZUKIは言い放った。予想だにしなかったその言葉に、瑞希は思わず足を止める。
「お姉ちゃん?」
『こんな……こんな姿を、瑞希にだけは見られなくなかった……』
直立姿勢を保ったまま、YUZUKIは嘆いた。その顔は悲しみに染まり切り、作り物の双眸から今にも涙が零れ落ちてきそうだった。だが――
『……私はもう、人間じゃないの』
YUZUKIの口から、再び嘆きが漏れる。
『どんなに泣きたくても、涙の一滴さえ流せない。私は、そんなロボットに改造されてしまったの』
「そんな……」
瑞希はYUZUKIの告白に愕然とする。そんなことはない――そう言って慰めようとしたが、銀色に輝く機体で直立し、耳からはアンテナを生やし、電子音声を発する彼女を目の前にした今、瑞希は何も言えなくなってしまっていた。
『瑞希』
立ち尽くす瑞希に向かい、YUZUKIが言った。
『お願いがあるの』
「お願い……?」
YUZUKIがゆっくりと瞬きをする。まるで、瑞希の問いに頷くかのように。
『私のことは、もう、忘れてほしいの』
「えっ?」
瑞希は目を丸くする。「今、なんて――」
『私は――ううん、”向坂柚希”は、もうこの世にいない。そう思ってほしいの』
「ちょ、ちょっと!? お姉ちゃん、何を言っているの?」
瑞希がYUZUKIの両肩を掴み、その顔を見据えた。
「向坂柚希はこの世にいない? そんなわけないじゃない! だって、お姉ちゃんは今、ここに――」
『私は、あなたのお姉ちゃん――”向坂柚希”じゃない。今、あなたの目の前に立っている私は、サーバントロボット・YUZUKIなの』
「違う! お姉ちゃんは、お姉ちゃんは……」
『そんなロボットに改造された私は、もう、人間として生活することは出来ない。ううん、人間に戻ることさえ出来ない。マスターに従い、マスターの命令を遂行する……それが、サーバントロボットである私の使命だから』
違う! 違う! 瑞希はYUZUKIの肩を激しく揺さぶろうとする。が、YUZUKIの機体は、まるで地に深く根を張る樹木のように、瑞希が幾ら力を込めても微動だにしなかった。
「お姉ちゃんは”向坂柚希”なんだよ!? たとえ体が人間じゃなくなっても、ロボットになっても、お姉ちゃんはお姉ちゃんなんだから!」
瑞希が叫んだ。口を挟むことなく、彼女の言葉を聞いていたYUZUKIは、不意に小さく微笑んだ。それは寂しそうな、悲しそうな微笑みだった。
『……ありがとう、瑞希』
「お姉ちゃん……?」
『こんな私を……ロボットになった私を、今でも姉と呼んでくれるなんて。それなら――』
そう言うと、YUZUKIは突然、瑞希のことを小突いた。瑞希の体が、YUZUKIから数歩離れる。思いも寄らないYUZUKIの行動に、瑞希は驚く。
「お姉ちゃん?」
『私は”向坂柚希”として、あなたに指示するわ。これは、私があなたの”姉”としてやってあげられる、最後のことになる』
「な、何を言っているの、お姉ちゃん?』
戸惑う瑞希に向かい、YUZUKIは鋭く言った。
『瑞希、今すぐこの場から逃げて』
「えっ?」
瑞希が問い返す。「それって、どういう意味なの?」
『そうしないと、取り返しのつかないことが起きてしまうわ。だから瑞希、今すぐ――』
「嫌だ!」
再び、瑞希がYUZUKIへと近づき、両肩を掴んだ。
「お姉ちゃんを置いて逃げるなんて……そんなの、出来るわけがないよ! お姉ちゃんも一緒に! ねえ!」
『それは……出来ない。だから、瑞希だけでも』
「嫌だ! ねえ、お姉ちゃん! 早く一緒に逃げよう!」
『お願いだから、瑞希、私の言うことを――』
YUZUKIが言葉を続けようとした途端、その体が揺れた。少し前に、YUZUKIが”向坂柚希”へと戻った時と同じように。突然の振動に驚いた瑞希は、YUZUKIからまた身を引いた。
「お、お姉ちゃん!?」
瑞希はYUZUKIを見た。その目に映ったのは、ほんの数秒前まで感情豊かに表情を変えていたとは思えない、人形のような顔になっていたYUZUKIだった。
「やれやれ。危うく、余計なことまで言わせてしまうところだった」
YUZUKIの背後で、男が肩をすくめた。その手に、例のタブレットを携えて。
 それを認めた瑞希が、男を睨みつけた。
「お姉ちゃんに……何をしたの!?」
「簡単な話さ。YUZUKIが”向坂柚希”という人間を素体にして製造されたロボット、っていう話を君に理解してもらうために、YUZUKIの人格を一時的に”向坂柚希”へと切り替えていたんだ」
「人格を……切り替える?」
男はタブレットを小脇に抱え、YUZUKIへと近づく。
「そして今は、人格をYUZUKIへと戻したってわけさ。まあロボットだから、人格なんてものはないんだろうけどね」
男は、直立姿勢を保っているYUZUKIの顎を軽く持ち上げた。けれどもYUZUKIは、男に抵抗するような仕草を一切見せず、その視線を男の手に向けることさえしなかった。
「は、離れなさいよ! お姉ちゃんに触らないで!」
「触らないで?」男は笑った。「君に、そんなことを言う権利はないよ」
「はあ? どういうことよ!?」
「YUZUKIは、俺の所有物だ。そのYUZUKIをどうしようと、俺の勝手だからね。例えば――」
男の手が、YUZUKIの顎から半球状に膨らんだ胸へと滑り降りる。そしてその手で、YUZUKIの乳房を舐めるように撫でまわした。
「――こんなことをするのも、俺の自由ってわけさ」
「や……やめて! やめなさいよ!」
男の手が、YUZUKIの機体を無遠慮に嬲る。だがそんなことをされても、YUZUKIは微動だにせず、表情を変えることも少しもなかった。
「ほら、ご覧よ」
男がYUZUKIの頭を無造作に叩いた。
「俺がこんなことをしても、YUZUKIは全然抵抗しない」
「そんな……」
瑞希はその場に崩れ落ちた。見知らぬ男に体を撫でまわされても、抵抗の素振りさえ見せないYUZUKI。その様は、瑞希に深い衝撃を与えた。
「さて、と。それじゃあそろそろ、本題に移るとしようか」
「本題?」
瑞希の問いに答えず、男はタブレットを構えて、ディスプレイ上に指を滑らせる。すると、YUZUKIの体が小さく揺れ、その顔が床にへたり込んでいた瑞希へと向けられた。
『私は命令を受信しました』
そう呟くと、YUZUKIは規則正しい足取りで瑞希へと近づき、その体を無理矢理立たせた。
「お、お姉ちゃん?」
感情の抜け落ちた顔で、YUZUKIが瑞希を見つめる。そして、
『ターゲット、向坂瑞希を確認』
「ちょ、ちょっと。何を言ってるの? お姉ちゃ――うっ!?」
瑞希が言い終えるよりも前に、YUZUKIの両手が瑞希の首を掴んだ。
「な、何を……お姉ちゃ……く、苦しい……」
YUZUKIが瑞希を締め上げる。その両腕を、瑞希が掴んだ。が、冷たく硬いYUZUKIの機械の腕はびくともしない。
「おい、YUZUKI。くれぐれも殺すなよ。気を失わせる程度にとどめておけ」
『了解しました。私は、向坂瑞希を死なない程度に締め上げ、向坂瑞希失神させます』
「や、やめ、て……お姉ちゃん……お姉……ちゃ……」
瑞希の目から涙が溢れ出ててくる。その雫が、YUZUKIの手へと滴る。だがそれでも、YUZUKIは全く力を緩めない。
 そして、瑞希の涙が床に零れ落ちると同時に、YUZUKIの腕にかけていた彼女の手が、だらりと下がった。
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ななし@a15512
こんにちは!執筆頑張って下さい!
103:48
rui76
ありがとうございます!
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初公開日: 2021年10月08日
最終更新日: 2021年10月09日
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書き上げたいけど、書き上げるとは言っていない。
ともあれ、頑張って書いてみます。